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新しい本作りの最前線。オンデマンド印刷工場の知恵と工夫を探る旅 | SeLn

こんにちは、〈SeLn(セルン)〉広報部です。

今回は、東武東上線みずほ台駅から約1キロメートルほどに位置する、〈SeLn〉が提携している〈ニューブック〉のオンデマンド印刷工場見学に行ってきました!2012年にラボから始まったこの工場には12年の努力が詰まっています。

今回のnoteでは、1冊の書籍が受注されてからプリント、製本され、お届けされるまでを「印刷現場の知恵と工夫を探る旅」として、前編と後編に分けてお届けします。ぜひ最後までお付き合いください。


出版物流の集まる街「三芳町」界隈

埼玉県南西側、所沢の手前あたりに位置する三芳町。実はこのあたりには「出版」関連の会社がたくさんある地域なんです。

〈ニューブック〉の倉庫のほかにも、〈DNP(大日本印刷)鶴瀬工場〉〈主婦の友図書株式会社〉、〈フレーベル館出版物流センター〉、〈㈱出版産業 所沢流通センター〉など、出版関連の大きな工場や倉庫がたくさん!

これは、首都圏への近さ、そして広い倉庫を構えられる土地の区分けなども関係しているからだと言われています。

実際の工場の中の様子。明るく清潔な工場

このオンデマンド印刷工場は、倉庫機能もあり、「オンデマンド印刷」をして、その場で製本し、本を完成させるところから、検品・梱包・発送するところまでを一貫して行っています。

ここで少し、具体的な「オンデマンドで書籍が作られるまで」を見てみましょう。

意外と人力?! 人の手で1冊ずつ作られる「オンデマンド書籍」

ネットから注文が入ってくると、すぐに書籍づくりの準備が始まります。でもその前に、最データチェックの工程があります。データに不備や足りないものがないかを確認し、不明点があれば入稿者と連絡を取って解決します。また、簡単な訂正などは工場のDTPオペレータが処理をします。

工場内には意外とたくさんのパソコンとパソコン作業をする職人が!

そして、印刷可能なデジタルデータが完成したら、第一段階の準備が完了です。このデータに加えて、どんな書籍(版型、用紙、製本形式、カラー・モノクロ、表面加工、右綴じ・左綴じなどなどの仕様の詳細)を示した「指示書」と呼ばれるものがあります。

この指示書づくりなど、前工程の準備が、後の工程の印刷・製本品質と納期に大きく影響します。具体的には指示書の準備から、デジタルファイルの確認、プリンターへの設定など。細部にこそ知恵や工夫が宿り、オンデマンド書籍のお届けに繋がっています。

実際の指示書。製本方法、閉じ方向、用紙の種類、印刷方法、加工技術についてなど、細かく記されている

この指示書に従っていくつもの工程を経て書籍が製造されていきます。工程間の引継ぎはもちろん、細かい加工や内容の確認など、人力で行うことがまだまだ多い製造プロセスです。だからこそ、分かりやすい指示書を作ることがオンデマンドプリントでは大事なカギとなるわけです。

指示書があれば、ボタン1つで印刷出来上がり! なんてことはありません

本工場では、4台のプリンターが表紙用や本文用などに使い分けられながら稼動中。

ただし、スタートボタンを押せば出来上がりというわけではなく、スタートボタンを押す前にも複数の工程があります。そんな工程の1つ目が、「紙の充填」です。

つくっているのは「書籍」。紙が束になったものなので、この紙は非常に大切です。この工場で使用している紙は、プリンターメーカーの承認を受けたものと工場で通紙テストを繰り返しおこなってOKとなったもののみ。こうすることで、トラブルや印刷不良を減らしています。とはいえ、せっかく紙に印刷するのですから、ある程度は選択肢が欲しい。ということで、種類は白色系の紙(数種類)、黄色系の紙(数種類)、厚手・薄手の紙など用途に応じた約10種類のご用意があります。紙の厚みやインクとの親和性は印刷品質に大きく影響し、後の製本工程や最終製品の耐久性にも影響を及ぼすため、注文者の希望や書籍の内容と製造の効率を両立させる適正な紙を選ぶ必要があるのです。

