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"本当の"シャーペンを触った話
中学生になる少し前、小学6年生の頃の話。
まだパカパカ筆箱を片手に鉛筆を使っていた頃。シャーペンは父親の車内の座席下から出てきた緑のノーマルクルトガしか持っていなかった。それを使って宿題をこなしていたかと言われると特にそんな事もなく、緑クルトガは机の奥に眠っていた。
愛用していた鉛筆は、トンボの「Hello Nature」という鉛筆の2B。特にこだわりも無かったから近場の文房具屋で適当に選んで買っていた。
何故2Bなのかというと、答えはシンプル。
濃くて滑らか、ストレスフリーな書き味が好きだったから。当時は書道塾に通っており、その中で4B、6Bの鉛筆で硬筆をする機会があった。色々な影響からHBなど硬めの鉛筆を使うという概念が無かった。
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ちなみに俺の小学校では赤ボールペンの使用が許可されていた。使っていたのは、父親から貰った「フリクション」。パイロットの代表的なボールペン。まさに普通。今なら絶対に買わないペンだが、当時は何も思わずに使っていた。
分解しては元に戻す。時々力を入れすぎて軸にヒビが入ってしまうこともあった。
あの頃は筆記具に意識を向けて生活をすることが無かったし、この数年後に何軒も文房具屋を回り、百何本もシャーペンを集める男になるなんて思いもしなかった。そんな俺だったが、ある日人生を変える出来事があった。
小6の二学期だったか三学期だったか。そのくらいの時期に目的もなく父親と文房具屋へ立ち寄った。「もうそろそろシャーペンを使い始める頃じゃないか?」父の何気ない一言。たしかにもう少しで中学へ行くし、1本くらい試しに買ってもいいなと思い、シャーペンが置いてあるコーナーへ。
沢山のシャーペンが並んでいたが、どれもよく分からない。とりあえず黒色を買っておけば間違いないと思っていた矢先、あるペンが目に入ってきた。
それはコクヨの「鉛筆シャープ」だった。
鉛筆?シャーペン?その謎めいたネーミングに惹かれ、サンプルを手に取る。金属製の高そうな見た目。父親が俺の元へやってくる。0.9mmなんて太くないかという一言。
たしかにシャーペンといえば0.5mm。その程度の知識しか無かったが、0.4mmの差というものは言葉だけでも大きいものだという事は容易に分かることだった。試し書きをしてみる。たしかに太い。まるで鉛筆のような太さと濃さ。
そう、これが鉛筆シャープだった。鉛筆のようなシャーペン。硬筆で6B鉛筆を使う自分にとって、この滑らかさと、文字の太さは見慣れていた物だった。
値段は1000円。メタルグリップ。隣にあった下位モデルは600円。そっちは持ち手がラバーだった。小6ながらにして高いなと思ったが、ラバーはベタつくから金属の方が良いと父親が高いモデルの方を買ってくれた。これからはコイツと宿題をやって硬筆もやるんだ。紙袋に入った鉛筆シャープとコクヨの0.9mm、2B芯を見ながら今後の展望にワクワクしていたことを今でも忘れない。
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新入りの鉛筆シャープ。小学校ではシャーペンの使用は禁止だったため、家でしか使えなかった。ノックする感覚、芯を削らなくていい。快適な"シャーペン"という文明の発達の中で生まれた産物に感謝をしながら書き心地を楽しんでいた。
中学に入ってからもコイツと俺は一緒だった。小6の三学期、1月に鉛筆シャープを買った文房具屋で「グラフ1000 フォープロ」をお小遣いで購入。初めて自分のお金で買った(厳密には親の金だが)記念すべきシャーペンになった。2月にはAmazonで「ケリー」ステッドラーの多機能ペン「アバンギャルド」など1000円超えの文房具をまとめ買い。何があってそんな大金を文房具に費やしたのか、何を思って文房具にこだわりだしたのか。これが今でも分からない。覚えていない。
鉛筆シャープの話から少しズレたが、こう文章を綴り、紆余曲折あって今の自分がいるんだなと実感した。この鉛筆シャープはその後分解していたら部品が飛び戻らなくなった為死亡。
組み直し、写真を1枚。
1軍だったコイツも今では机の中へ。
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