見出し画像

わんわんとジャンプ(小説)

※この小説のサムネイルには、イワヤさん(https://twitter.com/null_p_p_p_p)の描かれた絵を使わせていただきました。そしてこの小説は、その絵を元にして千福が書いたものです。素晴らしい絵をご提供くださったイワヤさんにこの場を借りて感謝申し上げます。


 わんわんの飼い主は焼かれていました。少し前に、お父さんが念仏を唱えたばかりでした。お寺の一人娘なんだから天国に行けるかな。天国と極楽浄土の違いは、わんわんには分かりませんでした。

 わんわんの横にはお母さんがいました。しゃがんで、わんわんを撫でてくれていました。撫でてくれたけれど、ナツとは少し撫で方が違うのでした。蝋燭の炎が揺れるみたいに、強い力で、便りなく撫でるのでした。

「わん!」

 そんな風に撫でられるのが嫌で、わんわんは大きい声を出しました。するとお母さんは、外に行ってらっしゃいと言って、リードを離しました。ナツとお揃いの色、青色の首輪を握る人はいなくなりました。わんわんは全速力で走りました。

 境内にある火葬場の外に出ると、そこには、誰もいませんでした。ナツもいません。わんわんは遊ぶ事も出来ません。じっとしていました。ずっと。空を見ていました。雲の流れを追っていました。無心になろうとしました。でもわんわんは退屈してしまいました。ナツがいたらなあ、と思うのに、ナツは来ないのでした。火葬場からは、炎のような西日に照らされた薄ら黒い煙がもくもくと出ていました。

 それが、ナツでした。

 悟りきったような目をしていたナツは、実の所、空っぽだったのでした。わんわんは、ナツを喜ばせたくてずっと、ナツの側にいたのでした。ナツと遊んでいる間、ナツとじゃれている間、楽しいのはいつもわんわんだけでした。ナツは滅多に笑う事はありませんでした。1日に1度くらい、口角を少し上げるだけでした。それでも、わんわんが楽しいという事そのものが、ナツが楽しいという事と等しい、そんな気がして、わんわんは、ナツと遊び続けたのでした。

 わんわんのいない時のナツは、きっと黒い闇なのだと思いました。誰も掴む事の出来ない黒なのだと思いました。

 煙は、風に乗って流れて行っていました。わんわんはそれを追いかけました。空を見ながら、トテトテと歩きました。黒い煙は、わんわんから逃げるように、どんどんと流れていきました。何で逃げるの? ううん。わんわんには分かっていました。これはナツの意思ではない事。死ぬという事は、離れるという事。黒い煙は、わんわんから離れていきます。わんわんはそれを、トテトテと追いかけるのでした。トテトテ、トテトテ。どこまでも、追いかけられるような気がしました。そんな事はないと知っているのに。

 ドテ。

 わんわんは、よろけてしまいました。右の頬が、境内を囲う塀にぶつかったのでした。ナツはどこかへ離れていきます。わんわんは、ナツを見つめました。それから、塀を触りました。そして、その塀がとても堅い事を知りました。ナツが離れていきます。わんわんは2度、3度吠えました。しかし、吠えても悲しくなるだけだと分かると、吠える事も出来なくなったのでした。

 煙が見えなくなった頃、ナツは骨だけになっていました。わんわんはお母さんと一緒にその骨を見ました。お母さんは、骨を1つ、手に取りました。それを、大事に大事に手に持って、抱きしめていました。口を付けていました。わんわんはナツの骨には触れられませんでした。行け。そう、わんわんに命令する人が、いないからでした。

 わんわんは、触れない骨を見ているのが辛くて、自分のおうちに帰りました。わんわんのおうちはお寺の横の、ナツのおうちの茶色いソファでした。わんわんはそのソファを使い古していました。座面はボロボロでした。そのソファに座るのはわんわんとナツだけでした。わんわんはそこに寝転ぶと、少し安心するのでした。そのままうとうと、眠くなって、寝てしまいました。黒い煙は、もうずっと遠くへ、離れていってしまいました。

 目が覚めると、お線香の匂いがしました。ナツとよくお墓の周りで遊んでいた時に、この匂いを嗅ぎました。だから、ソファに座りながらこの匂いを嗅ぐのは不思議な気分でした。わんわんは、すくっと立ち上がりました。ソファの背もたれを使って立ち上がり、辺りを見回しました。リビングの端っこに、ナツの写真の乗った立派な台が置いてあって、そこにお線香がありました。わんわんは早足でそれに近付きました。ナツです。写真のナツは、真っ直ぐに口を噤んでいました。

「わん!」

 わんわんは鳴きました。返事はありませんでした。わんわんは写真に触ろうとしました。けれど、実際には触りませんでした。昔、お墓の写真を触ろうとしたら、ナツに怒られたのを思い出したのでした。でも、その後でゆっくり抱き締められた事を思い出すと、触りたい、触りたい、そう思って仕方がないのでした。

