プリーズ・ティーチャー
小学校三、四年生のお話。
まず二人のクラスメートを紹介する。
一人目はS君。
彼は活発な子で運動が出来た。ただ少々自己中心的で、人にいたずらしたり、茶化したりすると度々先生に怒られるような問題児でもあった。(余談だが、彼は中学生になると本当にグレていた)そんなS君はクラスでは少し煙たがられる場面がしばしば見られた。嫌われているというほどではなかった気がする。
二人目はN君。
彼はクラスでは穏やかな上、割と愛されキャラとして通っていた。それはクラスに留まらず学年全体でも共通認識であったのだが、その理由は彼の容姿にあったのかもしれない。N君は年中半袖を着た絵に描いた肥満児だったのだ。いや、絵に描いた半袖を着た年中肥満児だったのだ。
これは個人的な経験による見解となるが、平和的なオーラと贅肉を纏う肥満児は、学年に一人はいて、尚且つ愛されてる印象がある。彼もその例に漏れないオールドスクールなファットボーイということだった。
特に普段の生活で大きく交わることのないこの二人が、ひょんなことから対峙してしまった。
もちろん、その渦中にいたのが僕だった。
休み時間の教室で、僕は自分の席に座っているとN君がやってきた。N君とは互いに存在を知っていたものの、二人で話す機会がこれまであまりなく、言わば仲良く成り立てといった関係性だった。彼は一人っ子のためか、親、クラスメートに愛されながらも、まだ愛され足りない様子で僕のもとに来ていた。
そんな二人で話しているところに、S君が僕にちょっかいを出しにきたのだ。
このちょっかいの内容は正直よく憶えていないが、それで十分なくらいにどうでも良いものだった。
実は僕とS君は、幼稚園からの幼なじみで親同士でも関わりがあるほどの知った仲でもあった。そのため、僕はS君をいつものように「うるせぇーなぁ」とあしらった。
すると突然、N君がS君に食ってかかったのだ。お腹が空いているわけではなさそうだったので、何かに怒ったに違いない。本当のところ、ちょっかいを出してきたS君を僕が嫌がっているように見えたための正義感らしかった。
正直、僕は戸惑った。S君にされたこと、僕自身は何とも思っていないんだけど・・・・・・くらいに受け止めていたのだが、N君のS君への怒りようが本気だった。
次第に二人はあろうことか、どうでも良くなってる僕の前で激しい言い合いになったのだ。
決着はすぐに着いた。S君がN君をデブ呼ばわりしたら、N君はプリンの茶色いところだけを渡されたようなショックで泣いてしまった。
事態を聞きつけた先生が遅れて現れる。
先生は、泣いて話が出来ないN君をよそに、僕とS君から事情を聞いた。
さて、本件。どう説明しようか。
僕は全く冷静だったので、思い出しながら起きた事実を順に先生に説明出来た。これがとてもうまく伝えられた手応えがあった。
しかし、この話を受けた先生は、泣かした当のS君よりも、僕を追及してきた。先生の解釈だと以下のようになるらしい。
《S君からのちょっかいからN君は僕を守ろうとした。結果的にそれは失敗してしまったが、僕はなぜ庇ってくれた友達を傍観していたのか、それはひどいじゃないか僕》と。
僕としては、目の前で勝手にヒートアップされた感が否めず、なぜ責められたのか納得が行かなかった。今の僕なら、必ず上訴しているだろう、最高裁まで戦う覚悟だってある。
ともあれ、泣いてるN君はなんだか可哀想だったので、僕はN君に「見捨ててごめんよ」的なニュアンスで謝って本件は終息した。
この国では、刑の確定後に掘り起こして裁判し直すことは出来ない。
だからこそ、ミスジャッジで不幸を広げてしまわぬように。
プリーズ・ティーチャー