卒業して3年、大学で200分デザインリサーチの授業をした話
こんにちは。note株式会社でUXリサーチャーをしている仙田です。
先日、母校の大学でデザインリサーチの授業をやりました。
50名以上の学生が参加する、200分の授業。めちゃくちゃ緊張しました。
学生同士でカバンの中身を見せ合ってインタビューを行い、相手の持ち物からその人を取り巻く環境を紐解いていく、という授業を設計しました。
まだ経験が浅いのにも関わらずこんな貴重な機会をいただくこともなかなか無いので、授業の構成や授業まで準備のプロセス、当日の振り返りを書いてみようと思います。
(授業の最終講評の様子は東海大学の公式サイトで公開されています)
どんな授業だったのか
僕が受け持ったのは東海大学教養学部芸術学科のデザインリサーチを主軸とした「デザイン実習」の8回目。ゲスト講師枠でお話ししました。
僕のゼミの担当教員だった富田先生の受け持つ授業で、ご縁あって今回お声がけをいただきました。
参加学生は大学2年生約50名。この学科にはデザインだけでなく美術や音楽を中心に学んでいる学生もいます。(楽器ケースを背負っている学生もちらほら)
このデザインリサーチの課題は「身近なフィールドを決めて、関係する人やモノ(アクター)を調査し、調べてマッピングした上でそこにありうる未来像を提案する」というもの。課題は「営みの循環」と題されています。
ちょっと抽象的ですよね。例を一つ紹介します。
例えば、フィールドを「町内にある掲示板」に指定したら、以下について調査します。
文献調査や関係者へのインタビューをしながら、フィールドに隠された価値や課題、人とモノのつながりや物語を可視化していくというもの。
そしてこの授業は今年が第1回目!まだ前例がないため、マッピングや可視化の手法は教員側も手探りだそうです。
そしてびっくりしたのが、授業のアジェンダや提出物が全て一つのFigmaファイルで完結していることでした。
過去の授業の内容や、他の学生の制作物も全部一覧できる形になっててすごい。
そして他にも豪華なゲスト登壇者がいてビビります。
メルペイのUXリサーチャーmihozonoさんが文化人類学の授業をしたり、opusrのデザイナーありぺいさんがUIデザインの授業をしたり。
最終講評にはユーザベースCDOの平野さんとリクルートのUXリサーチャーべぢまきさんが来るらしい。すごい。
自分が受け持った授業の構成
僕はその中で「ユーザーインタビュー」のコマを担当しました。
フィールドを探索する中で、関係者にインタビューをする場合もあるでしょう。そこでUXリサーチャーをしている僕に白羽の矢が立ったとのこと。
学生も目的を持ったインタビューをする機会はなかなかなさそう。
課題テーマに沿って、相手の価値観、取り巻く環境を深掘っていく感覚を実感してもらうことを目的に授業を設計しました。
紆余曲折の末、授業の内容は「ペアになってカバンの中身についてインタビューする」というシンプルなものに。
その人の価値観や取り巻く環境などを辿っていくヒントが、カバンとその中のものには秘められていると考えたからです。カバンの底のぐしゃぐしゃのレシートとかにその人の性格や普段の生活が出そうだなと思いまして。
自分のインタビューを録音して聞いてもらったり、マッピングのワークを挟んだりと、可視化と振り返りをこまめに挟みました。
そして(後日宿題で)カバンの中身をもとに紐解いたアクターマップを作成してもらいました。
ここからは細かい授業の構成について紹介します。
1.ユーザーインタビューのコツやポイントについて軽くインプット
まず自己紹介をしてから、今日これから行うインタビューは普段の雑談とどう違うのか?を伝えました。
目的を持つのは大事だけど、自分が気になったところをどんどん聞いていいんだよ、的な話をしました。
2.自分が先生の鞄の中についてインタビュー
学生にやらせる前にまずは自分が実演!ということで、大学の先生の鞄の中身について10分ほどインタビューを行いました。
カバンの中にあったハンドクリームから、美容品のデザインを手掛けている話になり、大学の教育や研究とは異なる仕事の話に広がりました。
その後に富田先生に質問の意図についてツッコミをもらいながら解説する時間を作りました。「ここでこの質問をしたのはなぜですか?」みたいな対話形式で。
3.鞄の中身ペアインタビュー(1回目)
