穢れた紗奈
──紗奈ちゃんは世界一可愛い。
今日も地下にある、小さなライブハウスのステージの端っこでセンターの子を必死にサポートするような演技で、その健気さに僕の股間はたちまち張り裂けそうになっていた。
茶色の長髪で童顔の華奢な身体をした彼女は庇護欲を刺激させる。
──彼女だけは“生きていて美しいと思った”。
僕は地下アイドルグループ『SHI⭐︎NING』のライブが終わるまで紗奈ちゃんに釘付けだった。
そう、僕が紗奈ちゃんに恋をしたのは今から一ヶ月前の事だった。
「フゥ! フゥ……!」
夕日が差し掛かる頃。
森の中のボロ小屋で陰茎を必死に擦る姿は野生動物と似ても似つかないだろう。
僕の不細工な顔はより醜悪になっていると思う。
今、まさしく僕の射精欲を駆り立てているサブカル雑誌──90年代に横行した死体写真集『BU』のページを捲る。
そこには泥まみれた地面に横たわり、腸が飛び出て死んでいる金髪のロシア人女性の遺体が載せられている。
「ウッ!」
僕はすかさずティッシュを取り出すと、陰茎に押し当て、勢いよく漏れ出た白濁液を受け止める。
「ハァ……ハァ…………!」
陰茎は僕の意思に関係なくビクビクと痙攣しながら白濁液を出し続ける。
勉強漬けの日々の中、自慰行為をせず三日も貯めたのだ。
こんなに大量の精液が出てもおかしくない。
僕は死体写真集を壁際の綺麗に陳列された棚にしまうと、参考書が何冊も入ったリュックを背負って、建て付けが悪いドアを開けた。
このボロ小屋は僕が中学生の時に見つけてから、古本屋で買い漁ったサブカル雑誌やアダルト雑誌をしまう場所として重宝している。
そうか、この秘密基地を見つけてからもう7年も経つのだな……。
僕──阿部修也は医学部を目指しながら浪人生活を送っている。
医者である父と中学教師である母という教育大好きな家庭で、それはそれは厳しい勉強漬けの毎日を送り、県一番の公立高校に入ることになった。
高校ではさらに難しい学問に必死に食らいついていたが、大学の入試試験当日にあまりの緊張によるストレスで体調を崩し、今こうしてもう一年追加で勉学に勤しんでいる。
試験当日、駅のホームで倒れ、目覚めたら病室のベッドの上だった時は青ざめた。
母親の苦虫を噛み潰したような顔は今でも忘れられない。
僕は森を抜け、家に帰ろうとしていた所だった。
ああ、そうだ。夜まで予備校に行くと嘘をついたんだ。ファミレスで少し勉強していこうかな。
僕は自宅から少し離れた繁華街に足を踏み入れた。
くたびれた社会人。手を繋ぎながらイチャつく制服カップル。路上ライブをする若者。
生が混濁した街というのは好きじゃなかった。
蠢いている物は気持ち悪くて仕方ない。
いや、まあ、異常な方は僕なのは認めるが。
生き物という生き物を見ないために、俯きながら早足でファミレスに向かう。
「あの!」
すると、一人の少女が僕に呼びかけた。
「今日ライブやるんで! 良かったら!」
そう言いながら僕にビラを渡す。
「え、あ、ああ……」
朝から人と会話していなかった僕はなんて言っていいか分からず困惑してしまう。
「いきなりすみません! 大丈夫ですか?」
彼女は心配そうに一歩近づく。
「だ、だ、大丈夫です。ラ、ライブ……ですか?」
「はい! 今日は私が所属しているSHI⭐︎NINGっていうグループでライブをするんです! センターは今あそこでビラ配りしている子ですね!」
彼女が指差した方向には通り過ぎていく人達に負けじと必死にビラを配っているツインテールの子がいる。
あの子がセンター?
