見出し画像

TAXI

この半月ほどで何もかもが変わってしまった。綱渡りのように無自覚に淡い恋をしていた私は、竜巻のようにやってきて、私と彼の関係を乱して行った彼女の言葉に飲まれて、その自分の醜い嫉妬と恋心に気付いた。結婚まで考えていた彼氏と別れた。一つの愛に蹲っていられない自分の若さと愚かしさに気付いた。

私は現実という地面にべったり足をつけるほど、まだ成熟できていなかったのだ。

私がこの歌舞伎町に本当の意味で足を踏み入れてから1ヶ月が経った。大金を積んで、買えないと分かりきっているものを買おうとする街で、狂えるほど私は純粋じゃなかった。こんな環境ですら飛んでくれない理性が、むしろ結果を出すには好都合なのだろうが、私の孤独は深まった。

誰かを愛して、その人の為に自分を全て投げ出す勇気などない。それをやるには私は私の努力を可愛がりすぎている。それに、全ての男は消耗品だと強がる同じ口で、一人の男に一生ものの愛を囁けるほど私は面の皮が厚くもない。

そんな私が今愛してしまった男が、その愛を返そうとしてくれている。それがどこか申し訳なくて、何かしなければいけないような気がして、私はみんなと同じように、彼の前に札束を積もうとした。私自身もどこか狂い始めていて、他にどんな方法で彼にお返しをしたらいいのかわからなかった。今の私にはお金と出してきた結果の積み重ねしかなかったのだ。

彼は未だにその私の提案に触れようとすらしない。

じゃあ他にどうすればよかったというのか、責任を取れるほど成熟していない私はもう身動きが取れない。

昔はお金を使うことが怖くて乗れなかったTAXIに乗りながら眠い目を擦る。大人になり切れないまま疲れ切ってしまった私は、せめて彼の最愛で最上の部下でいようと思った。


いいなと思ったら応援しよう!