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若年女性の生きづらさから考えるSDGsジェンダー平等「ここに居ていい」と思えること【イベントレポ①】

仙台市とせんだい男女共同参画財団では、若年女性が抱える困難の実情を知り、必要な支援やこれからの取り組みについて考えるイベントを開催しました。本記事では、報告・トークセッションの様子をレポートします。



令和4年度に実施した「仙台市 女性・若者活躍推進会議(以下、会議)」と「仙台市 女性の暮らしと困難に関する実態調査(以下、調査)」から見えてきた課題を共有し、これからの支援や社会のあり方を探るこのイベント。
冒頭、調査のアドバイザーであり、ジェンダーの専門家として幅広く活躍されている大崎麻子さんからキーノートスピーチをいただきました。

キーノートスピーチ「若年女性支援という視点~国際ガールズ・デーに寄せて」

大崎氏によるキーノートスピーチ

国際ガールズ・デー制定の背景

  • 1995年の第4回世界女性会議で「ジェンダー平等と女性のエンパワーメント」が国際的な目標として採択されたが、「ガールズ/女の子」という言葉は入っていなかった

  • 2000年代に入り、国際NGOプラン・インターナショナルが子どもたちへの支援活動の中で、児童婚や望まない妊娠、ケアワークによる教育機会の中断など女の子が受ける差別、搾取、暴力といった「女の子特有の問題」があることに着目し、 “Because I am a Girl” キャンペーンを開始

  • プラン・インターナショナルの提言を受け止めたカナダ政府が国連で発案し、2012年10月11日を初の「国際ガールズ・デー」に。女の子の権利、女の子のエンパワーメントの促進の呼びかけや、影響力のある人への働きかけをおこなっている

国際ガールズ・デーが目指すもの、新たな動き

  • 女の子のエンパワーメントは自己決定しながら生きる力を身につけていくことで、「健康」「教育」「経済力」「参画(政治・社会)」の4つの力が必要

  • 最近は女の子のリーダーシップも重要視されている。エンパワーメントされた女の子たちが集まると、社会の仕組み自体がおかしいことに気づき、連帯して社会を変えていこうという動きが生まれる。変革をリードするリーダーシップが女の子たちに期待され、世界中で広がっている

ジェンダー平等と女の子のエンパワーメントを同時進行で

  • 女の子のエンパワーメントと同時に、私たちの社会、経済、職場、地域でのジェンダー平等推進を両輪でおこなうことが重要。今、最も注目されているのが労働市場におけるジェンダー不平等。せっかく女の子をエンパワーメントしても、受け皿が不平等なままではその力が生かされない

  • 日本の女の子は自己肯定感が著しく低いというプラン・インターナショナル・ジャパンの調査結果もある。自分が人の役に立っているかが自己評価に大きく影響している。様々な場に積極的に関わり、自分の意見を聞いてもらえる成功体験を積み重ねることが必要

  •  ジェンダー主流化の根本は、男女別データ、ジェンダー統計をしっかりみて現状を把握すること。仙台市の今回の調査は、男女間のギャップの背景にある問題を検証し、施策を打ち出すための重要な一歩

報告・トークセッション

まずは仙台市がなぜ若年女性に焦点を当てた会議や調査に取り組んだのか、その背景や問題意識を共有し、その後3つのテーマで議論しました。

◆スピーカー
大崎 麻子氏(特定非営利活動法人Gender Action Platform 理事、関西学院大学 総合政策学部 客員教授)
神林 博史氏(東北学院大学 人間科学部 教授) 
仙台市長 郡 和子
◆コーディネーター
足立 裕子氏(河北新報社 編集局 生活文化部長)
◆報告
東田 美香氏(特定非営利活動法人キミノトナリ 代表理事)
西山 祥子(仙台市 市民局 市民活躍推進部 男女共同参画課長)
牛井渕 展子(公益財団法人せんだい男女共同参画財団 エル・ソーラ仙台 管理事業課長)

※役職・肩書及び組織の名称は開催当時のもの

若年女性に焦点を当てた背景や問題意識

仙台市とせんだい男女共同参画財団の担当者が、女性の就業状況の悪化やDV被害の増加など、ジェンダーに起因する女性の困難がコロナ禍でさらに深刻化している状況を踏まえ、仙台市内の若年女性が抱える問題やニーズを明らかにし、支援施策の方向性を探ることを目的として会議や調査に取り組んだことを説明。
仙台市長を座長に、関係局も参加し民間の支援団体等と意見交換した会議を通して、「若年者は自身の困難に気づきにくい」「安心できる居場所と信頼できる大人の存在が必要」「支援が途切れないように支援者間の連携が必要」などの課題がみえたことが報告されました。
調査については、若年女性の困難の背景にあると考えられる過去の傷つき体験や子ども期の貧困に注目して設計・分析したこと、調査結果として生きづらさや困りごとを抱えている割合が高く、心の健康状態が悪い傾向がみられることが報告されました。