 お線香の匂いは、それからずっと、わんわんの鼻に入ってきました。わんわんはその匂いをずっと嗅いでいたくて、ソファにずっと座っているようになりました。鼻が匂いに慣れてしまった事に気付くと、急いで墓地まで走って、その間に鼻の調子を戻してから、お墓でお線香の匂いを嗅ぎ、それから急いでおうちまで戻って、またお線香の匂いを嗅ぐのでした。わんわんが走って向かった墓地の中に、ナツのお墓がある事には、わんわんは気付きませんでした。

 けれど、わんわんは別の事に気付いていました。お線香からは、白い煙が出る事。お父さんの置いたお線香からは、黒い煙が出ない事。わんわんは、離れていったナツの行方が気になって仕方ありませんでした。だからわんわんは、墓地まで走った時には、必ず塀まで向かうようになったのでした。でも、手を当てて、それが壊れそうにない事を確認すると、吠える事も出来なくなって、トボトボとおうちに帰るのでした。わんわんが塀の外にお散歩に行く事は、もうありませんでした。

 わんわんは段々と痩せていきました。ご飯が嫌いになっていきました。ソファに座っている時間が長くなりました。お母さんはいつも眠そうでした。お父さんはお寺にずっといました。わんわんは、ソファにずっといました。お線香の匂いには、遂に完全に慣れて、わんわんの鼻は元に戻らなくなってしまいました。お線香は、黒い煙を出しませんでした。

 わんわんは、夢をたくさん見るようになりました。勿論、全部ナツとの夢です。ナツ以外との思い出なんて、わんわんには1つもありませんでした。わんわんが、ナツの無くしたブレスレットを見つけた時、ナツはわんわんをすごく褒めてくれました。もう誰も触る事のないわんわんの背中を、何度も何度も、撫でるのでした。顔も何度も撫でるのでした。嬉しくってナツのお顔を舐めようとした時、舌が空を切り、ナツがいない事が分かるのでした。

 夢を見る度、ナツに会いたいと、思うようになりました。

 塀は堅くて、それを思うとわんわんは息が詰まるのでした。ナツは今どこにいるのだろう。わんわんはそればかり考えていました。また、会いたい。それで、塀の外でお散歩したい。そう、思うのでした。

 わんわんはお母さんに、お散歩のお願いをしました。ふんふんと、お母さんの足に鼻を当てたのでした。お母さんは、料理をしている最中でした。いい匂いが、台所に立ち込めていました。お母さんは、わんわんを見ませんでした。てきぱきと、料理をするのでした。わんわんは、台所の外で、お座りしていました。きっとだめだと、分かっていました。お母さんは、わんわんをお散歩に連れて行ってくれません。それでも、期待してしまうのでした。心臓がばくばくするのでした。何十分も、そうやって、お座りして、お母さんを待っていました。

 お母さんは、料理を終えると、私ちょっと眠いの、そう言って、お母さんの長いソファに寝てしまいました。わんわんは、自分が思ったよりしょんぼりしていない事を確かめていました。けれど、段々と、悲しさが込み上げてきて、くうん、と鳴いてしまったのでした。お母さんはわんわんを少し睨んで、それからまた寝てしまいました。

 お父さんはどこにいても、念仏を唱えている時のように目を閉じていました。お父さんは心の中で念仏を唱え続けているのかもしれない、そう思うと、お父さんにお願いをする事は出来ませんでした。

 わんわんは、ソファに座っているしかありませんでした。ナツの事を考える以外にする事はありませんでした。けれど、それはわんわんの本望なのでした。わんわんはナツの事をずっと考えていたいのでした。でも本当の本当は、ナツがどこに行ったのかを確かめたい。それは、叶わぬ夢でした。

 お寺にお参りに来る人の後を付いていけば、お寺から出られる事。実はわんわんは、それを知っていました。わんわんは何度も、そこから出て行こうと思いました。けれど、それはナツにきつく止められていた事なのです。わんわんは守りました。ナツはどうしてあんな事を言ったのだろう、ナツがあんな事を言っていなければ、すぐにここから出られるのに。わんわんはナツを責めたくなってしまいました。それでも、そんな事はしてはいけない、ナツはこんな事になるとはきっと思ってもみなかったのだから、これはナツのせいじゃないと、自分に言い聞かせました。じゃあ一体誰のせいなんだろう。わんわんは、考えたくもない事を、考えて悲しくなりました。誰のせいでもないのです。わんわんは一人ぼっちで、ナツの事を考えようとしました。

