お金だけ。
ここ数日気分が沈んでいる。大嫌いなアリストテレスのよくわからない文章を延々と授業で読まされたからということもあるが、なんで稼いでるのかわからなくなってしまったからということもある。
中学1年のあの日からずっと、俺は、自分が13の時にレイプされた、その時の絶望と恋心と汚い感情全てを原動力に生きてきた。世界を見返すためになんでもやった。音楽も美術も勉強も化粧も恋愛も、何もかもを見返すためだけだった。復讐心、それだけだった。今その思いが薄れつつある。過去の不幸に縋って生きてきた俺は今死ぬほど焦っている。
高校のときワーカーホリックだった俺と今の俺は明らかに違う。時間を埋めるために俺は仕事を詰めている。成果物としての諭吉を見ることで「自分は取り敢えず何かしている」ことを確認したかった。俺は焦っている。
今周りにいる男は好きな男も含めて大して魅力的じゃないし、金で買える男なんてたかが知れてる。デリバリーヘルスの接客を工夫するのにも飽きてきたし、ここ1年性にまみれた生活をしていた俺は無駄に男を見る目だけ肥えてしまった。結局身の回りに溢れている男よりも自分の方がだいぶ誠実で格好良いし。ホストクラブに行っても美術館に行くような面白さしかないし。誰かに熱中したいのに熱中できる誰かがいない。俺が熱中するに値するものがもうこの世にない。少なくとも、歌舞伎町にはもう、ない。
夜遊びは飽きた。もう夜職も大体やった。それなりに垢抜けた。馬鹿ほどお金も稼いだ。飽きた。欲しいものは大体買った。煙草も酒も飽きた。雄を見るのも飽きた。昔やりたかった消費活動は全部やった。まだギリギリ飽きていないのはこうして文章を書くことくらいだ。
昔みたいに理性を飛ばしたい、意識も飛ばしたい。心が震える何かをください。熱中できる何かをください。俺がもういちど絶望できるくらい濃い思い出をください。