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防振双眼鏡 Atera II ED H16✕50WP 長文レビュー

先週Vixenから発売された高倍率&大口径の防振双眼鏡 Atera II ED H16✕50WP(以下、「本機」)、予約して発売日に手に入れましたよ!ホットなうちにレビューしておきましょう。


1. 私の利用用途、購入の目的

はじめに、私の利用用途は野鳥8:天体2くらいです(気持ちは5:5なのですが天気や遠征機会に恵まれず、近所の野鳥観察がメインになっています)。レビューを読む際の参考になさってください。

そして評価のベースラインになるのは、賞月観星「プリンスED8×42WP」というポロプリズム型の非防振双眼鏡(以下「8×42」)です。この8×42はクセが無く広角でよく見えて、私のメイン機として活躍してくれました。

本機Atera II ED H16×50WPに最も期待していたことはシンプルで、もっと大きく鮮明に野鳥を見ることです。フィールドスコープ+三脚も考えたのですが、気ままに歩き回る私の観察スタイルには合わないように思ったので、高倍率の防振双眼鏡である本機を予約してみました。

2. 筐体など

珍しい、艶消しの深い茶色を主体にした筐体で、シンプルながらアイコニックな形状に仕上がっており、個人的には好印象です。表面の仕上げはサラサラしており、手が乾燥している方は滑りやすいと感じるかもしれません。胴体は、絞り込んであるおかげでピントリングに指が届きやすくなっている気がします。左右に2個ずつ設けられたストラップホールも実用向きでいいですね。

特徴的なD字の対物レンズ。でも視界は真円ですよ

対物レンズの一部を削って、逆ポロ型のようにコンパクトにまとめてあるのが何よりの特徴でしょう。このクラスで840gは超軽量と言って良く、感心してしまいました。Canonの50mm防振双眼鏡に対しては言わずもがな、防振機能のない50mmクラスの双眼鏡と比べても、かなり軽い側に入ると思います。

軽量化を追求しつつ、きちんとツイストアップ見口を搭載してくれたのがメガネユーザにはとても嬉しいです。メガネでもアイレリーフは十分です(私は1段引き出して使っています)。

無色で低反射なフラットマルチコートに期待大。撥油コートも嬉しい

ここまでポジティブな点をいくつか紹介しましたが、欠点もあります。一つ目は電池蓋です。両脇についたボタンを指で軽く押して開ける形式で、ネイルをした女性にも軽々開けやすそうな反面、電池入りの状態では片側だけでも触れると簡単に半開き状態になってしまいます。不安なので、私はマスキングテープで上から固定しました(ダサい…)。

半分開いてしまった電池蓋。Made in Japanの刻印も見えますね

もう一つ、些細ながら信じがたい欠陥として、電源LEDの光が右鏡筒内に漏れてしまう問題があります。接眼側からは暗順応後にほんのわずかに分かる(人によっては分からないだろう)程度のわずかな光で、実害はほぼ無いと思われますし、メーカーにも実機をチェックしてもらい正常の範囲内という回答をいただきました。とはいえ星見用の機材で光路内に光源があるというのはなんとも気持ちが悪く、「星を見せる会社」がこれを正常と見なしてしまうことにはがっかりです(市場規模としてはライブ>>野鳥>天体なのでしょうが)。今後のマイナーアップデートで改善されることを期待します。

反射光ではなく、電源LEDの光です。対物側からは防振機構の角度次第でハッキリ見える瞬間があり、接眼側からはぼんやり見えるか見えないか。

3. 防振機能

さて、筐体の次は本機のウリである防振機能を見ていきましょう。

その前に、実は本機にはVixen以外のブランドから販売されている、類型機とでも言うべき双眼鏡があります(特許番号などから推察するに、どちらも鎌倉光機製でしょう)。Kite APC 14x50, 18x50として本機に先駆けて海外で発売されており、いくつか詳しいレビューが見つかります。

防振機能を紹介した下の動画はその一例で、非常にわかりやすいので参考にしてみてください。

実際に本機を使ってみると、この動画のように素晴らしく防振が効きます。スイッチを入れてから防振が効くまでのラグもほぼありません。

2つある防振モードのうち、V2モードは三脚に載せたようにピタッと止まりますが、その分、別の方向に向けたい時の動きは遅れます。V1モードは微振動だけを自然に取り除くモードで、飛ぶ鳥も問題なく追尾できました(実視野が狭いので飛ぶ鳥は追いにくいですが、少なくとも防振機能が足を引っ張る感じはありません)。私が使うなら鳥はV1、天体はV2がメインになると思いました。