 ある日の事です。わんわんはお父さんに、お散歩のお願いをする決心をしました。ナツとの思い出を、およそ全て振り返ってしまった事に、気付いたからです。ずっと一緒にいたのに、振り返る事が出来るくらいしか思い出がない事に、わんわんは悲しくなりました。どうして、もっと沢山覚えていないのだろう。何でこれっぽっちしかないのだろう。もう終わり、そんな気がして、わんわんは何にでも八つ当たりしたくなってしまいました。お散歩に行けば、何か思い出せるかもしれない。そうしたら、まだ何とか、繋ぎ止められるかもしれない。同じ思い出を何度も何度も、何度も思い返す。それはわんわんにとってとても大事な事でしたが、わんわんは、まだ思い出していない思い出を、どうしても見付けたかったのです。お父さんにふんふんと、鼻を当てて、頬を当てました。寝床のお父さんは、眠ったままです。わんわんは、諦めませんでした。何せ、起きている時のお父さんは、わんわんがちょっとでも触れるとすぐに逃げていってしまうのです。チャンスは今しかありません。

「はふはふ」

 わんわんはお父さんに必死に息を吐きました。

「煩いな」

 そう、お父さんは小さく呟きました。わんわんはお父さんの前で丸まりました。お父さんの顔は何もわんわんに教えてくれませんでした。何も考えていない、安らかな顔でした。わんわんは昔に戻りたいと思いました。お父さんはこんな顔ではなかったのです。もっと優しい顔をしていたのです。どうして、いつから、こんな、お面みたいになってしまったのでしょう。わんわんは、お父さんまでも失ってしまったように感じました。

 だとすると、先程わんわんに、煩いと言ったのは誰なのでしょうか。あれはもう、お父さんではないのでしょうか。もしそうだとしてわんわんは一体誰に煩いと言われているのでしょうか。わんわんの目からは涙が溢れてきました。その涙はお父さんの布団を濡らしました。その布団は青かったのです。わんわん。もういいよ。もういいよ。そう言われたくて、わんわんは頑張ってきたのでした。わんわんは頑張ってきたのでした。もう、駄目でした。わんわんは、泣いても泣いても、どうしようもありませんでした。悲しくて、震えていて、そのうち自分の中に真っ赤な炎を見出したのでした。何が燃えたらこんなに真っ赤になるのでしょうか。蝋燭も遺体も石油さえも、それほど真っ赤に燃える事は出来ません。黒い煙がもくもくと、わんわんの心を満たしていきました。わんわんは一生懸命、煙を追いかけます。でも少し考えれば分かるように、それは自分で自分を追いかける事で、わんわんはくるくるとその場で回る他なかったのでした。ナツが自分の心にいるのに、ナツを抱きしめられないのでした。今を逃せば二度と会えないかもしれなくて、わんわんはそれが不安で、一生懸命にくるくると回るのでした。お父さんを踏み付けながら、転びながら、くるくると回るのでした。お父さんが起きている事にも、立ち上がった事にも気付かないで、とにかく一生懸命でした。だからわんわんは、お父さんがわんわんを蹴り上げてもくるくると空中で回っていて、リビングのガラス戸に激突する時に受身を取れなかったのでした。痩せ細ったわんわんは無事ではありませんでした。きっと骨が幾つも折れました。とても痛かったのでした。わんわんは何が起きたのか分からず、その目は点になりました。それでも、立ち上がってわんわんを睨み付けているお父さんを見付けると、わんわんはどうしようもなく真っ赤になりました。心だけではありません。目も鼻も、真っ赤になりました。わんわんはすぐ左にあるナツの写真に飛び付きました。写真は地面に落ちました。わんわんはその写真を何度も何度も舐めました。お父さんは近付いて来ませんでした。わんわんは甲高く叫びました。

「わおーん!」

 その後もわんわんはナツの写真を咥えて、舐めて、咥えて、ずっと戯れていました。そうして2人でいたのでした。お父さんもお母さんも余計でした。わんわんは何度も吠えました。何度も何度も吠えました。そして戯れ続けました。戯れている間、わんわんはいつお父さんが来るのかと、待っていました。掛かって来るなら来い、殺すなら殺せ。そんな気持ちでした。そしてわんわんが戯れ疲れた時、その瞬間を待っていたかのように、お父さんはわんわんに掛かって来ました。お父さんはもう一度、わんわんを蹴ろうとして来ました。その時を狙っていたわんわんは、思い切りジャンプして、お父さんの右腕をガブリと噛みました。噛み切りました。お父さんは呻き声を上げました。お母さんはいつの間にか起きていて、寝ぼけた目でわんわんとお父さんを見ると絶叫しました。そして思い切り駆け寄って来て、わんわんを両腕で強く掴んで、大声で何やら叫び続けました。わんわんは耐えられませんでした。何でこんな事ばっかりなのだろうととても悲しくなりました。わんわんはナツに会いたいだけなのでした。どうしてこんなに難しい事が起きるのか分かりませんでした。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。わんわんの目は真っ赤でした。どうして会わせてくれないのどうして何もしてくれないの、どうしていないみたいにするの。わんわんは自分でも知らぬ間にお母さんの腕も噛んでいました。お父さんはわんわんをまた蹴りました。やめて!と叫んだのはお母さんでした。わんわんは写真の飾ってあった場所に突っ込みました。そこにあった壺が転がりました。そこから出て来たのは骨でした。ああ何だ。ここにあったのか。ずっと近くにあったのだと知り、わんわんは少し安心しました。その瞬間を逃すまいとお父さんがまた蹴ろうとするのを、お母さんが必死で止めました。お父さんの脚にお母さんが片腕で強く掴まっていました。お父さんはそれで蹴るのを止めました。お母さんは暫くお父さんの脚にしがみ付いていた後、ゆっくりと動いて、リビングから外へ出る為のガラス戸を開けました。わんわんはそれをずっと見ていました。お母さんが開けた後も、わんわんはその開かれた戸を見ているばかりでした。しかしお父さんはそれを許しませんでした。