いよいよ学生同士でペアになり、お互いの鞄の中身について10分インタビューをしてもらいました。(あえて仲良くない人と話してもらうため、ランダムペア)
ペアになり、カバンの中身を広げてお互いにインタビューをしてもらいます。
今回、ワークが終わるごとにFigmaに感想を書き込んでもらうスタイルにしました。どんなことにモヤモヤしているのか、都度確認してアドバイスするようにしました。
4.アクターマッピング事例の共有
学生がペアインタビューをしてる間に、先ほど僕が先生に行なったインタビューを元にマップを作成。
お手本がないとこの後の作業ワークで迷ってしまうかなと思い、急遽作りました。
5.インタビューの録音をじっくり聞き返す
CLOVA Noteという録音&文字起こしアプリをスマホにDLしてもらい、各自のインタビューの録音してもらっていました。
そしてインタビュー後、個別にイヤホンをして録音を聞き返してもらい、振り返りと改善点を書いてもらいました。
自分の発言を聞くことでメモの書き漏れに気づいたり、会話の改善に気付いた学生もいたようでした。
6.アクターマップの作成
インタビューで聞いたメモや文字起こしのデータを元に、相手の鞄の中身や取り巻く環境をマッピングする作業をしてもらいました。
先ほどのお手本のせいもあってか、カバンの持ち主を中心に配置し、関係性のマップを広げる学生が多かったです。
7.もう一度同じペアで10分ずつインタビュー
先ほどと同じペアでもう一度インタビューをして貰いました。
1回目のインタビューと、録音の聞き返し、マップ作成を通して感じた改善点、反省をすぐ実践してほしかったためです。
しかし1回目は元気に話を聞いていた学生達も、2回目になるとさすがに疲れの色が見えており、席を移動するまでの動きもゆっくりに。「最初の1回目で聞き切った!」言う学生もいました。
9.マッピングのブラッシュアップ
なんとか2回目のインタビューを完了。
これで合計20分ほど、ほぼ初対面の人のカバンについてヒアリングをしたことになります。
みんなかなりぐったりしているように見えましたが、会話をもとに先ほど作成したアクターマップをブラッシュアップ。
本日の授業はこれにて終了!
マップの完成は来週までの宿題となりました。
後日、宿題の作品を共有してもらったので、一部を紹介。 想像の10倍位のクオリティーでアウトプットしてくれて感動しました。
もう1人の学生の課題作品。
授業するまでの紆余曲折
ここからは自分の振り返り&学びの整理のために、授業をするまでにやったことと考えたこと、そして学びを記録。ほぼメモです。
授業の方針決め
富田先生から「いつかUXリサーチの授業をお願いしたい」聞いてましたが、正式な依頼は9月ごろ、LINEで受け取りました。これは授業の約2ヶ月前のこと。
その後、とあるデザインイベント終わり、渋谷のバーで深夜1時くらいに授業設計の相談をしました。
酔ってて記憶が曖昧ですが、僕の授業を通して、「話を聞く時に大事なアティテュード(姿勢)を伝えたい」と言われたことだけは覚えてます。
1回の授業でアティテュードって伝えられるんだっけ!?と思ったのが最初の感想でした。
自身のアティテュードは、富田先生や他の多くの人々との会話や経験を通じて長い時間をかけて徐々に形成されてきた感覚があり、人から直接教わるものでも無いし、一度の体験で大きく変わるものでもないと思っていました。
どうしようと思いながらその日は眠りについたのを覚えてます。
何はともあれとりあえず先生と現役ゼミ生に相談。3時間くらいオンラインで話したと思います。
この時点で決まっていたのは、「インタビューに関する授業をする」ということだけ。
学生も日常的に行なっている「話を聞く」という行為に特別感、学びを感じてもらえるかがかなり不安でした。
普段仕事でやっているビジネス的なユーザーインタビューのコツを話しても、この授業テーマにはきっと沿わない。
しかし議論していくうちに「実際に探索型のインタビューやフィールドワークでは、本来聞く予定じゃなかったところから面白い話が聞けたりするよね〜」と盛り上がり、結局「辿り力」が大事なんじゃね!?という話に行きつきました。
「辿り力」とは、目の前の会話ででてきたものから、面白い方に辿っていく力、とこの時勝手に決めました。
そもそも200分の講義は自分だったら確実に飽きてしまうので、実践ワークとして学生同士でインタビューをしてみる方針に固めました。
インタビューのテーマはどうする?
