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臨(小説)
半紙はことごとく理にかなっていない。薄いから保存性が悪いし、筆に墨を吸わせ過ぎると紙が水分で破れる。一番悪いのはその大きさだ。何文字までしか書かせないつもりだろう。多分あんな紙じゃあ、この文章だって、いやここまでの文章だけでも、書き切れやしない。
さらに服が汚れる。これは半紙は関係ないけれど。
にも関わらず私は習字が好きだ。何が好きって、何を書くかを決める時間である。この憎たらしい半紙に、全くくそほども価値のない半紙に、なんと書いてやろうかと思うと、心が躍る。こんな事を学校で考えていいのだろうかと不安になる。でも義務教育だから、考えていいんだと思う。
私はいつだって半紙に希望に満ちた、明るい文字を書く。そうやって半紙に、自身の惨めさを知らしめてやるのである。けれど半紙は全く懲りる素振りを見せない。だから私の習字は続く。授業とは関係なく。多分。
今日は「臨」という字を書いた。書くのが難しい字だ。でも友達はみんな、ダイナミックだねとか、黒黒してるとか、カッコいいねとか言ってくれた。自分が褒められているのか墨汁が誉められているのか、半紙が誉められているのか分からないが、嬉しくはある。
昨学期の書写の評定は「普通」だった。普通って何やねん。