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メロディだけを聴いている(小説)
内定を1つも貰えなかった時に、僕には暗い未来しか待っていないのだという事が分かった。文系で院まで行くなんて馬鹿な事をしたのは、完全に自分の楽観主義のせいだった。それが間違っていたとは思わない。けれど、僕はずっとバイトをしなければならなくて、ひたすら就活をしなければならない。夢を抱いた事はないが、今は目標を抱く事もない。就活に目標はない。それは、呼吸をするのと同じような、生きる為にしなければならない当然の事だから。
僕はバイト先の居酒屋まで、音楽を聴いて歩く。大学に合格した時に、自分への記念に買ったものだ。そこから僕は、色々な音楽を聴く事に夢中になった。中でもジャズに夢中になった。一番好きだったのは(恥ずかしい限りなのだが)ビル・エヴァンスだった。あの、何だかよく分からないがとにかく被覆されているような感じが心地よかった。本当はもっときちんとしたもので曲を聴きたかったが、そんな金はなかった。
そして今は、流行りのJ-POPばかり聴いている。それも、メロディだけを。それ以外の音には耳を貸さないようにして。そうしていれば僕は、取り敢えず見たくないものを見ないで済む。例えば、居酒屋に来るサラリーマン達が、僕からすれば全員、圧倒的な勝ち組なのだという事を考えなくて済む。そしてそうすれば人生はきっとうまく行く。今夜は満月だ。空き缶の転がった地面が、月と漏れ出る日光に照らされている。僕はそれを眺める。でも深く考えたりはしない。メロディを聴いているから、深く考えられないから。