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”言語化ヤクザ”(?)Ch「ゆる言語学ラジオ」で見た「言語思考者」の世界とは

 どうも。アスピー母ちゃんの千四里(せんよんり)です。突然ですが皆さんは「言語で考える人(言語思考者)」ですか?それとも「絵で考える人(視覚思考者)」ですか?

 そのうち「絵で考える人=ビジュアル・シンカー」の思考の特徴と重要性について書かれているのが、自閉スペクトラム症(ASD)の当事者であり動物学博士でもあるテンプル・グランディン氏の著作『ビジュアル・シンカーの脳「絵」で考える人々の世界』です。

 今回は、その『ビジュアル・シンカーの脳「絵」で考える人々の世界』が偶然「ゆる言語学ラジオ」で取り上げられているのを見たことで、自分が「ビジュアル・シンカー(視覚思考者)かもしれない」と感じた理由などを書いていきたいと思います。

『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』
テンプル・グランディン 著 中尾ゆかり 訳 NHK出版

ASD(自閉スペクトラム症)長男の「視覚優位」について

 神経発達症(発達障害)やASD(自閉スペクトラム症)について調べていくと、しばしば「聴覚優位」「視覚優位」という言葉と出くわします。私のふたりの息子たちもASDと診断されています。

 特に長男くんは発語も平均よりゆっくりで、4歳で広汎性発達障害(後にASDに変更)と診断がついたこともあり、「視覚支援」(コミュニケーションツールを音声言語だけに頼らず、絵カードなどの視覚情報を加えること)を日常生活に取り入れていました。小学6年生になり、以前に比べて音声言語でのコミュニケーションがとれるようになりましたが、やはり彼に関しては情報のインプットもアウトプットも視覚優位だと感じることが多いです。

 例えば…

テレビの字幕は常にON→音声だけでは理解が難しいのか、長男くんが自分で字幕をデフォルト設定(漢字の読み方はほぼ字幕で覚えた模様)。
駅の構内図、複雑な電車の路線図を短時間で記憶→初めて行く駅のエレベーター(長男くんはエレベーターマニア)の場所も、頭の中の構内図で一発で辿り着く。複雑で膨大な路線の乗り換え情報も正確に記憶している。
★算数の計算は苦手だが、図形問題(立方体の展開図や切り口の形、違う方向からの見え方を問う問題など)は一瞬で正確に解くetc…

 ちなみにそんな彼の好きな遊びはブロック遊び。大好きな仮面ライダーを、頭の中のイメージだけを頼りに迷いなく組み立てていきます。

毎日のように作っては壊される仮面ライダーたち

「言語で考える人」が「ビジュアル・シンカー」の世界と出逢うとき

 私は在宅で翻訳業をしていることもあって、外国語関連のYouTube動画をよく見ており、言語学にも興味を持っていました。そんなとき偶然YouTubeのオススメに上がってきたのが「ゆる言語学ラジオ」です。

 「ゆる言語学ラジオ」のメインパーソナリティーは、作家でYouTuberの堀元見氏と、名古屋大学で言語学を専攻された水野太貴氏のおふたり。彼らは自らを「言語化ヤクザ」(!)と称する程、根っからの「言語で考える人間(言語思考者)」と考えているようです。

 動画では、偶然私が購入していた書籍『ビジュアル・シンカーの脳「絵」で考える人々の世界』が取り上げられていました。水野氏は動画の中で、その本を読んだことで「ビジュアル・シンカー(視覚思考者)」の思考や世界観が、言語思考者の自分とかなり異なっていたことを知り、非常に驚かれていました。その衝撃の大きさからか(?)動画も3部構成となっており、第1部と第2部は40分超、第3部至っては1時間以上に渡り、言語思考者と視覚思考者のコミュニケーションの違いや、言語思考者が優位に立ちやすい現代社会について様々な考察がなされています。

言語化に興奮するタイプの人間は、文章で惚れちゃう【ビジュアルシンカー2】#323
19:35 ゆる言語学ラジオは見世物小屋

「IKEAの家具組み立て説明書」分かりやすい?分かりにくい?

