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【リーダーの心得9】「中庸」の九經から学ぶ⑨ いよいよ最終章。スタバも実践している事業拡大の秘訣!

いよいよ組織運営の要諦と言われる中国の古典「中庸」に紹介されている九經(きゅうけい)も最後のご紹介となりました。九經の最後、9番目は、

「諸侯(しょこう)を懐(やす)んずるなり」

「中庸」

です。
この現代語訳は、「諸侯を安心させる」という意味です。この文は、統治者が諸侯(地方の領主や貴族)を安心させ、彼らとの関係を良好に保つことの重要性を説いています。これは、現代風に例えると、大企業の本社が各支店や子会社を思いやり、彼らが安心して業務に取り組めるようにサポートすることに似ています。

では、なぜ「諸侯を懐んずるなり」が重要なのでしょう。「中庸」のすごいところは、具体的な記述があることです。
続けて、「中庸」には

「諸侯(しょこう)を懐(やす)んずれば、則(すなわ)ち天下(てんか)之(これ)を畏(おそ)る」

「中庸」

とあります。
この文は、「諸侯を安心させれば、天下の人々もそれを恐れ敬うようになる」という意味です。統治者が地方の領主(諸侯)を安心させ、良好な関係を築くことで、諸侯だけでなく、広く天下の人々もその統治者を尊敬し、従うようになるという教えです。

さらに「中庸」の九經では、具体的な実践法まで書かれています。つまり、「諸侯を懐んずるなり」を実践するためには、

「絶世(ぜっせい)を継(つ)ぎ、廃國(はいこく)を擧(おこ)し、亂(らん)を治(おさ)め危(あやう)きを持(たす)け、朝聘時(ちょうへいとき)を以(もっ)てせしめ、往(ゆ)くを厚(あつ)くして来(きた)るを薄(うす)くする」

「中庸」

ことだと書かれています。
まず、「絶世を継ぐ」とは、途絶えた家系を再興することを意味します。これは、統治者が断絶した家系や血統を復興させることで、社会の安定を図ることを示しています。

次に「廃國を擧す」とは、荒廃した国を再建することを意味します。統治者が荒廃した地域や国を復興させることで、地域全体の安定と繁栄を目指します。

また、「亂を治め危きを持ける」とは、混乱を収めて危機を救うことを意味します。統治者が内乱や混乱を鎮め、危機的な状況を解決することで、平和と安定をもたらします。

そして「朝聘時を以てせしめる」とは、朝廷への訪問や使節の派遣を適切な時期に行うことを意味します。これにより、諸侯とのコミュニケーションを円滑にし、信頼関係を築きます。この部分は、諸侯が定期的に朝廷を訪問し、礼を尽くすことを意味しますが、重臣を諸侯に派遣することを指しているとも解釈できます。つまり、諸侯が自ら訪問するのではなく、信頼できる重臣を朝廷に派遣して、中央政府との関係を維持するということも考えられるのです。

最後、「往くを厚くして来るを薄くする」とは、贈り物や接待において、相手に対しては手厚く、自分が受け取る際には控えめにすることで、相手の心を掴むという意味があります。

スタバのカリスマ経営者にも通ずる「中庸」の精神

ハワード・シュルツ氏は、スターバックスを世界的なブランドに成長させた偉大な経営者です。彼のリーダーシップの根底には、社員(パートナー)を大切にし、彼らが安心して働ける環境を提供するという信念があります。この考え方は、「諸侯を懐んずるなり」に通じるものがあります。

では、具体的にみていきましょう。
シュルツ氏は、1982年に給料のよい一流会社を辞め、当時5店舗を構えるシアトルの小さなコーヒー小売会社であったスターバックスに入社し、1985年に自分の理想を追い求めるべく一企業家として独立しました。そして1987年、シュルツ氏は、「スターバックスの店と焙煎工場、商標が売却される」と聞きつけ、スターバックスを買収し、CEOに就任しました。
シュルツ氏は、

「自分の会社の未来像を投資家たちに訴え、信頼をかち取ることができたから」

引用:スターバックス成功物語、ハワード・シュルツ他、日経BP社、4頁

買収できたと当時を振り返ります。
スターバックスを買収したシュルツ氏は、まさに先ほどご紹介した「絶世(ぜっせい)」を継ぎ、「廃國(はいこく)」を擧(おこ)すことをしたのです。
CEOに就任してからのシュルツ氏の活躍は周知のとおりで、スターバックスをアメリカのみならず、世界へと広める礎を築いていったのです。