印刷機への用紙の充填が印刷工程の前にあります。紙は一枚一枚は軽いものですが、何千枚にもなると結構な重量になります。また、本は1冊で数百ページはあるものが多いので、用紙の補給もけっこう頻繁です。そして用紙は充填前に、パラパラと紙と紙の間に空気を入れ、さばきやすいように準備をします。これをしないと、紙と紙がピッタリとくっついてしまって、プリンターの中で1枚1枚にきちんと印刷できなくなってしまうのです。

たて目の「T」。よこ目の場合は「Y」がプリンターの紙の充填口に貼られている

また、各書籍に最適な紙が選ばれ、紙の向き(たて目とよこ目)も調整されます。めくる方向と紙の向きが合うようにすることで、書籍の開きやすさが大きく変わるのです。

! ちょっと脱線 ! たて目とよこ目ってなに?

製紙工場で作られる紙は実は大きなロール(大きなトイレットペーパーみたいなものを想像してみてください)なのです。それを必要なサイズに断裁して四六判判などで知られるサイズの書籍のページ1枚1枚ができます。
たて目の紙は、長辺が紙の流れ方向に平行で、これが「T目」とも表されます。一方、よこ目の紙は長辺が流れ方向と直角で、「Y目」と称されることがあります。
また、目の向きは折りやすさや破れやすさに関係します。流れ目に沿って折ると、折り目がきれいに仕上がり、反りにくいため、本にした時の見栄えが良くなり、開きやすくなります。そのため、設計段階で紙の目を意識することは、プロの印刷技術者にとって基本中の基本なのです。
ちなみに、英語ではたて目を「grain long paper」と、よこ目を「grain short paper」と表現します。

「たて目」と「よこ目」以外にも書籍印刷のためには、たくさんの工夫が必要です。

その一つが印刷時の紙のサイズです。印刷用の紙は断裁の目安となる部分(トンボ)まで印刷できるように、仕上がりに必要なサイズよりも大きい紙を使います。例えば、A3ではなく、一回り大きい「A3ノビ用紙」と言われる紙を用いて印刷します。

表紙の角から2本伸びる線が「トンボ」

さらに、「A3ノビ用紙」にA4を2面付け、もしくはA5を4面付など「面付」が印刷の重要な前工程となります。1回印刷機を通すだけで、2枚(2面付け)、4枚(4面付け)が出来上がるわけです。これも大事な印刷の工夫のひとつです。

! ちょっと脱線 !  両面印刷の紙を重ねたら本になるんじゃないの……?
通常の、書籍作りは、両面印刷の紙を束ねたものではないんです。とっても大きな紙に32ページ分または16ページ分を印刷し、その後、パタパタパタ(4回、3回)と折り返して、最後に製本したり断裁をしたりして、ひとまとめにして作っているのです。小学生のときに作った真ん中にはさみを入れて作る豆本に近いような工程です。なので、折り紙の展開図のように、「ここ」と「ここ」が折って重なるように配置する……という配置を組む必要があります。
このプリントオンデマンドの工場では、基本的に4ページ分または2ページ分を一葉の紙に印刷し、断裁して重ねて1冊分を印刷します。
そのため、「A3ノビ」サイズだったら、A4が2面入るね、など紙のサイズに合わせて面付をしたりしているわけです。このあたりは導入しているプリンターの印刷サイズや断裁機のサイズによって変化する部分もあります。

そろそろ印刷ですか? いいえ、色の確認をします

印刷とは、端的に言えばインクを紙に乗せることです。

ですが、その中にはいくつかの種類があり、たとえば、トナー印刷機というのは、ドラムに印刷したい文字や絵の部分にトナーをつけて(このプロセスは静電気の性質を利用)、紙にトナーを転写して(この一連プロセスは静電気の性質を利用)、熱をかけて固めます。デジタルインクジェット印刷機であれば、版を作らず電子制御でインクを1滴(極小化した)ずつを紙に吹きつけていきます。現状では主流となっているオフセット印刷は、金属性の版(平版)を作って、インクを一旦ブランケット胴に転写した上で、紙にそのインクを転移させています。他にもいろいろな印刷種類があるものの、共通することに「色合わせ」と呼ばれる、色の確認が必要ということがあります。