 私自身は41歳でASDと診断されるまでは、漠然と自分のことを「言語思考者」だと感じていました。現に翻訳者として仕事もしていますし、子どもの頃から話すことや文章を書くことも苦ではなかったからです。

 しかし自らを「言語思考者」と認識されている「ゆる言語学ラジオ」のメインパーソナリティーのおふたりの話を聞くと、物事の捉え方などが私とはずいぶん違っており、非常に興味深く感じました。

 その中でも私が最も印象的だったのが、『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』で紹介されている「イケア・エピソード」のくだりです。

 おとななら、私が考えたイケア・テストをしてみると、視覚-言語スペクトラムのどのへんに当てはまるかわかる。厳密には科学的とは言えないが、思考のタイプを見分けるのにかなり信頼できる手軽な方法だ。テストでは家具を買ってきて、これから組み立てると仮定する。さて、説明書の文を読むか、イラストを見るか、どちらだろう。(後略)

『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』
テンプル・グランディン 著 中尾ゆかり 訳 NHK出版 P26より引用 

 メインパーソナリティーのおひとり、水野氏は周囲の人々にこのイケア・テスト(テキストでの説明が一切なく、図だけが描かれたIKEAの説明書が分かりやすいか、分かりにくいか)をヒアリングしてみたところ、視覚思考者の友人は「IKEA(の説明書)が一番分かりやすい」と答えたそうです。

心は存在しない。【ビジュアルシンカー3】#324
53:21 IKEAに見るビジュアルシンカー

 一方水野氏の場合は「どちらが上か下かをテキストで説明されないと分かりにくい」そうで、そのビジュアル・シンカーの友人とは大きな違いを感じたとのことでした。

 私はそのやりとりを聞いて、非常に驚きました。何故なら私自身もIKEAの説明書を初めて見たとき、とても分かりやすいと感じたからです。むしろテキストに依らないシンプルで美しい説明書に感動すら覚えたくらいだったので、「IKEAの説明書を分かりにくいと感じる人がいる」とは思いもよりませんでした。

購入した2段ベッドの口コミに感じたギャップ

 以前、子ども部屋に置く2段ベッドを購入するために、口コミを参考にしながら色々な2段ベッドを検索したことがありました。値段や大きさなどが希望に合う商品が見つかり口コミを見てみると、チラホラと「説明書が分かりにくい」と書かれていたのです。

「✖️ 組み立て説明書があまりにも簡易すぎる。たまたまショッピングサイトから動画を見つけたが、それもかなり簡易。苦手な人はかなり苦労するので、もう少し丁寧な説明書と動画案内を付随すべき。」

「組み立て説明書はとてもわかりづらいので改良なさったほうが良いかと。」

 口コミの反応が多少心配ではありましたが、値段、機能、大きさ共にこれ以上希望に見合う商品がなかったため、思い切って注文してみました。数日後商品が届き、開封してみると以下のような説明書が入っていました。

口コミでは少々不評だった(?)A4用紙1枚の組み立て説明書

 皆さんはこの説明書を見て、どのように感じられたでしょうか?私はと言うと、特に分かりにくさを感じることもなかったため、問題なく組み立てることができました。「口コミの内容とは、ずいぶん差があるなぁ」と感じたことをよく覚えています。

あなたは「聴覚連続型」思考者?それとも「視覚空間型」思考者?

 また『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』には、リンダ・シルヴァーマンの研究グループが数年かけて開発した「視覚空間型思考テスト」が紹介されています。このテストの項目にいくつ該当するかで、自分が「聴覚連続型」思考者(言語で考える人)か「視覚空間型」思考者(絵で考える人)を見分けるのにとても役立つそうです。以下の項目に、あなたはいくつ該当するでしょうか?

