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花咲くあなたへ

「花譜」という名のバーチャルアーティストを、ボクが観測したとき。


それはバーチャルアーティスト

2022年11月。YouTubeで1本の動画を見つける。

「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」というタイトルのその曲は、フワフワとしていて透き通った声が聴こえていた。

ボクは「フォニイ」という曲が好きだった。
つまり、ツミキさんのことは知っていた。

知らなかったのは、「花譜」という名前のボーカル。その人は、バーチャルアーティストだった。
2022年当時、数多のバーチャル的存在がいて、その規模感は膨張し続けていた。
それもあってか、このときは“そういう名前のバーチャルアーティストもいる”程度で興味が一区切りとなった。

近くにいて、遠くにいる

変化が起きたのは、知り合いとの会話がきっかけだった。
最近聞いている曲の話になり、「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」の名前を出すと、花譜の話になった。その人は「観測者」を名乗る。
見せられたのは、「過去を喰らう」というタイトルのミュージックビデオ。

嘘のような本当の話、ボクはその曲で紡がれた言葉に、本能的な共感があった。今思えば、彼女自身が作詞したわけではなかったわけで、カンザキイオリさんが我々の世代をよく理解されていたということだろう。

そのとき、興味が再び呼び起こされた。花譜という“存在”を観測したくなった。


自分で知っていった、いくつかのオリジナル曲。増していく魅力。
「過去を喰らう」・「海に化ける」・「人を気取る」、これらの曲には関連性を感じたし、実際にバックボーンがあることを知った。
バーチャルらしいバーチャル、とでも言おうか。重厚で緻密な構成要素の数々。
花譜は、どれだけの月日を生きて、どれだけ卓越した存在なのだろうか。尊敬の念を抱く。
だが、調べていくうちに分かった、衝撃の真実。

同い年だった。

同い年?これだけの歌に魂を吹き込み、これだけの世界観に生き続けて、多くの人を熱狂させている存在が、同い年?
そのとき感じていたのは、畏敬だった。少しだけ、自分の生き方を責めた。
だが、すぐに1つの答えにたどり着く。“神に愛されている”という答え。
才能や運という概念は、いくつもの考え方があるもので、科学的に証明されていないもので。だから、特別な才能をもって生まれて、特別な運をもって生きている存在が、偶然にも同い年だっただけだと。
花譜さんのような人もたまにはいるのだと。

とはいえ、彼女の歌が嫌いになるわけではない。むしろ、同い年だからこそ、共感できるところがいくつもあって、どの曲もすぐに好きになった。
歌は、演説。心地のいい演説。
自分のような主義・主張を歌に乗せて代弁してくれる、遠くの俯瞰から自分を見つめている、アーティストの花譜さんを、応援し続けていた。

そのとき、彼女は横にいた

あるとき、知り合いからライブに誘われた。それは、彼女が所属している「V.W.P」のライブとともに行われる、ワンマンライブ。(結果的には、“チケットが余った”ということで「V.W.P」のライブにも行った)
ボクは喜んで誘いに乗る。一度、観測してみたかったのだ。花譜さんがどれだけ確立された存在なのか。どれだけ“次元”の違う存在なのか。


2024年11月3日、「怪歌(再)」。花譜さんは毅然とステージに立っていたように見えた。
過去のライブが再構成されているのもあり、危なげないパフォーマンス。
やっぱり彼女は違う場所にいる、そう思っていたライブ前半。

その考えを覆された、ライブ後半。
ステージにいたのは廻花さん。シンガーソングライターとしての花譜さん。
これだけを聞いたら、より距離があるように思えるかもしれない。
大切なのは、曲間のトーク。廻花としてステージに立つときの、不安や心配が語られた。

彼女も人だったのだ。ボクが感じたことのあるような“弱い”感情を、彼女もまた感じていたのだ。
ステージ上の存在に感じられたのは、特別な才能や運を持つ花譜さんではなく、“どこにでもいた”けど行動や努力を重ねた花譜ちゃん。いつか隣にいたのかもしれないし、そのとき隣にいるのかもしれない、同い年の女の子。
花譜ちゃんは、遠くからこちらを向いているのではなくて、前ならえしたら届いてしまいそうなくらい、少しだけ先でこちらを振り返っていた。


時間の流れは同じだから

ボクが花譜ちゃんと同じところは、出身国と年齢くらい。あとは「初めまして」が上手く言えなかったところ。
だから、ボクがこれから迫られる選択も、花譜ちゃんが歩んでいく世界も、まったく違う。

でも、何かに躓いたときに、道の先が真っ暗だったときに、彼女の居場所は常に隣。Z座標が同じってだけで、X座標は豆粒のようだと思うけど。
変わり続けても彼女は彼女として歌っているだろうし。起きる元気をくれたり、光を分けてくれたりするだろうし。

確かに、足が軽い。

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