「仙台市 女性の暮らしと困難に関する実態調査」より

市長:支援団体の方々から具体的な支援の内容、当事者の皆さんの現況をうかがい、想像以上に厳しい状況に置かれていることを実感する貴重な機会となった。若年層へのアプローチには、支援団体が持つ熱意や知見が不可欠であり、行政が今後も支援団体と強固なネットワークを築いて連携していくことが何よりも重要だと実感した。
 
大崎:国の「女性版骨太の方針」が2022年から抜本的に変化し、この国の姿勢が女性活躍からジェンダー平等に転換してきたと感じる。「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」の提言が大きな動機づけとなっている。この提言では、コロナ禍による直接的な影響だけでなく、それ以上に平常時における構造的な格差・不平等が問題だということを、暴力・経済・健康・無償ケア労働の4つの側面で分析した。男女間の賃金格差や税と社会保障制度の問題など、日本政府がずっと手を付けてこなかった構造的な問題に着手できたのは、男女別データに基づく分析と政策提言の影響が非常に大きい。まさに、ジェンダー主流化アプローチである。また、2023年に施行された「こども基本法」や、2024年に施行される「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」など、市民社会の後押しもあって法律の整備がどんどん進んでいる。自治体レベルでもしっかりとした施策が必要になっているので、今回の調査の結果をぜひ生かしていただきたい。

SOSの難しさ ~本人が気づくために

子ども時代の家庭での傷つき体験は相談しづらく、回復しにくいこと、困りごとがある人ほど受援力や自己肯定感が低いなどの調査結果から、「困難を抱えている人ほどSOSが出しづらい」という課題がみえてきたことが報告されました。
それを受けて、支援につながるためには「本人が気づく」「まわりの社会が気づく」という両面からアプローチが必要ということを確認しました。

「仙台市 女性の暮らしと困難に関する実態調査」より


「本人が気づく」ための仙台市の取り組みとして、市内の専門学校生と作成しているマンガを紹介。若年女性の目線でどのような内容、ボリュームなら伝わりやすいか意見交換を重ね、支援団体にもヒアリングしながら今年度中に3~4点のマンガを公開することが伝えられました。

マンガで伝える取り組み

足立:DV家庭で育った方から、今振り返ると父の顔色をうかがっていつもビクビクしていたが、子どものときは他の家のことは分からないから、叩かれたり殴られたりしても普通だと思っていたという話を聞いたことを思い出した。困難な状況にある本人が自分の状況に気づくためには情報や知識を得ることがとても重要
 
市長:紙媒体を使って丁寧に広報する部分も大切にしながら、SNSなど若い方々に訴求できるツールを有効に活用しなければいけない。マンガの取り組みのように、大人が上から目線で言うのではなく、同じ目線に立って伝えるような仕組みを広げていけたら状況が違ってくるかもしれない。民間の支援団体ともタッグを組んで、行政の敷居を低くしながら本人が気づくためのアプローチを続けていきたい。
 
大崎:厳しい家庭状況があるという前提で考えると、公教育で権利・尊厳・人権の基本なところをしっかりと伝え、知識・情報の格差が生まれないようにすることが大事。自分のからだもこころも自分のものであり、他の人たちもそうだということ、暴力と搾取の形態、嫌だったらNOと言っていいこと、自分が被害にあったときにつながる先の情報も含めて、公教育で充実させる必要がある。

SOSの難しさ ~社会が気づくために

SOSが出せない人に、社会の側はどんなアプローチができるのか。考えるヒントとして、「助けになる人や場所があれば、困難を抱えるリスクを軽減できる」という調査結果が報告されました。
子ども期の貧困は現在の困難と強く関連しているものの、一方で子ども期の暮らし向きは苦しくても現在困難を抱えていない人には、15歳当時に周囲の大人からの適切な関わりがあったという調査結果や、周りの人による「前のめりの支援」を求める当事者の声を紹介。

