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米政府が輸出規制管理規則に含めた半導体とは?(2024年9月最新版)

発表日:2024年9月6日

米国商務省産業安全保障局(BIS)が、先端技術の輸出管理を強化する暫定最終規則(IFR)を発表しました、主に半導体量子技術積層造形(3Dプリンティング)関連の品目が対象です。

この規則は2024年9月6日から施行されますが、一部の量子関連品目については2024年11月5日まで猶予期間があります、また、同日までパブリックコメントを受け付けています。

この記事では、IFRの内容を読み解き、米国政府が輸出管理対象とした半導体技術について説明したいと思います。


GAA半導体技術とは?

米国はGAA半導体技術を真っ先に規制対象にしています。ここで、GAA は "Gate All Around" の略で、日本語では「ゲート全周」と訳されます。

この名前が示すように、GAA半導体の特徴は、トランジスタのチャネル(電流が流れる部分)を完全にゲート(電流を制御する部分)で囲む構造にあります。

従来のPlanarタイプのトランジスタは、チャネルは1方向のみゲートと接していたのに対し、その後のFinFETタイプでは、チャネルは3方向がゲートと接しています。その後、今回輸出管理対象に明記されているGAAタイプは4方向がゲートと接しています。

Planar→FinFET→GAAと進化するにつれて、ゲートとチャネルが接している面積が広くなることにより、電流の制御性が高まることが大きな利点となります。

トランジスタ構造の進化。灰色の部分が電流が流れるチャネル材料。赤がチャネルを制御するゲート部分。(引用元:https://www.inrevium.com/pickup/cfet/)

米国がGAA半導体を輸出可能とした国は?

IFRの、G. みなし輸出およびみなし再輸出規制(Deemed Export and Deemed Reexport Controls)の項目において、以下のようにGAA半導体と半導体製造装置に関する文言を明記しています。

v. Technology Related to Gate-All-Around Field-Effect Transistor and Semiconductor Manufacturing Equipment

書かれている内容は以下のようにまとめることが出来ます。

  1. 米国商務省産業安全保障局(BIS)は、GAAFET技術に関する新たな規制を導入しました。

  2. 目的は米国企業の技術リーダーシップ維持半導体製造サプライチェーンの保護です。

  3. 特定国(Country Group A:5またはA:6)へのGAAFET技術の輸出、再輸出、国内移転を許可しています。

  4. 2024年9月6日時点で雇用されている外国人従業員や請負業者への技術情報開示も認めています。

  5. 年次報告義務があり、初回は2024年11月5日までに提出が必要です。

  6. この規制は、重要な外国人材の活用と国家安全保障のバランスを取ることを目指しています。

  7. 企業の自主的な情報保護を尊重しつつ、政府による監視を可能にする枠組みを構築しています。

  8. BISは、この approach が米国の技術リーダーシップを維持しながら、外国人材の活用状況を政府が把握できるようにすると評価しています。

ここで、Country Group A:5とA:6は、米国の輸出管理規則(EAR)において定義されている国のグループです。これらのグループに属する国々は、輸出規制において比較的優遇された扱いを受けます。

Country Group A:5

  1. 36カ国が含まれています。

  2. 主に先進国や同盟国で構成されています。

  3. 例として、オーストラリア、カナダ、日本、多くのEU諸国、英国などが含まれます。

  4. これらの国々は、戦略的貿易許可(STA)の対象となります。

Country Group A:6

  1. 8カ国が含まれています。

  2. A:5ほど緊密ではないものの、米国と良好な関係にある国々です。

  3. 例として、アルバニア、香港、インド、イスラエル、シンガポール、台湾などが含まれます。

なお、これらのグループ分けは国際情勢の変化に応じて更新されることがあります。例えば、インドは以前A:6グループでしたが、現在はA:5グループに移行しています。

米国の意図は?

つまるところ、米国政府はGAA半導体をCountry Group A:5, A:6に入っていない国への輸出を管理することにより、米国の技術的なリーダーシップを維持したいのです。

一度製品が輸出されると、その製品は現地でバラバラに解体され、丸裸にされてしまいます。実は、丸裸にされるだけなら、真似が出来なければ全く問題がありません。真似をさせないために、半導体製造装置(Semiconductor Manufacturing Equipment)も輸出対象になっている訳です。

もう一つの重要な意図は、スパイでない優秀な外国人技術者を米国国内で雇用し続けることです。

具体的な国名を挙げてしまえば、米中二国間では半導体に限らず明らかな摩擦が存在しており、技術争奪戦になっています。実際に、半導体技術者は多額の給与を提示されて、引き抜きに合うことも珍しくはありません。

したがって、外国人人材は引き抜きによる技術漏洩リスクがありますが、だからと言って全ての外国人人材の雇用を停止する訳には行かないため、米国政府は、”2024年9月6日時点で雇用されている外国人従業員や請負業者への技術情報開示”を認める形で、リスクとベネフィットのバランスを取っているのです。

まとめ

  • 米国商務省産業安全保障局(BIS)は、先端技術の輸出管理を強化する暫定最終規則(IFR)を発表しました。この規則は、主に半導体、量子技術、積層造形(3Dプリンティング)関連の品目を対象としており、2024年9月6日から施行されます。

  • 半導体の中でもGAA(Gate All Around)を規制対象としています。GAA半導体技術は、トランジスタのチャネルを完全にゲートで囲む構造を持ち、電流の制御性が高いことが特徴です。

  • IFRにおいて、GAA半導体技術の輸出は特定の国(Country Group A:5およびA:6)に許可されています。A:5にはオーストラリア、カナダ、日本などの先進国が含まれ、A:6にはインドやシンガポールなどが含まれています。これにより、米国は技術的リーダーシップを維持しつつ、戦略的貿易許可を通じてこれらの国々との関係を強化しようとしています。また、外国人従業員への技術情報開示も認められており、国家安全保障と外国人材の活用のバランスを取ることが目指されています。

  • 米国政府は、GAA半導体技術を含む半導体製造装置の輸出を管理することで、技術的優位性を維持しようとしています。米国は外国人材の活用を促進しつつ、技術漏洩のリスクを抑えるための枠組みを構築しています。

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参考文献


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