【連載小説】秘するが花 5
はざまの世 5
「お前は、胡蝶ではなく、
紅梅と関係がありそうだ」
わたくしが思ったことを、
赤の狐面が言います。
胡蝶の姿が見えなくても、
紅梅はそこにいました。
つまり、紅梅と一緒にいるのは、
胡蝶でなくとも良いということ。
わたくしの夢を、狐面たちは、
一緒にみているのです。
「何代か前の記憶、かもしれぬ」
新しい声が、
わたくしの頭の中に響きます。
「何代か前の記憶?」
問うわたくしには、
この声が亡き父の声に聞こえます。
「松明の炎を、他の松明に分ける
ことができるように、
霊魂は分裂していくつもの魄を生きる。
つまり、ひとつの霊魂の前世は、
魄の数はいくつもあるのだ」
一つの灯火が、
二つ、四つ、八つと
無限に増殖する様がみえます。
「魂は、
輪廻転生するのではないのでしょうか」
「分かれた一方は、
輪廻転生して、
一方が主さまと一つになる、
ということだ」
二つに分かれた灯火の一方が、
巨大な火柱に吸収される様がみえます。
その時、今までの沈黙を破って、
第四の声が聞こえました。
「選ばれし者の名を知るべく、
夢をみせよう」
気がつくと、
わたくしは夢の中にいました。
それは、青狐面の夢でした。
そして、赤狐面の夢でした。
しかとは見えなかった、
白い面の夢でした。
まったく見えなかった、
黒い面の夢でした。
わたくしは、
いくつも、
いくつもの夢をみました。
夢たちの中で、
長い、
長い時を過ごしました。
なんと、
わたくしは、
父や息子の夢さえみました。
長い夢路のその果てに、
地底から声が聞こえます。
聞こえてきたのは、
わたくしの前世の名。
そして、
わたくしの来世の名。
その名を知ってわたくしは、
思わず笑いました。
そこで、わたくしは、
夢から醒めました。