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出生前診断専門クリニックの記録

何かの間違いであってほしいと信じて

前回の記事の続き。条件にぴったり当てはまる病院を見つけ、電話してみると当日受診可能とのことで、さっそく予約を取った。受診日は妊娠11週と1日、NIPT外来で異常を指摘されてから4日後のことだった。この時点では、私は頭の中で3パターン予想していた。

  1. 浮腫みが引いている

  2. 赤ちゃんの心臓がすでに止まっている

  3. どちらでもない

もちろん一番願っていたのは①である。お医者さんが「なにかの見間違いでしょう。赤ちゃんは元気いっぱい。何も問題ありませんよ」と言ってくれるのを願っていた。でも私の性格的に、事前に予防線を張ってダメージを少しでも減らし自分を守ろうとする傾向があるので、②③も考えてみた。

②もし赤ちゃんの心臓がすでに止まってしまっていたら、非情かもしれないけど、残念だけど仕方ないと思った。そりゃショックだし悲しいけど、悩むまでもなく、紛れもなく流産である

恐れていたのは③のパターンで、赤ちゃんは今生きているけれど何かの障害があるとか、今後お腹の中で亡くなってしまう可能性があるという、自分たちに妊娠継続の決定権がある状態が怖かった。もし③なら、すぐに確定検査(絨毛検査)を受け、染色体異常があるかないかを知ったうえで考えようと夫婦で話し合っていた。 


胎児水腫以外にも‥

病院に着くとすぐに胎児超音波検査を行った。妊婦健診のエコーとは違い、かなり時間をかけて、いろんな角度から赤ちゃんを診てくれた。持参した今までのエコー写真を見ながら、今の状態と比較しているようだった。その後別室で医師と面談し、赤ちゃんの状況を教えてもらった。

この時の面談はものすごく長い時間をとっていただいて、私が途中で泣いてしまって言葉につまっても、お医者さんはじっと待って話を聞き、全ての質問に丁寧に答えてくれた。本当にありがたかった。

  • 浮腫の厚さは4mm。首の後ろだけでなく頭や体の複数個所が浮腫んでいる状態。

  • 胎盤が非常に薄く、通常の半分くらいの厚み。これも胎児に染色体異常があることが原因である可能性がある。

  • 妊娠8週までは週数相当の大きさだが、10週0日から今日(11週1日)まで、ほとんど大きくなっていない。通常この時期は1週間で1cm以上大きくなっているはずである。

  • 頭の大きさに比べ体が極端に小さい。

  • 体が小さすぎて見えない部分が多く、心臓の奇形についてはまだなんとも言えない。

私は「生まれてきても障害が残るってことですか?」と聞いてみた。お腹の中で育つ可能性を信じていた。でも、産まれたら、という仮定はなかった。「おなかにいるうちに亡くなってしまうのは間違いないでしょう」と言われてしまった。


絨毛検査を希望していたが、確定検査をするまでもなく、赤ちゃんになんらかの異常があることは明確だった。

この胎盤の薄さでは、絨毛検査をすることで流産してしまうかもしれないし、検査をしたとしても結果が出るまでの間に赤ちゃんが亡くなってしまう可能性も十分にある。

お金の問題ではないが、決して安くはない検査。今回は実施することで得られるものが少ないため、見送ってもいいのではないかというお医者さんのお話は、納得できるものだった。


ただ、心臓は動いていた

おなかの中で亡くなるのは確実だが、それがいつになるかはわからない。通常心拍がある状態だと中絶の扱いだが、妊娠継続の見込みの薄さや、もうすぐ12週をこえてしまう点から、現段階で流産と判断し処置することも可能だと、お医者さんは言った。

そして、この病院では流産手術ができる曜日が決まっていて、11週6日までの間だと明日しかなかった。

赤ちゃんの心臓が止まるまで待つか、流産手術を受けるか、明日までに決めなくてはいけなかった。
 


私たちの決断


帰り道も、夕飯の時も、翌朝もずっと、夫と話し続けた。

決断があと1週間遅れるだけで、流産(中絶)の処置方法がかわり、入院期間は長くなり、手術による体へのダメージがかなり大きくなってしまう。加えて、産休取得が必要なので仕事を数ヶ月休まなくてはいけなくなったり(出産一時金は出るようだが‥)火葬の義務等もあり、金銭面の負担も桁違いだ。

私たちは不妊治療をしていかなければ、子供を授かることはできないだろう。次の妊娠を望むなら、母体がなるべく早く回復し、経済的にも負担が軽く済むことが、今後の治療にとって良いことだ。

タイミングはいつになるかわからないが、お腹の中で亡くなってしまうことが確実ならば、心苦しいが、今お別れしたほうがいいのではないか。



夫とは10代の頃からの付き合いで、私が言うのもおかしいが何よりも私のことが大好きな人だ。10年間ずっとそうなのでさすがに勘違いじゃないと信じたい。彼は私の体の負担を減らすことが一番重要なことだと考えてくれていた。

長年看護師をしている実母も、娘の健康が第一であり、今後の治療に良い状態で臨めると前向きに考えたらどうか、と言ってくれた。



現実的に考えれば流産を選ぶしかないのだろう。それが最善なのだろう。頭ではわかっていた。

でも、赤ちゃんの命よりも自分が苦しまないことを選ぶのかと、どうしようもなく罪悪感を感じた。

今お腹の中に赤ちゃんが生きているのに、次の妊娠のことを考えるなんて、なんて自分勝手なんだろう。こんな考えで、母なる資格なんてないのではないか。

赤ちゃんはお腹から出されて痛いかな?全身ぶくぶくに浮腫んだ状態で大きくなるほうが苦しいかな?

お医者さんは流産だと言うけど、これは中絶なんじゃないか。私が赤ちゃんの命を奪うことになるんじゃないか。



今でも正解がわからない。

後悔しそうになる。 

自分を責めてしまう。

でも、私たちには時間がなかった。


明日、流産手術を受けると決めた。


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