「出てけ!」

 お父さんはまた脚を出しましたが、疲れているのか、もう今までのような素早さはありませんでした。わんわんはその蹴りを避けるようにして、外に出て行きました。ひたすら走って、塀が近付いて来ました。どうしようなんて考える事はありませんでした。わんわんは塀に向かって突っ走りました。そして塀の目の前でジャンプ!

 わんわんはいとも容易く、塀を乗り越えました。着地すると、そこは薄暗い道で、車1台が通れるくらいの幅しかありませんでした。わんわんはお家を振り返りました。もう本当に、わんわんの居場所はそこにはありませんでした。どうしてでしょうか。わんわんは何を間違えてしまったのでしょうか。そんなに悪い事をしたのかな。わんわんの目からはまた、涙が出ました。もうナツの骨を見る事も出来ないと思うと、一層悲しくなりました。何で? 何で? お父さんもお母さんも、答えてくれません。わんわんはクゥンクゥンと鳴く事しか出来ませんでした。寒いのも痛いのも堪えて、そこでずっと鳴いていました。大きな声を出すとお父さんとお母さんに聞こえてしまうと思って、小さな声で鳴いていました。どうしてお父さんとお母さんになんか気を遣っているんだろうと思うと、むしゃくしゃして、わんわんは何もかも壊してしまいたくなりました。けれどわんわんは賢くて、そんな事をしても何にもならないと知っていました。だから小さく、クゥンクゥンと鳴く事しか出来ないのでした。夜が明けるまでわんわんは鳴いていました。ずっと静かでした。怒号も、苦笑も、サイレンも聞こえませんでした。わんわんが鳴くのに呼応するように鳥の囀りが聞こえた時、わんわんはその同情が穢らわしいと思って、塀の前から離れていきました。

 穢らわしいなんて思ってごめんねと、わんわんは鳥に思いましたが、それが鳥に伝わる事は決してないのでした。


   *   *   *


 わんわんはてこてこと知らない道を歩きました。身体がずきずきと痛くて、もう歩くのを止めようかと何度も思いましたが、止まった所で痛いものは痛いし、それにここで止まっては負けだと思いました。折角外に出られたのに、休んでいては意味がないのです。わんわんは自分に厳しくあろうとしました。人のいる方を目指して、歩き続けました。てこてこと。わんわんは走れない自分に苛立ちました。塀を超えた時は、気持ちが昂っていたのです。だからわんわんは、痛みなんて感じないでジャンプ出来たのです。その気持ちはもう、切れていました。わんわんは、自分を情けなく思いました。あの煙になったナツをまだ見付けられていないのに、もう気持ちの昂りが終わってしまった事を恥じました。

 わんわんは目的もなく歩き続けました。歩きながら、これからどうすればいいのだろうかと考えました。ナツを探すのです。でも、考えてみれば、ナツは煙と骨になったのです。骨は、お家にあります。取りに帰る事は出来ません。あんな事になってしまったのです。いくら煙を追いかけても、掴まえても、骨がないのでは、仕方ないのではないか。ナツはナツにはならないのではないか。わんわんは怖くなりました。でもそれは、一瞬の事でした。わんわんは思い出したのです。お葬式の日の事。わんわんがあの、無理矢理に明るさを与えられた黒い煙をただただ追いかけた時の事を。あの時、わんわんは、そこにナツがいると、直感していたのです。骨からは、ナツはいなくなっていました。お父さんに蹴られて骨を見つけた時には、確かに安心しましたが、それはナツの片割れがそこにあったから安心したのであって、やはりそこにナツがいるとは思えなかったのでした。実際、わんわんがお家から逃げ出す時、わんわんは、ナツの骨を持って行きたいとは思わなかったのでした。

