19世紀の“女性化石ハンター”、メアリー・アニングの人生にスポットライトをあてたフィクションラブストーリー『アンモナイトの目覚め』
こんにちはMです。すっかり春になりましたね。
私はスギ・ヒノキのアレルギー持ちなので、毎年この時期は抗生物質の助けを借りてようやく息が吸えるようになります。そしてお薬にプラスで、“花粉症に効く”と噂されるものは片っ端から試しています。少しでもマシになるのなら、と毎年そこそこ課金してしまい、去年は高級なハーブティー、その前はじゃばらエキス、さらにその前はピラティス…といろいろ試してきましたが、まぁ「少しはマシになったくらいかな」で毎年いつの間にか季節が終わります。今年は“太陽のビタミン”と呼ばれるビタミンDをサプリで積極的に摂取していましたが、これもまぁ「少しはマシになったのかな」というくらい…。うーん、来年は何を試そう……
さて、実のない話は置いておいて、本題に入りまーす。
新作映画『アンモナイトの目覚め』
今日は先週末から全国順次公開を迎えた『アンモナイトの目覚め』をご紹介します。
ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンという演技派女優の2人が初共演を果たした映画ファンならよだれものの作品で、19世紀に実在した女性古生物学者メアリー・アニングの人生の輪郭をなぞりながら想像で生み出された、美しいラブストーリーです。
1840年代、イギリス南西部の町ライム・レジス。母親とふたりで暮らすメアリー(ケイト・ウィンスレット)は、生活のために観光客向けの化石を売る店を営んでいた。そんな折、化石収集家である夫に連れ添ったシャーロット夫人(シアーシャ・ローナン)が店を訪れる。流産のショックで心を病んだシャーロットを療養のために、とメアリーのもとに置いて町を去った夫。生まれも育ちも違うシャーロットを最初は疎ましく思っていたメアリーだったが、高熱を出した彼女を看病するにつれ、次第に心を開いていくように。掘り出した化石を見つめるシャーロット、そんな彼女の美しさに気づいていくメアリー。ふたりの間にいつしかえもいわれぬ感情が芽生え始め、やがて深い愛の渦中へと沈んでいく―――。
メガホンをとったのは、ゲイの青年の恋を描いた『ゴッズ・オウン・カントリー』でカルト的な人気を誇るフランシス・リー監督。『ゴッズ~』と同様に少ないセリフで物語を魅せる手腕はお見事!そんな監督のスタイルと、ケイトとシアーシャの抜群の演技力が完璧に融合し、目線と表情だけで伝えられる豊かな感情が観る者の心を揺さぶります。
個人的にこの監督の好きなポイントは、自然の描き方。田舎育ちで自然の厳しさを知る監督は、決して美しいだけの飾りとしては見せず、ありのままを映し出すんです。曇天に荒れた海、吹きすさぶ潮風、優しさのかけらもないごつごつの岩場……。厳しい自然を切り取ることで、それと共に生きる人間の強さも描かれます。そして、細部にまでこだわっている自然界の音にもぜひ耳を傾けてほしいです。
映画の魅力を語り始めたら止まらないほど、ポイントがたくさんの本作なのですが、今回は主人公のメアリー・アニングのことを知ってもらいたくて記事を書きました。
古生物学の先駆者として活躍したメアリーですが、階級がすべての男性社会であった19世紀当時、女性であり労働者階級の身分であった彼女の発見と人生は歴史に埋もれ、生きている間に評価されることがありませんでした。“知る人ぞ知る偉人”である彼女がどれだけすごい人なのか、ぜひ知識を深めて映画を楽しんでください!
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メアリー・アニングの伝説的エピソードの数々
① 11歳で一家の大黒柱を目指す
1799年5月21日、貧しい家具職人の娘として生まれたメアリー・アニング。化石採掘を副業としていた父リチャードを11歳で亡くしたメアリー。学校にも行けなくなったメアリーは、兄ジョセフと共に父から学んだ技術(独学)で化石採集し家庭を支えようとする。
② 13歳で世紀の大発見!世界で初めて全身化石を発見!
1811年、わずか13歳で世界初となるイクチオサウルス(ジュラ紀の魚竜)の全身化石を発掘!偉大な功績であるが、化石は売り出され化石収集家ウィリアム・バロックの手に渡り、記録上はバロックの名前が載っていた。
③ 当時は誰も信じていなかった⁉ 生物の”絶滅”を証明
当時、化石の正体は解明しきれず、遠い地域から移動した生物と考えられていた。中でもメアリーが発掘した化石はどの生き物にも似つかない骨格を持ち、すでに絶滅した生物がいるという事を裏付けたといわれる。
④ 世紀の大発見は1度じゃない!24歳でも大発見!
24歳で完全に近い形のプレシオサウルス(ジュラ紀の首長竜)を発見、その後も新種の魚の化石や、ディモルフォドン(翼竜)の全身化石をドイツ以外で初めて発見するなど、世紀の発見はその後も続いた。
⑤ “糞の化石”を結論付けた発見も!