「仙台市 女性の暮らしと困難に関する実態調査」より

「社会が気づく」ために、仙台市はアウトリーチ型の相談事業として、夜間の居場所「トナカフェせんだい」の実施や繁華街での夜回り活動をしています。市から委託されて「トナカフェせんだい」を運営する特定非営利活動法人キミノトナリ代表の東田美香さんに、若年女性の傾向や支援のあり方について、コメントをいただきました。

東田氏によるコメント

東田:居場所がない、誰かと話したいと思ってカフェに来る方がほとんど。虐待、過干渉、教育虐待を受けている場合や、家族との折り合いが悪く家に居場所がないと感じている方、仙台以外の市町村や東北の他県から、仙台に行けばなんとかなると就職先も進学先も決めないで出て来て、職場のいじめなどで仕事を辞めてしまって経済的に困窮している方も多い。自傷行為、オーバードーズ、摂食障害、精神的な問題、コミュニケーションに課題を抱えている方、さみしい、一人でいたくないという方が足を運んでいる。
ファストファッションが普及し、見た目では経済的な困窮やその人が抱える大変な思いは分かりにくい特に女性はおしゃれやファッションで「標準に擬態する」のが上手。他人を表面的にしか見られない人はその人の困難に気づけない。困難を抱える女性を見つける目を持つためには、とにかく自分の人間力を上げること。この国に女性として生まれて生きづらさを感じたことがない人はいない。
若年女性に接するときには、絶対に上から目線にならないように気をつけている。大人との間で支配/被支配、搾取/被搾取の関係を学習してきている方が多いので、平等に接すること、彼女たちをリスペクトすることを心がけて日々活動している。

市長:彼女たちの心のよりどころになっている活動に対し、あらためて感謝申し上げたい。この事業を通じて女性たちの厳しい状況を表面化できていることは本市としても大きなことで、安心できる社会を構築するために何をすべきなのかを考える材料になっている。大崎さんのお話にあった公教育の取り組みをはじめ、全国の先駆けになるような取り組みを考え、進めていきたい。
 
大崎:今日お集まりの方々は女性や女の子の問題に関心がある方、活動をされている方が多いと思うが、東田さんの取り組みにあるようなジェンダー主流化の視点を学校、教育、福祉の現場で子どもやユース関連の取り組みをしている関係者に浸透させていくことが重要。行政には、ぜひそういう場をつくっていただきたい。
 
足立:仙台圏でも若年女性に対するさまざま居場所の提供、食堂、夜カフェ、シェルター、労働生活相談をする場が徐々に広がっている。学校の関係者や地域の民生委員・児童委員、PTAの方、ご近所の方たちが、センサーを働かせて、支援につなぐことが大事。行政には、そのセンサーと各相談先とをつなぐハブ機能の強化を期待したい。

経済的エンパワーメントの重要性

ここまで議論してきた、困難な状況にある本人が自らの状況に気づくこと、周囲が積極的にアプローチすることと同時に、困難を生み出す大きな要因となる経済的な格差をいかになくしていくか。関連する調査結果として、現在の困りごとの1位として「家計が苦しい」が挙げられたこと、子ども期の貧困が現在の様々な困難やライフコースでのつまずきと関連していること、交際相手や結婚相手に自分以上の経済力を求める割合の高さが報告されました。
まずは大崎さんとともに調査のアドバイザーを務めた神林博史教授から、調査結果を深く考えるためのポイントについてコメントをいただきました。

「仙台市 女性の暮らしと困難に関する実態調査」より

神林:一つ目は、困難は不利な人に偏りやすいということ。災害やコロナのように社会が大きく混乱する状況になると、不利の偏在が顕在化しやすいことは多くの国で確認されている。二つ目は、子ども時代に不利な状況にあった人ほどその後の困難を経験しやすいこと。若年女性の困難の原因の少なくとも一部は子ども期の貧困にある。子どもは親を選べず、子どもの貧困は子どもの自己責任ではないので、その延長線上にある成人後の困難も自己責任と切り捨てられない。三つ目は、応急措置と予防措置。現在困難を抱えている方々への支援はもちろん大切だが、それは病気や怪我でいうと応急措置であって、困難に陥らないようにする予防的な措置も必要。社会疫学や公衆衛生などの研究分野では「下流」と「上流」に例えられる。下流で流されてきた人を助けるだけでなく、上流で川に落ちる人をなんとかしないと根本的な解決にならない。四つ目は、今回の調査は若年女性の困難に注目したが、実際は社会の他のグループの人たちも若年女性とは違ったかたちで困難を抱えているということ。例えば中高年の男性は自殺者数が多い。中高年男性は男女間格差の文脈では既得権を握っている人々のように言われることが多いが、一方で中高年男性に期待される社会的・経済的地位から外れてしまうと、かなり脆弱になる側面もある。