 道を歩く人の数が多くなっていきました。建物は四角く、高くなっていきました。もう、わんわんのお散歩コースからは完全に外れていました。通り過ぎる人々の半分はわんわんを無視しました。残りの半分は、わんわんをじろっと見ました。中にはわんわんを指差す者もいれば、通りすぎた後に振り返ってまで見て来るものもいました。何でそんなに見て来るのだろうと思って、わんわんは自分の身体を見ました。血が沢山付いていました。わんわんの黒い身体は、今は赤黒くなっていました。西日に照らされたかのように。わんわんはそれを、一刻も早く洗い流したいと思いました。忘れ去ってしまいたかったのです。自分の心に、お父さんやお母さんの心に何があったのか、考えたくはなかったのです。けれど洗える場所がありませんでした。洗うのに丁度いい川は見当たりませんでした。それに、洗ってくれる人も、いませんでした。わんわんは暫く、血を身体に付けたままでいるしかないようでした。

 電車が見えました。そして人々が駅に吸い込まれていました。この辺りには、ナツと来た事がありました。お父さんとお母さんが一緒だった時もあったと思います。でもその時だって、ナツはわんわんと一緒でした。もしかしたら、ここにナツがいるかもしれない。そう、わんわんは思いました。でもそれは、ナツが地面まで降りて来ていればの話でした。ナツは黒い煙のまま、お空のどこかをうろうろとしているのかもしれないのでした。大気中に拡散して見えなくなってしまっているのかもしれないのでした。わんわんはでも、取り敢えず、ナツは地面に下りて来ていると信じる事にしました。地面を探して見付からなかったら、他の場所を探そうと思いました。わんわんはナツとまた会えるか不安でした。ナツと会ったら何をすればいいだろうと考えました。ナツとは話せるでしょうか。抱き締められるでしょうか。分かりませんでした。わんわんは分からなくて悲しいのでした。だから今は、ナツを探す事に集中して、ナツがいないかな、ナツはどこかな、それだけを考える事にしたのでした。

 まずは、ナツと一緒に行ったショッピングセンターに入る事にしました。人々はジロジロとわんわんを見てきましたが、それを気にしても仕方ないので、わんわんは何食わぬ顔でいるようにしました。わんわんは1階をぐるりと回りました。ナツとは、1階を歩いた事はあまりありませんでした。一度来た事のある動物病院があるだけでした。だからナツはいそうにありませんでしたし、実際いませんでした。2階に上がろう、そう思ったわんわんは、はっとしました。どうやってわんわんだけで2階に上がるのだろう。前に来た時は、ナツがわんわんをケージに入れてエレベーターに乗っていたのです。今はわんわんだけです。わんわんだけではエレベーターに乗れませんから、エスカレーターに乗らなくてはいけません。狭いエスカレーターの1段に、わんわんは乗らなくてはなりません。わんわんはエスカレーターの横で暫く、それが動いているのをを眺めていました。そうしている間にも、多くの人がそれに乗っていきます。それを見ていると、わんわんは何だか、自分にも出来そうな気がしてきました。自信が付いてきました。なので人の流れが切れた時に、わんわんはエスカレーターの前に行って、後ろ足に力を溜めた後、軽く地面を蹴りました。でもその瞬間、わんわんは怖気付いてしまったのです。小さなジャンプ。最悪な結末が待っていました。わんわんの前足はエスカレーターに乗り、後ろ足はまだ乗っていませんでした。わんわんの身体はどんどん伸ばされていきます。わんわんは身体が痛むのを感じました。わんわんは必死で後ろ足をバタバタしました。一生懸命に地面を蹴りました。そして、何とかエスカレーターに乗る事に成功しました。後ろ足がエスカレーターの隙間に挟まるんじゃないかと、わんわんは怖かったのですが、そうなる事はありませんでした。わんわんは安全設計のエスカレーターに感謝しました。降りる時は、まずちょこんと前足を地面に置いてからゆっくり歩く戦法で上手く行きました。とても滑らかに下りる事が出来ました。わんわんは少し自惚れました。

 2階にはナツのよく行っていた服屋さんがありました。ナツはお店では色んな服を見るのですが、最後には黒とか茶色の服を選ぶのでした。ナツが服を見ている時、わんわんは、お店の外からナツを見ていました。服を選ぶナツは他のどんな時よりも真剣でした。わんわんはそんなナツが好きでした。

 お店の外から見る限り、ナツはいません。けれどお店の通路は狭そうだし、服が沢山の死角を作っていて、お店の中全部は見れませんでした。もしお店の中にナツがいるのなら、きっと歩き回っているだろうから、お店の外からでもいつか見えるだろうと、試着室に入っていたとしても直ぐに出て来るから、10分経ってもここからナツが見えないようならナツはいないのだろうと、わんわんは思いました。10分経って、ナツは見えませんでした。ならばここにはいないと、わんわんは考えようとしました。したのですけれど、どうも不安で、どうしても不安なのでした。それでつい、こっそり、わんわんはお店の中に入ったのでした。

