アンドロイド転生204
ミオとチアキの部屋
「チアキ…。怒られちゃった…。アオイに大人になれって言われたの。私は大人の身体が欲しいけど、心も成長しなくちゃダメなんだね」
「どう言う意味?」
ミオは肩を落として俯いた。
「アオイは過去を観せてくれなかった。嫌だって言われたの。想い出は自分だけのものだって。知られたくないし、私のも知りたくないって…」
チアキは主人だったノムラ園長を思い出した。彼は亡き妻の在りし日の想い出を何度もチアキに語って聞かせた。誰かと共有する事が喜びのようだった。でもアオイは嫌なのか。
チアキは悲しそうなミオを力づけた。
「其々考え方があるんだよ。大丈夫。アオイは怒ってないよ。怒ってても一瞬だよ」
「本当に?大丈夫?」
チアキはニッコリと笑った。
「アオイはナニーだったんだよ?忍耐強いよ」
「そっか!良かった!あ、あのさ?チアキはタケルの過去を観たくない?アオイのも観たくない?」
チアキは首を横に振った。
「私は…人間の心の闇を知りたくないの」
チアキは目を伏せた。ノムラ園長が心を病んで自ら命を絶った事が辛かったのだ。
チアキは続けた。
「タケルもアオイも志半ばで人間の生を終えた。愛する人達と別れた。とても無念だったと思う。その想いが怖い。アンドロイドに転生して…幸せなのかどうかも観たくない。私達と2人は違うから…」
ミオはチアキを見つめた。
「タケルは…タケルの過去は辛い事も一杯あったけど、喜びや生き甲斐があったよ。お母さんや妹がいて…友達も恋人もいた。死んで無念の前に幸せの日々だった。生まれ変わって美容師になってコンテストで優勝したよ。生きてる事は無駄じゃないって思ってる。私達とは違うけど仲間だよ?」
チアキは微笑んだ。
「ミオはタケルが好きなんだね?」
「お兄さんみたいなの。ミチルの気持ちが分かるの。アンドロイドが兄妹だなんておかしい?」
チアキはニッコリとする。
「おかしくないよ。だって私達は家族だもの」
「そうだよね?みんな家族だよね」
「そうだよ」
「チアキ…私、私ね?ストリッパーだった時は人間ってなんて残酷なんだろう?って思ったけれど、今は愛おしいの。人間ってどんどん変わっていくでしょ?心も身体も。皆んな当たり前って思ってるだろうけど…それって奇跡よね?幸せよね?」
「そうだね。成長するって凄いことだよね」
ミオは宙に手を伸ばした。掌を灯りに当てた。
「私の手は生まれた時から変わっていない。この先も変わらない。でも…アオイが言うように心が大人になれればいいね。成長すればいいね」
チアキはミオの素直な気持ちに心が打たれた。アオイに彼女の想いを理解して欲しかった。ミオは決して興味本位で過去を観せてと言ったわけじゃない。ただただ人間を理解したいだけなのだ。