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あれから年をとりまして
高校一年生の冬。
先に書いておくと、記憶がところどころ薄く、内容もあっさりしたものなので、そこはご愛嬌ということで。
ひとり、私服で溝の口にいたときだ。平日の19時から20時頃だった気がする。
駅前で、一人の男性に声をかけられた。坊主頭で、縁なしメガネをかけた30代半ばくらいの男性。
「あの、アンケートをやってまして、今よろしいですか。」
ただ町を散策していただけの僕は、当然暇だったし、当時16才の少年にとって、街中でアンケートをと、声をかけられるのは珍しかったうえにそこまで抵抗がなかった。
僕に声をかけていた男性は、威圧的な雰囲気は一切ないものの、体だけ僕に向けて、顔と目は僕のかなり右側を見つめながら声をかけてきたので、そこが少し怖いような不安なような、(とにかく変な感じの人だな)とは思った。
そしてそこから、どんな内容のアンケートだったかあまり覚えていないが、一つだけ覚えていることがある。
『世界が平和になるためには、どうなる必要があると思いますか』
最後にこんな質問があった。そして、サイン色紙ほどの大きさの寄せ書き。
思わず、「何が、どうなる必要があるのだ」とツッコみたくなるところでもあるが、寄せ書きの中身を読んでみると、
「Love & Peace」
「みんなで手を繋ごう!」
といった感じの一言が寄せられていた。
なんとなく「(ああ、この程度のノリのアンケートなんだな)」と思ったが、当時の僕にはこういった『軽いノリ』が照れくさかった。
だから僕は「戦争がなくなりますように」と用紙に寄せてみた。どう見ても、僕が書いた内容だけ寄ってはいなかったけど。
これが終わると、ありがとうございましたとなって、別れ際に男性から「お仕事帰りですか?」と聞かれた。
僕は咄嗟に「いえ、高校生です。」と答えて、どちらからともなくその場を立ち去って、事は終わった。
丁度そろそろ家に帰ろうと思ってた僕は、駅に向かって電車に乗った。
僕はこの当時から、二十歳を超えて見られることが多かったため、慣れてはいたが、アンケートの対象として間違ってなかったかな、など色々心配になった。(アンケート内容は、しょうもなかったけど)
そして帰りの電車の中で、今日は仕事帰りの気持ちを想像して帰ろうと、心に決めたのを憶えている。
この文章を書いている今、時は丸十年が経とうとしている。
仕事帰りの気持ちなんて、学校帰りのそれと違うところは全くなかったと言っていい。
でも今、学校帰りってどんな気持ちだったんだろうと思い返してみる。すると、記憶を手繰るよりも、想像を巡らす方に走ってしまう。
少なくとも、僕の周りの世の中は平和だった。