0と100の間で

2023年2月5日㈰

一難去ってまた一難、というのが人生にはつきものである。

職場のスタッフの子の行為がどうしても我慢できなくなって院長に相談して自分の悩みが一件落着となったはずの先週から一転、今度は自分がありえないミスをしでかしてしまった。
セレックという院内でセラミックの型取り~削りだしまで完成できるたいそう高価な機械の大事な部品を、私は全くの無意識で紛失してしまったらしい。ささいなミスでは絶対に勤務時間外にラインなどで連絡してくることのない院長から火曜日になかなか緊張感のあるラインがきた。5年ほど勤務してる中でラインの雰囲気的には一番怒っているように感じた。

この日は別の職場(私は歯科医で今は3つの職場で勤務している)の勤務日で昼休みにいったん駆けつけたほうがいいのかしら、とも頭によぎった。とはいえ紛失した自覚も全くなかったのでいったところで見つかるはずもないし、と謝罪のラインをした。夜に彼氏とごはんにいく予定になっていて、あまりに深刻だからそんな遊んでる場合じゃない、と一瞬思ったものの、遊びに行かなかったからといって見つかるわけでもない、と冷静になった。このミスは大変申し訳ないが、いったん忘れさせていただくことにした。

仕事が終わって彼氏とのごはんに向かった。いきつけのお魚メインの居酒屋で念願の鍋を食べることになった。美味しいものを目の前にするとどんな落ちた気分もいったんは紛れるからありがたい。

ふだんはあまり彼氏とお互いそんなにたくさんおしゃべりをしないのだが、自分の気分が落ちすぎた反動なのか、少しでも気分が軽くなりなかったのか、職場のことを洗いざらい話してしまった。この半年間くらい職場のスタッフの子にイライラしていて先週やっと院長に現状報告をした(おもにチクった)こと、そこから一転自分が大ミスをやらかしてしまい院長ブチ切れで明日どんな顔をして職場にいったら良いのやら、と彼氏の前ではめずらしく勢いに任せて喋った。

自分のミスについてはやばいね、と言いながら所詮モノでしょ、とまあなんとなく励ましてくれた。話はおもに私が抱えているストレスについて大変だね、と共感してくれた上で、どう対処しようか、を一緒に考えてくれた。

話しているうちにわかったのだが、私の抱えているストレスはおもに「本来歯科医はやらない業務(衛生士業務やその他雑務)を人員不足のために余計にやらなきゃいけなくなっててダルい」に集約された。これに対して彼氏は
①スタッフの子に「これやってね」って都度言う
②院長にスタッフ雇ってくださいと要望する
ことを提案した。しかし私にはどちらも避けたくて仕方のないことだった。スタッフの女の子にやってね、って言ったときに嫌な顔されるのが分かるから言いたくないし言うのも面倒に感じてしまう。院長に、本来院長が決めるべきことを私が口を出すなんておこがましいと思ってしまう。とにかく私は誰にも何も言いたくないのだ。自分に対して、この部分は彼氏は真逆だと思う。彼氏はいわゆる文系陽キャ(もちろんいい意味で、笑)で、友達もたくさんいて常に人と関わる仕事をしてきている。圧倒的な経験値の差を見せつけられた。

ここで自分のあまりよくないところにやっと気づいた。私は昔から人と折り合いをつける、みたいなことが極めて不得意である。私はこう思うからあなたにこうしてほしい、とお願いしたりするもの苦手だ。こんなこと言って嫌われたくない、とか、わざわざ言うのが億劫だという一時的な感情にいつも負けてしまうのだ。

もっと根幹を言うと、私はゼロか100しかない人間だ。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。やるか、やらないか。自分で何かに取り組むときは役に立つ性格だが、人間関係が不得手な主な理由でもあったりする。

人間関係を構築するのが上手い人はあいだをとっていくのがすごく上手だと前から思っていた。あなたはこうする、でも私はあまりそれは好きではない、できればこういうふうに変わってほしい。交渉ともいえる。ゼロと100のあいだの50とか60とかをとっていくことが人間関係を築くのにはかかかせないのである。

よく考えてみれば、自分自身のことにおいてもありかなしか、の二元論で済まさないことは人生において大事だったりする。今の私のストレスを突き詰めると「自分のやりたくないことをしたくない」という感情だ。とはいえ、職場にはやりたくない雑務がある一方、患者さんに予防歯科の説明をして良いリアクションをもらえたり患者さんがセルフケアを頑張ってくれて症状が改善したりするとやりがいを感じる。悪いことばかりに頭がいっぱいになっていたが、良いことだって実際にはあった。

世の中も人生も、白か黒ではない、グレーな色調に富んでいる。

今週の真ん中くらいには自分のやらかしたミスで院長とも気まずいしいっそ辞めてしまおうか、とも思った。怒りラインをもらった次の日の出勤はかなり重い雰囲気だった。昨日の土曜日にも出勤して、午前中は院長とほぼ会話がなかったが、帰り際は世間話をして帰ることができた。まだ怒っているとは思うけど、院長なりの気遣いにしんみりした。ひとまず私は決めきらない、曖昧なままにしようと決めた1週間であった。



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