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アンドロイド転生222

都内某所 ショッピングモールの駐車場にて

車に大量の玩具とお菓子が積み込まれた。ホームに良いお土産が出来た。アオイは満足だった。エリカは機嫌を直しタケルに向かってニコニコと微笑んでいる。先程からお喋りが止まらない。

「ねぇ?あの人達は結婚するの?」
「そんな感じで終わったな」
「素敵だった」
「だな」

買い物を終えても時間があったので3人で映画を鑑賞した。3Dが目の前に飛び出し、情景に伴い香りが漂い世界観に没頭した。主人公の男女が東洋人と白人で、まるでタケルとエリカのようだった。

ストーリーは恋愛模様で最後はハッピーエンドだった。エリカは主人公に自分達を投影して幸せそうだ。よし行くぞとタケルが声を掛ける。
「うん!」

エリカは車に乗り込み、当然とばかりにタケルの隣に座った。アオイの事など眼中にないようだ。エリカにとっては今日はデート気分なのだろう。初めてタケルと都内に来たのだ。

アオイはタケルを見つめた。彼は…エリカの事をどう考えているのだろう?実はタケルもエリカの事が好きなのか?付き合っている事実はないが心では密かに想っているのか?

まぁ…2人がどうなろうと私には関係がない。いや、恋人になってくれてエリカの自分に対する態度が軟化すると良いと思う。エリカの嫉妬心には辟易だ。正直な分だけ止まる事を知らないのだ。

30分後。慰霊碑群に到着した。車を駐車場に停めて3人は歩き出した。途中で花と蝋燭を購入した。
「アオイの地区はどこだ?俺は八王子」
「私は大田区」

アオイは慰霊碑を見渡した。
「タケル。ここで別れよう。夜明けまで各自で過ごそう。朝になったら車に戻る」
「分かった」

“東京都八王子市“
タケルはエリカと共に慰霊碑にやってきた。壁面には自分の名前と家族がある。
「フワタケル。これが俺の生前の名前。まさか…自分自身の名前を見るなんてな」

“東京都大田区“
アオイは地域表示のポールの付近にやってきた。慰霊碑を回り込む時は緊張した。サクラコとモネがいるかもしれない。出逢ったら嬉しいけれど何と言えば良いのだろう…。

だが杞憂で終わった。多くの人の中に彼女らの姿はなかった。寂しいけれどホッとする。会ってしまったら何と言って良いのか分からない。自分はラボから逃亡したのだ。

アオイ慰霊碑の壁面に刻まれているニカイドウ家の3人の名前を見つけた。両親と弟だ。震災の被害に遭ったのだ。どんなにか怖かっただろう。無念だったろう。想像すると胸が痛んだ。

弟のミナトは年齢的にまだ存命していただろうと思うと残念でならなかった。アオイは手を伸ばして各々の名前に触れた。ああ。パパ、ママ、ミナト…。涙が溢れた。

白い薔薇を三輪手向け、蝋燭に火を灯した。アオイは、周囲を見渡した。500棟の慰霊碑…。なんて多くの人が命を落としたのだろう。沢山の参列者。遺族や縁故ある人々。

皆んな其々の想いを抱えているのだ。陽が傾き蝋燭の赤い灯火が揺らめいた。アオイはタオルを地面に敷くと座り込んだ。ここで夜明けまで過ごす予定だ。家族の魂に寄り添いたかった。

陽が落ちて世の中が暮れていく。西の空に一番星が輝いた。アオイの瞳に涙が滲んだ。
「パパ、ママ、ミナト…。星になったの?風になったの?私は…アンドロイドになったよ」

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