正しい色が出るまで、ノズルのつまりを洗浄したり、コントラストを調整したり……。この工程は「カラーキャリブレーション」と呼ばれており、基準値に合っているのかのチェックを週に1度以上必ず行っています。また、必要に応じて追加しています。インクもプリンターも人が作った物です。夏と冬で気温や湿度の影響を受けて、出具合や粘度が変わることがあり、合わせて出てくる色も変わってくるからです

印刷が終わればもう本? いいえ、今度は表紙に見えない加工を行います

実は多くの書籍もカバーなど傷つきやすい場所には「PP加工」と呼ばれる汚れや傷から書籍を守る加工が施されています。スマホの画面を守るシートなどを想像していただくと近いかもしれません。

オンデマンド印刷であっても、多くの書籍は表紙にPP加工(グロスPP、マットPP)を施しています。なかには、塾の教科書など、耐久性があまり求められないものなどはPPなしのものもあります。また、カバーをかけるものは、表紙のPP加工がないものが多いです。

PP加工機。光沢があるものは「グロスPP」、光沢のないものは「マットPP」と呼ばれ、書籍の内容に応じて使い分けられます

本文と表紙ができました。糊付けをしましょう。これで見た目が、本になりました!

本文の印刷が完了しました。表紙の印刷もできました。表紙の加工も終了しました。これで、本の部品がすべて揃いました。いよいよ、製本の作業に取りかかります。

製本の中にも様々な工程が含まれています。具体的な作業は製本機にフチをきっちり合わせてセットし、製本機内で回転しているドロドロの熱い状態の糊を必要部分に圧着して「製本」を行います。

製本機から出てくるときには、さっきまでは「紙」だったものが「書籍」になるので、何度見ても圧巻ですが、ここで入れ間違えてしまったら……と思うと冷や汗ものです。熱を加え続けた糊がついているため、出来立ての書籍はホカホカです。1冊1冊の糊の具合を見極め、糊を使い分け、正しくセットして製本する職人のことをますます尊敬してしまいます。

1冊ずつ製本が出来る製本機
こんな風に製本機から「本」の形で出てきます

お待たせしました。断裁しましょう! これでいよいよ完成です

プリントや加工が終わった「紙」はまだプリントされた紙の束ですが、製本・断裁の工程を経るとようやく「書籍」に一歩近づきます。

断裁も意外と人力な部分があり、職人がピッタリのところになるように調整しながら行います。1冊1冊でサイズが異なったりもするので、指示書に従って調整をしていきます。

断裁機。眺めているのではなく、両手で机のフチにあるスイッチを押している

断裁機にも知恵が潜んでいます。それは工場の知恵というより機械メーカーの知恵ですが、両手でボタンを押さないと刃が落ちないようになっていること。これによって昔はどの工場でも、気を付けるべきこととされていた「誤って指を切り落としてしまうこと」が仕組みとして起きない断裁機となりました。

全ての本には断裁が必要です。そのため、断裁された端の紙は4日で箱がいっぱいになる程出てしまいます。もったいない気もしますが、同一の形の書籍を出版するためには(現在は)必要なことのひとつです。

全て人力で裁断された紙のはしっこ。ここ以外はすべて「本」になっていく

やっと書籍が出来ましたが、ここから届けるまでがオンデマンドの書籍の醍醐味です(届ける編へ続きます!)

今回の見学で、製本されるまでの印刷現場の複雑さと、そこで働く人々の専門技術に深い感銘を受けました。書籍がいかにして私たちの手元に届くか、その全プロセスには多くの工夫と努力が込められています。次回は、やっと形となった書籍の配送側の工程を見学します。お楽しみに!

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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