シュルツ氏がCEOに就任した当初、スターバックスを急速に発展させていく際、こだわったのは、「フランチャイズ」制ではなく、「直営」スタイルでした。フランチャイズとは、事業者(フランチャイザー)が他の事業者(フランチャイジー)に対して、自社の商標や経営ノウハウを使用する権利を与え、その見返りとしてフランチャイジーが対価を支払うビジネスモデルです。
シュルツ氏は、「フランチャイジーがスターバックスと顧客の間に介在する業者でしかない」ことを理解していて、どの店舗でも本物のスターバックスコーヒーが提供できるよう、社員を教育すべく、直営にこだわったのでした(現在は直営のみではありません)。

なぜ、シュルツ氏は「直営」にこだわったのか。
まずコーヒーは、豆の選別、鮮度、挽き方、水、水加減、どれひとつ不適でも不味くなってしまいます。草稿を全社員の検討に委ねたというスターバックスのミッション・ステートメントの一文には、

「顧客が心から満足するサービスを提供する」

とあります。
シュルツ氏が言われるように、フランチャイジーが介在した場合、直営のように社員の意識を組織内統一できなかったことでしょう。こうして、スターバックスでは、どこの店舗でも美味しいコーヒーを通じて、顧客に楽しい時間を提供し、地域社会にポジティブな影響を与えることができるようになったのです。

「直営」の経営スタイルにこだわったシュルツ氏は、毎年秋に全米およびカナダの地区担当責任者をシアトルに集め、指導者会議を開くようにしました。また、シュルツ氏の時代には、「デートライン(日付変更線)・スターバックス」と呼ばれる社内電子メールを配備し、全パートナーが社内の最新情報などを把握できるシステムも構築。これにより、スターバックスは、中小企業の利点を保持しながら大企業に成長を遂げていくのです。

これは、「中庸」にも紹介されている諸侯との定期的なコミュニケーションを通じて信頼関係を築くことが重要とされていることに通じるものがあります。

また、シュルツ氏は、1988年、企業が社員を優遇するなど考えられなかった時代に、健康保険の適用範囲を拡大し、全パートタイマーに対して正社員と同じレベルの健康保険を適用しました。
シュルツ氏は、

「社員を家族のように扱えば社員は誠実に働き、もてる能力のすべてを発揮してくれるだろう。会社が社員を支えれば、社員も会社を支えるようになる。」

引用:スターバックス成功物語、ハワード・シュルツ他、日経BP社、167頁

と考え、行動した結果です。
この考え方は、現代のリーダーシップ組織運営にも通じるものがあります。大企業のトップが世界に散らばって活躍する全従業員を大切にすることで、組織全体の信頼と尊敬を得ることができるという点で非常に有用です。

このようにして、スターバックスは、本部が世界に散らばる全社員を全て同じように厚遇し、良好な職場環境を提供することで、どの店舗においても顧客に対して心から満足するサービスを提供することができ、星の数ほど世界中に存在するコーヒーショップの中で、確固たる地位を築きました。

いかがでしょう。
「諸侯を懐んずるなり」の教えは、現代のビジネスにおいても非常に有用であり、リーダーが部下や支店を大切にし、安心して働ける環境を提供することで、組織全体の成功に繋がるのです。ハワード・シュルツ氏のリーダーシップとスターバックスの取り組みは、その好例と言えるでしょう。

いよいよ九經の最終章!

「中庸」の九經の最後には、

「凡(およ)そ天下(てんか)・國家(こっか)を爲(おさ)むるに、九經(きゅうけい)有(あ)り。之(これ)を行(おこな)ふ所以(ゆえん)の者(もの)は一(いつ)なり」

「中庸」

の一文があります。
つまり、天下国家を治めたり、事業で成功したりするためには、今回ご紹介した九經があります。この9つのすべてを実践して初めてすべてが治っていくということです。
そして、その根本となる「中庸」の教えが全ての行動や判断の基礎となり、偏りのない中正な態度を保つことを意味しています。

このように「中庸」の教えは、現代に生きる私たちにも生かされていることが、お分かりいただけたと思います。


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