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[書評] 資本主義の中心で、資本主義を変える 著:清水大吾

概要

本書は京都大学を卒業した後に、新卒で日経証券に入社、そして2007年にゴールドマンサックス証券に入社し、16年勤務した清水大吾さんによる著書だ。資本主義に対して我々が出来る適切な関わりかたを提示することで、長期的に見た社会課題を解決できる資本主義にしていきたいという著者の熱意が伝わる一冊であった。

ゴールドマンサックスといえば言わずとしれた外資系金融の王者であり、そこで16年勤務して部長まで昇格された著者はまさに資本主義の中心にいた人物である。しかし、資本主義とよくセットで語られやすい連続的な成長が近年では短期的な時間軸によって評価されがちであり、私たちの子供や孫の代といった長期的に見た時間軸でみると適切な行動が為されていないことに著者は疑問を感じている。

本来の「資本主義」=「所有の自由」×「自由経済」

資本主義とは本来、経済活動において何らかの制約を課さず、市場原理にゆだねることが求められている。そうすることで人間の欲求が刺激され、個人間や企業間での競争が促進されることで、社会にとってより良いサービスが生まれ、経済活動が活性化されることが根本的な原理である。

しかしこの根本的な原理に覆いかぶさるように、現代の資本主義には人間が意図した好ましくない思想が乗っかているという。それが

①成長の目的化
②会社の神聖化
③時間軸の短期化

の3つである。それぞれを詳しく見ていく。

①成長の目的化


本来、社会に存在する全ての経済活動は「持続可能な社会の構築を通じて人類の幸福に資すること」が目的となっているはずだが、我々は目の前の生活に追われるために、視野が狭まり、漠然とした成長のみを目的としてしまっている人が少なくないという。より良いサービスを生む競争の副産物に過ぎなかった成長が目的となってしまい、「成長していない=許されない状態」となってしまっている現状がある。また短期的な成長は地球規模で見た環境や社会を犠牲にしたうえで成り立つものもあり、今だけという自分本位な状態になってしまっている。

②会社の神聖化


会社が壮年期を過ぎているのにも関わらず、ただ存在しているだけの「ゾンビ化」している企業が多い。会社が存続することだけが目的となっているために、時代に合わせた戦略やポートフォリオの組み直し、(時にはクビや早期退職による人件費削減)を実行することができず株価も低迷してしまっている。著者曰く、このような存在意義を失った会社はどんどんつぶれて人材の流動化を図るべきだと述べている。

③時間軸の短期化


資本市場は企業がより大きな課題に取り組むための資金を供給するという機能を持つために、本来企業が為すプロジェクトや商品開発は長期の時間軸をもって為されるべきである。しかし今だけ、自分たちだけと自分本位な投機家(投資家とは区別)にとってみれば短期的な利益をあげられているかどうかが重要であるため、企業の時間軸としては適切ではない四半期ごとの報告書によって投機家にとっての良い企業がどうかが決まってしまう。

特に日本では「政策保有株式」によって是々非々文化が醸成できていないことを著者は何度も強調している。義理人情や他人を重んじる風潮は否定するべきではないが、ことビジネスにおいてはアメリカのように明確な規律によって社会に緊張感を醸成しなければ、日本は失われた30年を今後も引きずり続けるだろう。

緊張感をもって日々の業務にあたる

そして危機感のないまま沈んでいく茹でカエル状態の我々にできることは、「会社の常識、社会の非常識」の状況に対して客観的に自己をみつめる経験をすることがまず重要だと述べている。代表的には転職がそうであり、他にも出向、副業など第三者の立場から自分をみつめ、自分たちの目指している方向が長期的な時間幅をもって評価した際に、地球規模で良い影響を与えているのかを今一度考える必要がある。そして良い影響を与えていないと感じた場合は別の場所での挑戦を模索するという可能性もある。反対に経営者は優秀な人材に留まってもらうために、長期的なビジョンをしっかりと社員と共有をし、報酬制度や人事制度を見直すことで、経営者と従業員がお互いに適度な距離感を保つて事業を展開できることが理想である。

本書を読んだ感想

この本は消費者、労働者、投資家間でどのような態度や関係性が長期的にみて市場にとって適切であるかを述べており、まだ学生で社会にも出たことのない自分にとっては世の中に対する視座をあげてくれる良い本であった。私自身は日本という国が好きだし、可能であれば新卒で入社させていただく日系企業の中で大きな不満もないまま生涯にわたって仕事を行っていきたいと考えている。しかし、就職活動を行うと特に報酬面で日経企業は外資系企業に見劣りすることは正直に気になる部分ではあった。今後自分に家庭ができ、人生の主人公が自分から子供たちへと交代するときには、やはりお金でたくさんの経験をさせてあげたいと思っているため、日系企業も報酬制度を見直したり、適切なインセンティブを設けることで従業員のやる気、率いては会社の勢いを上げられるような構造を形成していただきたい。

著書の中で特に印象に残った話としては「お金には名前がある」という話だ。お金は天下のまわりものと例にあるように自分が対価を支払えば、社会にわずかながらの影響を及ぼし、積み重なって、巡り巡った20,30年後先には自分がいる社会の在り方を決定していくことになる。社会人になって2,3年目の頃などは目の前の業務や新天地での生活に精一杯で、とても社会のため地球のためといった思いやりの精神をもつことが出来るかは正直分からないが、「究極的な利己は利他」と著者も述べているように自分に可能な範囲で社会課題への自分事かを進め、企業の看板を借りてできることは臆せずチャレンジしていくファーストペンギンになっていきたい。


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