防振モードの切り替えについては、双眼鏡を左右に傾けながら電源スイッチを入れる変わった方法になっています。防振のために搭載されている加速度センサを流用して故障の原因になりやすい物理スイッチを一つでも減らす工夫でしょうか。モードの切り替えを意図せず普通に(±45度くらいの範囲で)スイッチを入れると前回使ったモードで起動しますので、いつも同じモードを使う場合はこの奇妙な切り替え方法を意識せず使えると思います。

4. 光学系

最後に、光学系のレビューをしましょう。写真に残すのは難しいので、主観&言葉多めです。

手持ち16倍

三脚を使わずに16倍という高倍率を実現したことが、本機の真骨頂であり存在意義です。遠くのものを拡大して細部を見分けるという一点に関して、本機は8×42とは段違いに優れていると断言できます。

窓から外に向ければ、200m離れた小学校の板書が読めてしまいます。月を見れば、テオフィルスクレーターの中央丘がよく分かります。

Vixen公式から。ちょうどここに写っている(画面上で拡大すると見える)くらいのディテールが見えました

木星に向けると、ガリレオ衛星4つを(位相に依りますが)容易に分離します。一方で土星は、面積があることは分かるものの、輪までは分かりませんでした。高倍率が必要な惑星に関してはどうしても望遠鏡に太刀打ち出来ないので、本当は月・惑星よりも、手持ちの機動力を活かして夜空を散歩するようにあちこちの星団を見ていくのが楽しそうです(空の暗いところに遠征したい)。

野鳥を見に持ち出してみると、冗談抜きで、シジュウカラがムクドリ大に見えました。それくらい8倍とは全く違った見え方をします。小さくてなかなか満足に見えなかったエナガやカワセミも詳細を見せてくれます。素晴らしい!

視野角

見かけ視界(旧JIS)59.2°は決して広くはなく、高級双眼鏡としては平凡です。もう一声欲しかったところですが、軽量性とのトレードオフで贅沢は言えませんね。

(それを倍率16で割った)実視界3.7°というのは、一般的な双眼鏡の1/4の面積しか映せない訳で、想像通り狭いです。今のところ目標が一発で視界に入る確率は低く、多少の練習が必要そうです。

最短合焦距離

カタログスペックで12mとなっており、野鳥を見るには長すぎるかと購入前1番気になっていたポイントでしたが、私の個体は9m付近まで寄れるようです。この3mは大きい差です。結果、1時間半の探鳥で1度だけ近すぎてピントが合わないことがあったものの、遠方が見やすくなる機会の方が圧倒的に多いので妥協できる範囲でした。

関連して、高倍率ならではのピント面の薄さ(これは倍率と口径でほぼ決まる)も実用上気になるところです。鳥見では頻繁にピント合わせが必要なことを許容しないといけません。使い始めに左右の視度もキッチリ合わせてやる必要があります。

無限遠の余裕に関しては、少なくとも-5Dくらいはあるようです。私は普段-5Dくらい(左右差や乱視もある)のメガネをかけていますが、裸眼でも問題なく無限遠にピントを合わせることができました。

収差ほか

色収差に関して、EDレンズ採用ということで改善努力されています。月を見ていると、色収差は分かるものの気にならない程度です。一方で暗がりをバックに立つダイサギで、はっきり色付いて見え、かなり軸上色収差が気になったケースもありました。高倍率の分だけ、対物系の色収差が拡大されてしまうのは仕方のないことです。総じて、購入前に想像した程度の色収差でした。

早朝の太陽が低い時間帯にも一通り使ってみましたが、特に気になる場面が無かったので逆光耐性は良好だと思います。鏡筒内部にも遮光環が複数設けられており、コーティングの質も良いものです。

まとめ

設計に関して不十分な点や、避けられないトレードオフを感じるポイントはありますが、遠方の物を拡大して細部を見せる能力は大変優れており、軽量さも魅力です。「手持ち最高画質」の売り文句に違わぬ、価格に見合った商品になっていると思います。大事に使っていくつもりです。

高額商品ですので、購入前に気になる点もあると思います。もし記事に書ききれなかったことで質問等あれば、お気軽にコメント欄からどうぞ。

参考リンク集

[1] Cloudy Nights:類型機の電源LEDの件
[2] Binomania:類型機レビュー
[3] IT media記事

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