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登場人物全員正直者

今回は、僕が専門学生だった頃の話。

新宿区の専門学校に通っていた僕は、入学して一年経ったとき、友達の働いている某飲食店(大久保駅近辺)で働くことになった。

その友達の名は「J」、フィリピーノだ。

日本語もタガログ語も英語も喋れるトリリンガルである。ただし、これは友達として誤解のないように言っておきたいのが、彼はバカだ。普段から憎たらしいけれど、なんだか心から嫌いになれなかった僕は彼と同じバイト先を選んだ。(ちなみに本文ではイニシャルトークにしているが、彼の実際のあだ名も「J」であるのは話とは無関係な補足)

それなりに楽しく半年間ほど働いたところで、同じクラスの「U」もバイト仲間に加わった。こうして、同じクラスの3人で同じバイト先に勤めることになった。シフトもよく一緒になっていた。

バイトでは、店内で料理の調理から提供まで行うことと、店舗近辺へのデリバリーサービスも行っていて、その宅配も僕ら3人でやることが多かった。

当時の僕は原付免許がなかったので、自転車で。

JとUは免許を持っていたので50ccのバイクで宅配をしていた。このことから、素早く届けるという宅配の性質上、やや遠方より先の住所はバイク組にやってもらうのが主流だった。

ところが、僕の宅配技術(芸術)が仲間内で好評だったこともあり、それを理由にしばしば東中野や戸山といった、離れたところへも自転車でお届けに励んでいた。ただ、学生時代の僕にとっては繰り返しの宅配の仕事はマンネリ化した時期もあった。

そんなある日のバイト終わりに、Jがニヤニヤと僕に話しかけてきた。

「今日、東中野の宅配行ったら、女の人がバスタオル一枚で出てきて、そこからポロンって」

これを日本語に訳すと、宅配で出迎えられた若い女性の裸が眼前で露わになったということを言いたいらしい。

予め明記しておくと、もちろんこれは偶然起こってしまったハプニングである。

でも僕はその話を聞いて率直に思った。自転車に乗ってより早くにお届けする作業に飽きてきていた僕らに届いた吉報。神はご覧になっていらっしゃる……と。

その日シフトではなかったUにも、翌日の夕方にそのことを伝えると、笑顔が西日より眩しくなったのをよく覚えている。

何度も繰り返すことになるが、僕らは住所を悪用したり、個人情報をみだりに他人に漏えいしていることはしていない。真っ当に、純粋に宅配という芸術の連鎖を続けていたので、誤解しないでほしい。僕らは、料理を届けているんじゃない、心を届けていたんだ。

でも、Jにどんな住所か聞いてみたが、あっさりと忘れてしまっていて、少し残念がったことも事実だ。僕らが二十歳前後の男子だということでチャラになるだろうか。

それからは、「東中野」という住所が宅配のリストに現れただけで、3人で取り合いになった。あの時湧き出た活力がある僕にとっては、東中野なんて場所は、そんなに遠方ではないのだ。

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僕「ここ東中野じゃん。J、あの場所ここだったっけ?」

J「多分そうだったかもしれない。俺が行ってくる」

U「じゃあここは、俺がいきます」

僕「Jはキッチンで残っていた方が有力だし、Uはもっとホールの仕事を覚えた方がいいよ。てことで僕が」

U「いや、Hさん(僕)最近よく宅配行ってたから、少し休んだ方がいいですって。それじゃ」

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このまま争いに時間を費やしていたのでは、「崇高なる芸術がただの大衆芸術になってしまう、だからUに行かせた」と、Jは言っていたが、これを日本語に訳すと「宅配は早く届けるのが仕事だから、ここで喋ってないで早く誰かが行かなければならない」という意味になる。

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僕「おかえりなさい」

U「……あのお家は、違いました」

J「やっぱりね」

僕「知ってたのかよ!」

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Jは基本的に嫌なヤツだったけど、僕らは卒業するまで3人で仲良く働いた。


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