視覚空間型思考判定テスト

 1 考えるときには、言葉ではなく、おもに絵を使う。
 2 物事がわかるが、その方法や理由は説明できない。
 3 ふつうと違う方法で問題を解決する。
 4 物事をありありと想像する。
 5 目で見たことはおぼえているけれど、耳で聞いたことは忘れる。
 6 単語をつづるのが苦手。
 7 物体をいろいろな視点から思い浮かべることができる。
 8 整理整頓が苦手。
 9 時間の経過がわからなくなることがよくある。
10 行く先は言葉で説明してもらうより、地図を見るほうがわかる。
11 一度しか行ったことのない場所でも道順をおぼえている。
12 字を書くのが遅く、字はほかの人に読みづらい。
13 ほかの人の気持ちがわかる。
14 音楽か美術か機械が得意。
15 周囲が思っている以上に物知り。
16 人前で話すのは苦手。
17 歳を重ねるごとに賢くなっていると思う。
18 コンピューターに熱中する。

『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』
テンプル・グランディン 著 中尾ゆかり 訳 NHK出版 P28より引用

 いかがでしたか?著者のテンプル・グランディン氏によると上記18個の項目に10個以上該当すれば、「視覚(空間型)思考タイプの可能性がかなり高い」そうです(「もちろん、視覚(空間型)思考タイプか言語思考タイプかは、そちらか一方に当てはまるのではなく、だれもが言語優位から視覚優位までの連続するスペクトラムのどこかに当てはまる」とのこと:『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』テンプル・グランディン 著 中尾ゆかり 訳 NHK出版 P27より)

 ちなみに私の場合は、11個該当しました。設問が抽象的であり、原著が英語ということもあり、日本語話者にはなじまない箇所もあるかと思いますが、自分がどちらの傾向が強いかの大まかな参考にはなるのではないでしょうか(ちなみに「ゆる言語学ラジオ」の堀元氏は5つ該当、水野氏はそれより該当箇所が少なかったようです)。

改めて自分が「視覚思考者」かも?と感じる部分

 これまで自分のことをどちらか言えば「言語思考」だと思っていましたが、想像していたよりも「視覚思考」の可能性が高そうです。

 そこで改めて自分が「視覚思考」かも?と感じたエピソードをまとめてみると…

★絵で表現することが好きだし得意(美術系大学出身)。
★子どもの頃、人形遊びよりプラモデルを作る方が好きだった。
★習い事で行っていたそろばん教室では、そろばんを使って計算するより暗算の方が正答率が高かった(暗算ならば指でそろばんの珠をはじき間違えることがないため)。
★中国語翻訳の仕事中に発音が分からない漢字がある場合、その漢字をじっと目で見ているとピンイン(※発音記号。中国語の漢字の発音をアルファベットで表記したもの)が目の前に浮かんでくる(音声としては浮かんでこない)etc…

 みなさんは自分の思考タイプと照らし合わせたとき、心当たりのあるエピソードはありますか?

言語化に興奮するタイプの人間は、文章で惚れちゃう【ビジュアルシンカー2】#323
23:14頃「言語化ヤクザを襲う視覚化の暴力」
藝大出身の友人と、何故か話がかみ合わなかった経験を話す堀元氏

「言語思考優位型社会」に一石を投じる『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』

 自分の感覚は他人と比較しようがないため、普段特に意識することはないと思います。しかし「言語思考者」を自認する「ゆる言語ラジオ」のおふたりが「視覚思考者」の感覚に驚かれていていたのと同じくらい、私もおふたりの話される感覚に新鮮な驚きを覚える箇所がたくさんありました。
 
 それは決して「どちらの思考タイプが優れている」ということではありません。おふたりが動画で話されていたように「言語優位な価値観は一面的」であり、お互いの得意不得意を補いあって社会を築くことが大切なのではないでしょうか。また災害や企業のリスク管理においても、「視覚思考者」の優れた想像力が欠かせないことを、著者のテンプル・グランディン氏も言及されています。

『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』は、「言語型思考者」にとっても「視覚型思考者」にとっても、自分の価値観に新しい視点を与えてくれる書籍だと思います。機会がありましたら、ぜひ手に取って読んでみてください(*^^*)




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