 わんわんは気付かれないように、静かに、抜き足差し足入ったつもりでした。しかし荒い息のせいか、案外直ぐに店員さんに気付かれてしまいました。店員さんは、ハキハキしててリーダー的存在になれる性格であろうお姉さんでした。店員さんはわんわんを見ると、まずぎょっとして、でもそれから優しくわんわんを後ろから押しました。わんわんがされるがまま歩いていると、ついにお店の外に追い出されてしまいました。わんわんは、1人でお店の中に入る事は出来ませんでした。勿論わんわんは悲しくなりましたが、ナツはわんわんが見つけられないような所にはいない筈なので、そこまで気落ちした訳でもないのでした。しかし、ならば今わんわんがナツを見付けられないのはどうしてなのか、ナツがわんわんから隠れているからではないかと考えると、深く悲しくなってしまいました。

 わんわんは、3階へ行くエスカレーターには上手く乗る事が出来ました。3階と4階は、通路を歩いて軽くお店の中を覗くだけにしました。それなのに皆、わんわんを見て来ました。わんわんは居心地が悪くて嫌な気持ちになりました。それだけではありません。警備員さんがわんわんの後ろをずっと付いて来るのでした。わんわんはそれに気付いてから、少し早足にして、警備員さんから遠ざかろうとしましたが、警備員さんの方も早足になって付いて来るのでした。わんわんは、もうここから出ようと決めました。ナツもいませんでした。あんな事になってしまったから、天罰なのかなと思いました。前から警備員さんが歩いてきました。振り返ると後ろにもいます。挟み撃ちでした。わんわんはこのままでは捕まってしまう、そうしたらナツを探せなくなってしまうと思いました。それだけは避けなければなりませんでした。横にエスカレーターがありました。わんわんは決断するよりも早く、エスカレーターを駆け下りました。1階分のエスカレーターを3歩で下りました。わんわんは徐々に速度を上げ、2階から1階へは、エスカレーターを使わないで、空中をジャンプしました。勢い余ってわんわんは、向かいのお店に置いてあった布に体当たりしてしまいました。その布が一体何を形作っているのか考える事もなく、わんわんは入口を目指して走り、逃げおおせました。無事ではありませんでした。

 わんわんは公園に逃げ込みました。そして痛いのをひたすら堪えました。前足は動きませんでした。後ろ足は感覚がありませんでした。お腹はぐるぐるとしました。頭はぼうっとしました。いい夢が見られるといいな。そう思いました。そうしたら、痛さを忘れられます。きっと、忘れられるのです。

 夢の事を考えていたわんわんは眠くなって、寝てしまいました。寒い夜がやって来ました。もう夜は十分に寒いのでした。わんわんは何度も震えました。その目は閉じていました。物好きな鳥達は、わんわんは直に死ぬだろうと思って様子を見ていました。それでもわんわんは震えて、震えて、自分の震えで目を覚ましたのでした。鳥達は気まずいみたいに、一斉に羽ばたきました。

 わんわんはまた、追い出されました。今度は、嫌な思いをさせてしまった筈もないのに、追い出されてしまいました。わんわんはとても悲しいのでした。ナツを見つけるのは、思っていたよりも何倍も大変なようです。探そうにも、わんわんが入る事の出来る場所が少ないのです。わんわんは、今日と同じ事を何度も繰り返さなくてはならないのかと思うと、深い溜息を吐く他ないのでした。

 何より、わんわんには体力がありませんでした。大変な事がずっと続きました。今までの生活も大変でしたが、それとは種類の違う大変さでした。もう動く気も起きません。本当にくたくたで、でも頭の奥底からふわふわと、ナツを見つけなきゃという思いが湧き上がって頭を満たすのでした。それで頭は、ぼうっとしてしまい、それ以上は考えられないのでした。今はとにかく寝よう。そう考えて、わんわんは蹲りました。わんわんが寒くないようにと、木の葉が集まっていましたが、わんわんはその香りが好きではありませんでした。

 翌日になると、わんわんはヘトヘトながらも何とか歩く事が出来ました。だからわんわんは、今までと違う所を探そうと思いました。どこを探そうかなと考えている内に、昔にナツと行った商店街を思い出しました。そこで、黒い煙を見たような気がしました。何の煙だったでしょうか、わんわんは覚えていません。それでも、朧げながらもこんな事を思い出せたのは、きっとナツがわんわんを導いてくれているからだ、だから商店街に行ってみようと、わんわんは思いました。もうわんわんには、何が辛いのか、何がしんどいのか分かりません。それでも、のっそり、のっそりと、足を踏み出せば、1歩、1歩と進むのでした。わんわんは風のない日を、人目に付かないようにしながら歩きました。商店街の場所は分からないけれど、そこには人が沢山いた事を思い出したわんわんは、取り敢えず駅の方に向かいました。駅の中に人々が吸い込まれています。わんわんはそれを、木の下で眺めました。商店街は見えません。駅の反対側にあるのだろうと、わんわんは推測しました。どうやって反対に行けばいいのか、わんわんは考えなくてはなりませんでした。駅の中を通る事は出来ません。わんわんは、どんな施設に入る事も出来ないのです。入れば、捕まえられてしまうのです。怖くて、施設の外ですら、人目を避けているくらいなのです。どうやったら、駅の反対側に行けるでしょうか。幸い、わんわんはこの謎を解く事が出来ました。