次はインタビューのテーマ決め。何についてインタビューをしてもらえばいいんだろう?とこちらも悩みました。
同世代でもそれぞれの価値観や色があらわれるテーマにしたいなぁと考えて思いついたボツ案たちが以下。
実家の話や家族の話(その家独特のルール)
スマホのホーム画面
SNSでフォローしてる人
どれもその人独自の価値観やマイルール、趣味が出て面白いと思ったけど、情報公開に抵抗がある人も多そうだなぁと思ってボツに。
先述の通り、カバンの中身ならプライバシーにも一定配慮しつつ、「カバンの底のぐしゃぐしゃのレシートとかにその人の性格や普段の生活が出そう」という結論に。
事前に学生に、「見られたくないものは持ってこない方が良い、中身を全部見せる必要はない」旨を通知しました。
先にテーマを決めてしまったけど、肝心な学生が何を聞き出すことを目的にインタビューするのか決めていませんでした。ここを決めないと、本当にただ話を聞くだけになってしまう。
議論の末、インタビューの目的は「相手をとりまくアクター(人、モノ)を明らかにする」に。カバンの中に入ってるモノから相手の価値観や取り巻く環境を探っていく方針にしました。
かなり抽象的なインタビューのテーマ設定になってしまいましたが、学生がどのようにインタビューを展開していくのか、授業を通して実験するくらいの気持ちでいいのでは?と先生に助言をいただきました。
そんなこんなで授業の大枠が決まったので、引き続き富田先生やmihozonoさん、うえだりさんというアカデミック知人に相談をしつつ、授業の時間割をmiroで作っていました。(この場を借りて感謝🙇)
スライドは当日の行きの電車と駅で超特急作成。大学が家から遠いことが幸いしました。
ちなみに授業当日、想定していた時間割通りに授業は全く進まず。
授業中に「先にお手本のワークをしたほうがいいんじゃない?」など富田先生と話し合いながら順番を前後させて実施しました。ライブ感ありすぎた。
授業を終えて。
教える側も、学生と一緒にわかっていく
この授業、今年が第1回目なので、先生自身も明確な答えを持ってないと言っていました。
自分が学部生の時から、富田先生は学生の話に熱心に耳を傾け、「なるほどそういう考えもあるよね〜」と、常に学生から学ぶ姿勢が印象的でした。
当の僕は、初めての授業に緊張して、明確な答えを学生側に示さなくては、と気張ってしまっていましたが、むしろ学生と一緒に答えを探っていき、一緒にわかっていくくらいでいい。
誰からも学ぶことはあるし、一方的に教えるだけの関係性はない。(もちろん授業の設計はちゃんとするけど)
その姿勢は一生忘れないでいたいなと思うのでした。
学生に喜んでもらうことがゴールじゃない
授業中、後半になるにつれて明らかに学生に疲れの色が見えてきた時、「どうしよう、みんなつまらなそうだし、しんどそう」と感じ、つい学生の負担を減らすために突っ込んだ質問を避けたり、ワークを減らそうとしていました。
ただ、後ほど先生に「結構学生に合わせようとしてたね。でももっと自信持っていいと思う」と言われました。
先生も確かに学生に負荷がかかる授業だと思っていたが、逆に何も負荷がかからない授業はそれ相応の経験や学びしか得られないのでは?という話。
その話でハッとさせられました。
僕が大学で一番印象に残っている授業は、とても大変で苦しんだけど、終わったときの達成感が大きかったです。その授業がきっかけで、デザインを本気で学ぼうを思ったのでした。他にも「あの授業今思えばすごいよかったな」と感じることが度々あります。
苦しんだ学生もいたけれど、後日見せてもらったマッピングのアウトプットが素晴らしくて、これくらいならみんなついてきてくれるんだな、ちょっと苦しい思いをさせてしまったけど全然良かったかもしれない。と思い直したのでした。
社会人相手のワークショップやLTでは、その場で「面白かった!」「勉強になった」と言ってもらえるように設計しちゃいますが、学生相手の授業では必ずしもそれが正解ではないかもしれないです。
参加者50人全員に何かを伝えるのは難しい。
それを諦める訳ではないけど、たった1人の学生にでも何かが届き、いつか「あのときにnoteのアイツがやった授業、地味に勉強になったな」「あの授業の経験、今の仕事に繋がっている部分があるな」と感じてくれたらそれでいいんだなと。
自分が伝えたいと思っていた「話を聞くアティテュード(姿勢)」は、たった1回の授業で伝えることはできなかったかもしれないけど、長い人生で徐々に形成されるアティテュードの一助にはなったなら嬉しいです。
誰より自分自身が大きな学びを得ることができる素敵な経験でした。
Research Advent Calendar 2023 の18日目の記事でした。
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