若年層の環境変化−−企画型思考が「公共」育む
今年は、若年層を取り囲む環境が変化する。既に引き下げられた選挙権年齢に続き、4月から、民法改正により成年年齢が18歳になる。一人で各種の契約をできるようになるが、消費者被害に遭う危険性も高まる。2023年からは裁判員に選ばれる人も出る。来月、高校では新科目「公共」の授業が始まる。私的な世界に閉じこもらず、考えの異なる人々と共存し、社会課題に向き合うことを学ぶ。
社会課題の取り組み方には、3つの方向がある(図参照)。まず、何が課題かを感じ取り、情報を収集する「学習型」。関心と探求がテーマである。新科目「公共」の場合、「幸福・正義・公正」の観点からデータを分析し、自立する主体として考える。「告発型」は、抗議と要求がテーマ。社会課題の渦中にあって被害を受けている当事者は、この立場から発言するだろう。「学習型」においても、当事者の怒りや悲哀を知ることは、問題の理解を深める。最近、注目されているのが「企画型」。関与と提案をテーマに、社会課題に関わる。「学習型」が分析力、「告発型」が当事者力を発揮するのに対して、「企画型」は創造力で課題に取り組む。
認知症の世界を13の旅行記で表したベストセラー・筧裕介著『認知症世界の歩き方』(ライツ社)は、「企画型」で社会課題を身近なものにした。教育現場でも「学習型」に止まらず「企画型」を取り入れたい。当事者に寄り添いつつ、データを分析し、具体的な解決策を発想する。私的な世界が、他者の私的な世界とぶつかり合い、「公共」の概念が生まれていく過程を体得できる。
企業においては、本業自体が、社会課題の克服に役立つのが望ましい。当然、本業が社会課題を生じさせない努力も重要だ。企業は、分析力に長けている。足りないのは、自分事化する覚悟。業務を越えた当事者意識を持つ必要がある。その上で「企画型」によって創造力と自社の技術・強みを活かすことが求められる。コロナ禍を、社会課題に対する日本社会の分析力、当事者力、創造力を高める好機にしたい。(発想コンサルタント)
日経産業新聞 2022.3.11掲載