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アンドロイド転生1176

サキが最期の時まで思ったこと

2126年12月15日〜18日
目黒総合病院 
クリーン病棟にて

医師から余命宣告されてしまった。私の病気は劇症型肝炎というもので、ある日突然肝臓が機能しなくなるそうだ。しかも…もうオペなんて出来ない。そんな体力がないのだ。

そうか。私は死ぬのか…。39歳で。いつかお婆ちゃんになって若いケイと手を繋いで娘とお婿さんと孫と曾孫に囲まれる。そんな夢を描いたのに叶わないのか。そうか。そうなのか。

あと90年は生きられると思ったのになぁ…。まぁ…そこまでは生きなくてもイイけど…でもせめてノアが大人になった姿は…見たかったなぁ…。残念だなぁ…。悔しいなぁ…。

あーあ。白血病から助かったと思ったのに…。だから絶対シオンに恩返ししようって決めてたのに…。出来ないなんて。私の為に夢を諦めて痛い思いをしたのに本当にごめんね。

あーあ。それにしても神様って意地悪だね。あんなに頑張ったのに。痛みや吐き気や倦怠感。全部クリアしたと思ったのに…悲しいなぁ…。でも仕方がないか…。人はいずれ死ぬし。

よし。じゃあ…お父さん達にメッセージでも送ろうかな。ホームは雪が積もってるだろうし、もしかして猛吹雪かも。ここに来れるわけもない。そもそも…リアルで会いたくない。

2人の顔を見たらギャーって泣いてしまう。怖いよーって叫んじゃう。死にたくない!って喚いちゃう。助けてー!ってお願いしちゃう。そんなの無理だもん。だからメッセージでいい。

・・・

12月19日〜22日
緩和病棟にて

お父さん達が私のメッセージを見たって。直ぐに返信が来てたんだけど…何だか見れなかった。漸く決心した。立体画像が宙に浮いた。2人とも一気に老けたみたいだ。

泣いていた。娘に生まれてくれて有難うだって。可愛い孫に会えて感謝だって。そしてケイは俺達の息子だって言ってくれた。嬉しかった。アンドロイドを認めてくれた。有難う。

彼と知り合って20年。変わらずに彼を好きでいたことが私の自慢。そして彼に似た遺伝子を利用して誕生したノアが私達の宝物。可愛くて賢くて勿体無いくらいの娘なの。

ふふふ。あれ?私1人で笑ってる。だって嬉しいの。隣のベッドにはノアが眠ってる。その隣はスリープモードのケイだ。緩和病棟に移って来たら朝昼晩一緒にいられるようになった。

ふふふ。さっきのケイとの会話を思い出した。
「ケイ…大好き。愛してる…」
「僕も一生愛してる」
「ノアのこと…頼むね…宜しくね…」

ケイは黙っていた。応えに困っているみたい。「分かった」って言ったら…私が死ぬ事を認めるみたいで怖いのかも。自我が芽生えたマシンって凄いね。だから好きになったんだけど。

「あなたは…素晴らしい…パパだよ」
「君だって最高のママだ」
「じゃあ…最強の2人だ…」
「うん。まるで君の両親みたいだな」

胸がいっぱいになった。涙がどっと溢れた。自慢の親だった。優しいお母さん。強くて…ホントは弱虫なお父さん。私は…あの人達の子供で良かった。生まれてきて良かった。

・・・

12月23日〜25日

痛みを緩和する為のモルヒネのせいで…何だかいつも夢の中にいるよう。でも時々ふっと意識がまとまる。その度に思った。何も悔いはないと。たとえ短くても幸せな人生だったと。

そう言えば…初めてタウンに来た時に埠頭で船を見た。外国だって。ねぇ?行きたいね。え?行く?ホント?ノアも行けるの?赤ちゃんだけど…。え?違う?あっそう…楽しみだね…。

ねぇ?最期に言わせて。
お父さん、お母さん。長生きしてね。
ノア。娘に産まれてくれて有難う。
ケイ。大好き。愛してる。

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