神林氏の資料より

続いて、若年女性の困難の軽減・解消の鍵を握る経済的エンパワーメントにどう取り組んでいくか、議論を深めました。

大崎:国の「女性版骨太の方針」でも、2022年・2023年と女性の経済的自立という言葉を全面に出している。若年の単身女性は非大卒女性を中心に非正規雇用労働者が多く、未婚・非婚化が急速に進んでいる。就職氷河期にあたる女性たちがこれから中高年になっていく中でさらに貧困化が予測されており、神林先生の言うとおり上流でどう防ぐのかが大事。
このような問題を受けて男女間賃金格差の可視化が施策の目玉として登場した。男女間賃金格差はジェンダー不平等と間接的な差別を可視化すると言われている。職階や雇用形態による格差、低報酬の職種に女性が集中していることが賃金格差の要因。雇用制度、評価、採用などに根強くバイアスが残っていること、無償ケア労働の負担が女性に著しく偏っていることも大きな障壁となっている。兵庫県豊岡市では、人口減少や若年女性の流出への問題意識から、女性が働きやすく、フェアに評価される職場づくりを官民連携で進めている。
また、女の子・女性たちが自分で自分のことを決めるということが大事。それは単に自分の人生の自己実現ということだけでなく、いかに社会を良くしていくか、職場を良くしていくかということ。例えば就職活動中にサステナビリティという軸で良い企業を選ぶことが、良い社会につながっていく。
「ここに居ていいと思える社会」の根っこは人権。私が今一番期待しているのはビジネスセクター。ビジネスセクターが動くと社会全体が動いていく可能性が高いので、ビジネス、教育、行政、いろいろな主体が一緒になって、人権を根っこにした考え方・活動を広げていけたらいいと思う

大崎氏の資料より

 神林:労働法、生活保護、男女間格差の現状や性教育を含めて、生きるための基礎知識を義務教育などの早い段階で子どもたちに教えることが、エンパワーメントのために重要だろう。一方で、女性の不利を生み出すのはかなりの程度社会の構造の問題であり、個人的な努力でどうにかできるレベルをはるかに超えている男女間格差を生み出す社会の構造を変えるには、政府だけ、企業だけが頑張ればいいというわけではなく、とにかくいろいろな面からできることを積み重ねていくしかない。「ここに居ていいと思える社会」につながるメッセージとして、男女間の賃金格差の研究でノーベル経済学賞を2023年に受賞したクラウディア・ゴールディン氏の次の言葉(下記資料参照)を紹介したい。

神林氏の資料より

市長:一人ひとりが輝けるまちをつくっていくためにも、経済的エンパワーメントが必要で、社会の根底にあるジェンダー不平等やアンコンシャス・バイアスの解消が不可欠だとあらためて認識できた。行政が率先し、また皆さんと連携して取り組まなければという思いを強くした。
 
足立:居場所ってなんだろうと考えると、安心して自分らしくいられる場所、心の安全基地・よりどころかなと思う。必ずしも「場」ということではなく、信頼できる人とのつながりを持つこと、同時に男女がともに自立できる職場や地域をつくることが重要だと認識できた。そういった地域や社会をつくっていくのは私たち一人ひとりであり、行動する人がこのまちに増えれば、必ず前に進んでいける

トークセッションの様子(写真左から足立氏、郡市長、大崎氏、神林氏)

参加者の声

  • ジェンダー平等に関する動きが近年加速していることについて、コロナ禍での問題の顕在化が大きなきっかけであることが分かり、一時的な流れではなく社会の根本的な意識変化であると理解できて安心した

  • 調査によって実態の一部が可視化されたことは、具体的な取り組みを考える糸口として意義があったと感じる。目の前にいる若者を上からではなく、力が発揮できるように支えたい

  • 違和感を持てる人間力。難しいかもしれないが、その向上に取り組みたい

  • 男女間賃金格差についてもやもやしていたが、情報開示の義務化がスタートしていることを知り、自分の職場の格差も調べてみたいと思った

  • 今回は若い女性がテーマだが、他の年代の女性、高齢者、男性、それぞれの悩みに幅広く対応することが必要だと感じた

参加者から寄せられたメッセージ

同イベントで開催した支援団体 活動紹介ブース、アフタートーク、リレースピーチについてのレポートもぜひご覧ください。

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