アンドロイド転生216
茨城県の山中 川縁にて
幸せだったと言い切るタケル。そうだ。彼は苦難の中でも幸福だった。アオイはゆっくり頷いた。
「それは…分かってる。あなたも私も幸せだった。まさか突然死ぬとは思わなかった」
そう。そして同じように転生した人間と出会えるとも思わなかった。これは奇跡だ。それなのに意思の疎通もままならない。本当は仲良くしたいのだ。生まれ変わった者同士分かち合いたい。
タケルはアオイを見返した。普段は口数の少ない自分がアオイの挑発で止まる事なく言葉が出てきた。自分でも驚いていた。いや、アオイだっていつもおとなしい。ひっそりとしているのだ。
それがこんなにも不満を爆発させるのか。夜の狩がそんなに不服だとは思わなかった。確かに泥棒は犯罪だ。悪人から奪っていると自慢するのは言い訳だ。アオイの言うことも一理ある。
でも俺は狩が楽しい。本領発揮と言わんばかりに性に合っていた。あっという間にリーダーになっていた。一度やると麻薬のように取り憑かれた。犯罪者の息子だからと思った。血筋なのかもしれない。
タケルはアオイを見下ろした。
「話はそれだけ?オタクは狩をしない。俺はする。それでいいだろ?」
アオイはじっとタケルを見つめ続けた。
その揺るぎない瞳を見て感心する。へぇ…?世間知らずのお嬢でも負けないんだ…?タケルは少しアオイを見直した。アオイは漸く口を開いた。
「お好きにどうぞ」
「お昼だよ!皆んな!川から上がって!」
ミオがやって来て大声を出した。子供らは河原に立つと大人達に身体を拭かれ、タケルとアオイも幼児と手を繋いだ。
タケルは川縁の大きな石に子供らを座らせ、子供におにぎりを配った。アオイも作業に加わった。賑やかに食事が始まる。充分に水遊びした子供達は食欲旺盛だ。後でスイカ割りでも楽しもう。
ミオがタケルの傍にやって来た。
「ねぇ?アオイと喧嘩したの?声が聞こえた」
アンドロイドの高性能の聴覚が聞き取ったのだ。
「喧嘩じゃねぇよ。意見を交わしてただけ」
「あんな風に言いたい事を言えるなんて凄い」
「そうか?」
「やっぱり人間同士だからかなぁ…?」
「どうかな?俺は転生なんてあまり関係ないけど」
「そんな事ない。タケルは人間らしいよ」
ミオはタケルを見つめた。
「アオイにね?大人になれって言われたの。そんな事を言うなんてやっぱりアオイも人間なんだね。アンドロイドは成長しろなんて言わないもん。だからね?大人になるように努力してるの」
タケルは微笑んだ。ミオの素直な心が可愛かった。
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