映画の中では、シャーロットの夫であるロデリックが糞の化石を見つけるシーンが描かれるが、メアリーは実際に糞の化石の存在を発見した。今では糞の化石から生物の食生活を研究するのは珍しいことではないが、その基礎を築いたといえる。
⑥ ダーウィンが“進化論”を発表できたのは、メアリーのおかげ!?
女性の活躍が認められなかった当時、本や論文の執筆は許されず、メアリーは独学で地質学や解剖学を身につけ、発掘した化石は詳細にスケッチし、男性学者たちに送っていた。メアリーの発掘する化石は質が大変良く、まがい物が一つもなかったため、当時の地質学者たちはメアリーの化石を研究に使用していた。“進化論”で有名なチャールズ・ダーウィンの「種の起源」は、メアリーの死後12年たって発表されたが、この書はメアリーの発掘した化石を元に研究をしていた地質学者たちからインスピレーションを得て唱えられたという。
⑦ ようやく認められた功績 異例の女性への追悼
女性の参加が許されなかったロンドン地質学会において、メアリーは死去数か月前に名誉会員に認定された。1847年3月、47歳で乳がんで亡くなった際には、長年メアリーと親交があり、金銭援助もしていたロンドンの地質学会会長デ・ラ・ビーチ卿が学会で追悼文を発表、当時では異例の事であった。
⑧ 「科学の歴史に最も影響を与えた英国人女性10人」の1人に
1998年、イギリス古生物学会はアマチュアへの賞をメアリー・アニング賞に改名し、2010年には王立学会が発表した「科学の歴史に最も影響を与えた英国人女性10人」の一人にも選ばれた。今ではロンドン自然史博物館にその肖像画が飾られ、聖ミカエル協会にはステンドグラスもある。
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ここまで読んだだけでも、どれだけすごい人なのかは十分伝わりましたよね⁉
でも、もっともっとメアリーについて知ってもらいたい!
実は科学的な評価のみならず、彼女が「人間としてすごい」ことを証明するびっくり逸話も数々存在するのです。
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まだまだある!衝撃の逸話たち!
⑨ 落雷で天才少女が誕生⁉
子どもの生存率が高くなかった時代、10人兄弟で成人になれたのは、3歳年上の兄ジョセフと、メアリー・アニングの二人だけだった。生まれつき体も弱かったメアリーは、生後15か月でなんと雷に打たれる。メアリーを抱きかかえ木陰で馬術ショーを鑑賞していた大人3名は亡くなってしまったが、メアリーは意識不明の状態から急いで救助されて意識を取り戻す。以降、これまでとは打って変わって元気で活発な子に成長。メアリーの天才的な才能は雷に打たれたことが影響したのではないかと密かに囁かれていた。
⑩ ”化石愛”が成せる業 命がけの仕事
メアリーが生まれ育ち、化石を発掘したライム・レジスはイギリスの上流階級の者にとっては美しい避暑地であるが、化石採集は厳しい冬の時期、嵐が崖を崩したところに化石が現れるのを待ち行われる。父リチャードは、結核を煩いながら化石発掘に励み、滑落のけがも伴い死去、愛犬トレイも採掘中の地滑りで事故死するなど、命がけの作業であった。化石を愛していなければ成せない業の数々。ライム・レジスを含む約153kmの海岸は「ジュラシック・コースト」と呼ばれ、ユネスコ世界遺産に登録されている。
⑪ 早口言葉のモデルにも!
英語圏で有名な早口言葉「She sells sea shells by the sea shore.」はメアリー・アニングがモデルと言われる。(日本の早口言葉で例えると「生麦生米生卵」くらいオーソドックスで誰もが知る早口言葉。しかしそのモデルがメアリーだということはあまり知られていない)
⑫ 13歳の少女がメアリー・アニング像建設に奮闘中!
世界にはメアリーを知る人は少ないが、地元ライム・レジスでは昔から愛されている存在。現在、地元に住む13歳の少女が、メアリー・アニングの像を立てるべく寄付を募っているそう。本作でメアリーを演じたケイト・ウィンスレットも寄付をしたそうで、死後170年たった今、歴史に埋もれたメアリー・アニングに注目が集まっている。
⑬ メアリーが発掘した恐竜たちがコインに!
英国王立造幣局より、メアリー・アニングによって発見された生物を取り上げた「恐竜シリーズ」のコインの発売がスタート。ジュラシック・コーストと呼ばれる地域で、メアリー・アニングによって発見された、かつて海と空を支配していた巨大な生物を描かれている。
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これほどまでの伝説をもつメアリー・アニング。そのまま伝記映画にしても十分面白そうなんですが(いつかそれも観てみたい…)、本作ではどこにも資料が残っていなかった彼女の愛の物語が基盤となり語られます。
またメアリーだけではなく、シャーロットをはじめとしたその他の登場人物も実在していた人物の名前で描いており、映画の中の関係と実際の関係を調べて比べてみるという新しい映画の楽しみ方もありますよ。
こんなにも魅力の詰まった女性なのに、残念ながら歴史にかき消されてしまったメアリー・アニング。映画を観てぜひ本人についても興味を持ってもらえたら嬉しいです。
●参考文献