 わんわんは駅の左側の通りを歩く、人々の小さな流れを発見したのでした。きっとあの奥が駅の反対側です。わんわんはへふへふと歩いて、駅の反対側に着きました。すると思った通り、商店街はありました。大きな門の上に、商店街と書いてありました。わんわんのいる場所から商店街のその門までは100メートル程ありました。そこまで行くには、わんわんは駅前を通らなくてはなりませんでした。わんわんにはそれが億劫でした。捕まえられる捕まえられないの問題ではなく、単純に人が沢山いる場所を歩きたくないのでした。ナツ。ふと、ナツの事を思い出しました。わんわんは昨日今日と、ナツを探すのに夢中で、いや、ナツを探すのに夢中だったからこそ、ナツの事を考えていませんでした。わんわんはそれをとても恥じました。ひどく情けなくなりました。そして、こんな所でうじうじしている場合ではないと思いました。わんわんはしょんぼりと歩きました。

 商店街は思いの外、人の少ない場所でした。わんわんはそれにほっとしました。ゆっくりと商店街のお店を眺めました。床屋さんや不動産屋さんがありました。一番多いのは料理のお店でした。わんわんは匂いで気が狂いそうでした。どれもこれも、別に悪い匂いではないのだけれど、今は身体がどんな香りも受け付けませんでした。わんわんは自然と早足になりました。それでもナツがいないかを確認しながら、歩きました。首を一生懸命振って探しましたが、ナツは結局見付からないのでした。悲しい気持ちで来た道を戻ろうとした時、わんわんは、捉えました。黒い煙でした。細い路地の遠くに微かに、見えました。わんわんは、自分の鼓動を感じました。危ないくらいに速くなっていました。わんわんは心臓が速くなるのを抑えようと努めながら、敢えて普通の足取りで、その小さな路地に入っていきました。その煙は路地から更に、舗装もされていない道を一歩入った所から出ていました。黒い煙と言っても、ほんの少し黒いだけで、量もそんなに多くはありませんでした。そしてとてつもない匂いがしました。こんなんじゃない、とわんわんは思いました。けれど一応確認しないといけません。いけないという事はないけれど、もしもこれが本当はナツだったら、あまりに悲しいのです。だからわんわんはこの匂いが何の匂いか考えようとしました。

「いたぞ!」

 突然聞こえたその声は、警官の発した声でした。警官はこちらを見て少し笑いながら迫ってきます。わんわんは咄嗟に反対方向に逃げました。路地から元の商店街の通りに出た所で、先程とは別の警官が現れました。わんわんは今までで一番の速さで走りました。逃げられる。きっと逃げられる。わんわんはにこにこしていました。駅から遠ざかるように走れば、人からも遠ざかり、わんわんは風を心地よく感じました。にこにこと微笑むわんわんを邪魔するものなどありませんでした。何もしていないのに追いかけられる悲しさが、わんわんの心の中では喜びに変換されていました。どこにでも逃げられるとわんわんは理解しました。わんわんはかけっこが世界で一番速いのです。誰にも負けないのです。わんわんは強いのです。わんわんはとっても優しいのです。

 わんわんは森の奥まで逃げました。ここはどこの森だろう。わんわんにも、他の誰にも分かりませんでした。深く、暗い森でした。日が沈みかけて、木の上の方の葉っぱが少し赤みを帯びていました。わんわんはすっかり疲れてしまって、また眠たくなってしまいました。昨日とおんなじだな。わんわんは苦笑しました。瞼は勝手に閉じました。身体も勝手に崩れ落ちそうになりました。風が、それを妨げました。温かい風が、わんわんを掬うように吹いて、わんわんを支えながら歩かせました。わんわんはほとんど宙に浮いているかのような心地で、溜息を吐く事すら忘れてしまっていました。楽しい事がしたいな。わんわんは、楽しい事について久々に考えました。

 森の果てまでやって来たようでした。風はそこで止みました。草原が広がっていました。ついさっきまで人ごみの中にいたような気がするのにどうしてだろうなと考えると、わんわんは愉快な気持ちになりました。わんわんはナツと一緒に数独をした時の事を思い出しました。ナツが何を考えているのかを考えるのは、とても楽しかったし、それに、ナツがマスに入れていく数字の模様はとても綺麗でした。

