【SELFの本棚】#044 目の見えない白鳥さんとアートを見にいく 川内 有緒 著
(文:SELF カドタアキコ)
「何が見えるか教えてください」
表紙にはイラストで女性の腕をつかんでいる白いつえをついた人に
「全盲の美術鑑賞者、白鳥健二さん」と書いてあり
彼が発している吹き出しには
「なにが見えるか教えてください」と意味深げ。
本の内容はタイトルの文字通り。
シンプルなだけに読む前から想像や疑問が膨らむ。
全盲でどうやって美術を鑑賞するの?
アートをどう解説すれば良いの?
見えなくても美術館って楽しいの?
???
著者の川内有緒さんは米国やフランスのユネスコ本部など
といった国際協力分野で12年間勤務後、東京に拠点を置き
執筆活動をしているエッセイスト。
友達の「白鳥さんと作品を見ると本当に楽しいよ!」という一言で
年に何十回も美術館に通う全盲の51歳男性、
白鳥健二さんとアートを巡る旅が始まる。
最初は戸惑いながら白鳥さんのアテンドをする川内さん。
むしろ白鳥さんに「何が見えるか教えてください」
「絵の形を教えて」などとリードされながら
白鳥さんとの美術館巡りにハマっていく著者の、
世の中の見方まで変わっていく過程はまさに旅。
その旅に読者も一緒についていく。
本の中に著者が白鳥さんと見た作品画像も多数掲載されていて
そのアートを見て、自分ならどう説明するだろうか?
と思い巡らせながら読む過程でますますこの<旅>に
どっぷり浸かっていく。
読んでいくうち最初に湧いた疑問が、哲学的なものに変化していく
「見える」とは?
「アート」の意味は?
「障害」とは?
見えない白鳥さんに目の前のアートを説明しようとするうちに
見えてくる自らの思い込み、偏見、そして気づき。
白鳥さんは言う
「見えないからこそ感じるものがあるだろうってよく言われるんだよねー。
そりゃあ、見えないから感じるものはありますよ。
でも、見えないから感じることは、見えるから感じることと
並列だと思ってるんだよ。そこにどういう差があるんだって
ツッコミたくなる。
見えないからこそ見えることがあるって言うひとは、
たぶん盲人を美化しているじゃないかなあ」
ハッとさせられるこんな会話が散りばめられているこの本。
あなたの人生観も変わるかもしれない。
はじめに
第1章 そこに美術館があったから
第2章 マッサージ屋とレオナルド・ダ・ヴィンチ の意外な共通点
第3章 宇宙の星だって抗えないもの
第4章 ビルと飛行機、どこでもない風景
第5章 湖に見える原っぱってなんだ
第6章 鬼の目に涙は光る
第7章 荒野をゆく人々
第8章 読み返すことのない日記
第9章 みんなどこへ行った?
第10章 自宅発、オルセー美術館ゆき
第11章 ただ夢を見るために
第12章 白い鳥がいる湖
エピローグ