三割三分の上にも三分間
僕は、泉に向かう。
それは自然が作ったとは思いがいたい正円を成していて、幅は直径十メートルくらい。泉の周囲はほとんど隙間なく草木に囲まれている。
今日は、もといここ最近は、この泉が思い浮かぶ。
僕は泉のそばで座り込んだ。中心近くで浮いている木の葉をぼんやり眺めては、今度は空を見上げて、後は何があるかなって。それをひたすら繰り返す。
時折風が吹いて、波紋が広がる。木々の声は僕が覚悟した割には遠慮がちに聞こえた。
その拍子に木の葉がこっちに流れてきた。ゆっくりと回転して僕を焦らしながら近づいてくる。
僕は膝をついて上体を前に出した。右手を伸ばし、人差し指と中指を交互にパタパタして葉柄をつまもうと必死になった。
あと少しのところでまた風が吹いて、木の葉は中心へと踵を返していった。
(なんだかなぁ。
あの葉っぱの裏になにか書いてあったら最高だったのに)
なんて、僕はありもしない想像をして次の言の葉を気だるそうに探す。
でも、全然悔しくなんかないね。
昨日は泉。一昨日も泉。今日も泉。
その前は丘の上。明日どこに行くかなんて決めちゃいない。
僕は言葉を探しに、頭の中からどこにだって飛んでいく。
それでいて何も見つからない。それでもいい。
三割三分の出来映えだからって、誰にも笑わせやしない。僕は言葉に十割の愛情を注いでいるんだから。
なんてことを考えられた、
この三分間も悪くない。