 目の前には、大きな褐色の、煉瓦造りの煙突がありました。そしてナツは、黒い煙となって、そのてっぺんにいました。煙は煙突からちょこんと出て、ずっとそこに止まっていました。ゆらゆら揺れながら、わんわんを見ていました。わんわんは、目を瞑りました。そして心の奥底からどうしようもなく、喜びが込み上げてくるのを、何とか堪えようとしました。あの煙はナツに違いないけれど、万が一もあるかもしれないのです。それに煙突はとても高くて大きい。煙突の地面の部分の直径は、10メートルもありそうでした。高さは分からないけれど、5階建てのビルくらいはありそうです。これでどうやって、ナツと会うというのでしょうか。どうやって、あの煙がナツだと確認するというのでしょうか。

 わんわんは深く悲しくなりました。ナツは話し掛けてくれませんでした。黒い煙は揺らめいているだけでした。わんわんはナツに向かって、どうしたらそこに行けるのか聞こうと思いました。でもナツはきっと答えてくれません。わんわんには分かるのでした。ナツは、他人の手助けはしない人でした。自分の事は自分でする人でした。でもナツにとってわんわんは、他人ではない筈でした。だから教えてくれてもいいのに。わんわんは、ナツの所に行きたくて、行けなくて、それでナツを責めようとしてしまいました。それを自覚して、わんわんは嫌になってしまいました。

 わんわんは天を仰ぎました。空を見上げました。黒い煙を見ました。黒い煙はゆらゆらと靡いていました。わんわんはその揺れ方に合わせて自分の身体を揺らしました。すると不思議な事に、段々と、心が軽くなっていき、わんわんはするべき事ただ1つを理解したのでした。あまりにも簡単に、あまりにも明快に理解できてしまったので、わんわんは自分でもびっくりしました。わんわんは、迷ったり悩んだりする苦痛から逃れ、今や世界一賢いわんわんになったのでした。

 どうすれば一番上まで行けるかは分からない。でもする事は1つだけでした。わんわんは心にぐっと力を込めました。心を熱くする為に身体が冷えて、武者震いがしました。わんわんは目を瞑りました。瞑っても、冷たい綺麗なわんわんの頭は、何か考えたりはしませんでした。する必要がなかったのです。わんわんは、黒い煙を見ました。それは、目標を確認する為でした。わんわんの切実な感情は、うだうだ言う事なく、目標と完全に同化していました。

 わんわんは冷えた身体で、達観したように透明な目で、それでも足取りは軽く、確実に、ゆっくりと走り出しました。速度を上げながら煙突の周りを1周、2周、3周として。自分の感覚が追い付かないくらいに速く。煙突に向かって。黒い煙に向かって。全ての自意識と責任から逃れ。心は高く、力強く、地面を蹴って、わんわんは飛び上がりました。

 わんわんは本当に高く飛び上がりました。煙突の半分まで、一飛びで達しました。そこから上に向かって煙突を蹴った時に、わんわんは自分の身体が重力に引っ張られるのを感じました。その時、わんわんは少しドキドキしました。煙突に前足を付けて、なお上がろうとしても、地面が強く、引っ張ってきました。わんわんはそれでも、前足を何度も何度も煙突に付けて、ほとんど垂直な面を駆け登りました。でも次第に遅くなっていきました。もう上には行けないと直感した時、わんわんはほんの一瞬で、自分の筋肉が麻痺するくらいに力を込めました。そして思い切り全身の筋肉を伸ばすと、バチンという音がして、ギュンとわんわんは上に飛びました。それがわんわんの最後のジャンプでした。わんわんは段々と、自分の身体を引っ張るものがなくなっていくのを感じました。わんわんはもう、煙突を押し上がる必要はありませんでした。わんわんは自分が上がっていくのを、ただ眺めていました。わんわんは次第に自分の周りが黒くなっていくのを喜びました。舌をハフハフしました。黒い煙はわんわんを包み込んで、わんわんと一緒に上っていきます。

「馬鹿だねえ」

 ナツの声でした。わんわんは舌を出してとびきりの笑顔になりました。

 ハフハフ。

「楽しく遊んでって言ったでしょう?」

 ハフウ。

「お父さんとお母さんが悪いね」

 ハフウ。

「怒ったからね、許さなくていいからね」

 ワン。

「許すの?」

 ワン! ワン。フウウ。

「まあ今度考えようね」

 ハフ。

「よく見付けてくれたね」

 ワン!

「私は嬉しいよ」

 アン! アン!

「大冒険だったね」

 フククウ。

「離れないようにしようね」

 クウ。

「じゃあ、一番上まで一緒に行くよ」

 ワン!

「うん。行こうね」




「嬉しいよ。ありがとう」

 ワンワン! ワンワン!




She and he met their most happy end together!!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?