おく山に もみじ踏み分け
「うわぁ、外、真っ暗だよ。見て」
そう促されて、僕は窓に目をやった。暗がりの奥から街のビル明かりが点々と光っていた。
夏も終わりだな。
窓を少し開けると、気まぐれに吹いた風が鼻の頭をくすぐった。
ベランダのそばに聳える高木に住まう鳥達の姿も、夜闇に吸い込まれたようだ。それとも、今はいないのか。曇った空を一瞥してカーテンを無愛想に閉めた。
「エアコンも、消してみようか」
耳馴染んだ機械音が鳴り止んだ。風のなくなった部屋は生温く感じられた。
いざ循環が途絶えると、一気にやる気を喪失して、布団に入って横になった。
コオロギか、鈴虫か、虫の鳴き声があちこちから聞こえてきた。
だらしなく体に掛けておいたタオルケットを気にしながら寝返りを打ったとき、太腿に違和感を覚えた。
「かゆい。蚊に刺された」
夏でもない秋でもない。
今はまだ虫の番。鹿が鳴くのはその後だ。
力強く育った萩が、頭を垂れて僕らを心配そうに見つめてた。
今日も夢の中、牡鹿の行く末を案じる。
秋は悲しき。