今、僕の前に立っているこの子の方が何倍も可愛いが。
ライブなんて行ったこともないし、ライブハウスなんてガヤガヤしてるところ、僕にはとてもいられそうにない。
「あ、あの……ライブってどこでやるんですか?」
それでも、目の前にいる彼女に期待に応えたい。そんな純粋な思いからつい言葉に出してしまった。
「来てくれるんですか!?」
彼女はさらに近づき、僕の手を両手で握りしめた。
「え!? ま、まぁ、暇だし……」
「ありがとうございます! ライブはあそこのライブハウスの地下でやるんで……あ! 詳しいことはこの紙を見てくださいね!」
「は、はい。あの、お名前は?」
「私、紗奈っていいます!」
その彼女の笑顔を見た時、僕の心臓は飛び跳ねそうな勢いだった。
なんでだろう。いつからか死体でしか欲情しなくなったのに。
彼女の期待に応えられた──そう、彼女の太陽のような笑顔で僕の手を握っていた時、僕のズボンはこれでもかというぐらいテントを張っていたのだ。
19時。僕は時刻通りライブハウスに向かうと、彼女達は既にステージに立っていた。
お客さんはめちゃくちゃ少ない。
僕を含めて4人ぐらいだろうか。
「SHI⭐︎NINGです! 今日は皆さんに沢山の笑顔を届けたいと思います!」
ツインテールのセンターがMCを始めていると、衣装に身を包んだ紗奈さんが僕の方に視線を向ける。
小さく手を振ると、彼女は嬉しそうに同じように小さく手を振った。
僕だけにファンサービスをしてくれたんだ……!
彼女へ対するあまりの愛おしさに生唾を飲んだ。
……いざ歌が始まったが、それはそれは素人の僕が見てもわかるぐらいお粗末なものだった。
歌も酷いし、ダンスも全然あっていなかった。
SHI⭐︎NINGは5人のグループなのだが、5人全員別のダンスをしているようで、なんというか滑稽に見える。
それは紗奈さんにも言えることだが、彼女の場合、不器用ながらも必死に頑張っている姿を応援したくなるものだった。
贔屓目といえばそうなんだろうけど、なんだか他のやる気なさそうなダンスとは違うのであった。
「ありがとうございました!」
約30分のライブが終わると共に、一気に15人ぐらいの客が入る。
きっと次のグループを見にきた者たちだろう。
僕は入れ違うようにライブハウスから出た。
「ふぅ」
ライブハウスからすぐ近くの自販機で缶コーヒーを買うと、壁に背中をつけて一息ついた。
ライブというのは初めてだったが、30分間の内ほとんど紗奈さんしか見ていなかった。
缶コーヒーを飲み終え、ゴミ箱に捨て帰ろうとした時だった。
「あの!」
──この声は。
「紗奈さん?」
彼女はステージの時の衣装ではなく、ビラを配っていた時の私服だった。
「さっきはありがとうございました!」
そう言いながら彼女は大袈裟にお辞儀をする。
「い、いや、僕は暇で行っただけだから……」
「だって私達のために時間を割いてくれたんですもん!」
「私達って、ほとんど紗奈さんしか見てなかったけどね」
「え……」
不味い。本当のことを言ったが、さすがに気持ち悪かっただろうか。
「う、嬉しいです……」
「え?」
「私のこと見てくれたんですもんね」
「う、うん」
「あの! お名前なんていうんですか?」
「僕の名前は、修也。阿部修也」
僕に名前を聞くなんて、もしかしたら、いや、きっと、彼女は僕に気があるのではないだろうか。
「よろしくお願いしますね修也さん! 私のことは紗奈でいいですよ!」
「え、そ、それは……紗奈ちゃんでいい、かな?」
「はい! ……あ! 電車もうすぐきちゃうんで! また!」
そうやって立ち去る彼女の背中を僕はずっと眺めていた。
そうして勉強をサボりながらライブに通い続ける日々が一ヶ月続いたのであった。
「SHI⭐︎NINGでした! 今日来てくれた皆さん本当に本当にありがとうございましたー!」
──今日のライブが終わった。
まだまだお粗末だが、少し上達している気がする。
客も4人だったのが6人になっている。
SHI⭐︎NINGが掲げた目標の武道館まではまだまだ……本当に気が遠くなるぐらいまだまだだが、
どんな形であれ紗奈ちゃんが卒業するまで僕は応援を続けようと思う──。
………。
……。
…。
「……っ!」
今日も我慢できずに、紗奈ちゃんのライブが終わるとともに、僕はライブハウスの中にある男子トイレに駆け込み、射精した。
紗奈ちゃんの笑顔を見る度、僕の陰茎が苛立って仕方ない。
トイレを出ると、他のアイドルグループのライブが行われており何十人もの客で活気づいている。
気持ち悪い。
群衆。人なみ。人だかり。
この一人一人に血が巡り、心臓が動き、脳を使いながら思考していると思うと吐き気がした。
……でも、紗奈ちゃんだけはそうした愚を寄せ集めた塊ではなく、何かの象徴のように美しかったのだ。
週末で繁華街が賑わっている中歩くのが嫌で、僕はいつもは使わない道で帰ることにした。
申し訳程度の電柱の明かりを頼りに歩いていると、前にカップルが手を繋いで歩いていた。
通り過ぎるのも癪だったので、一定の距離を保つように後ろを歩く。
しばらくすると分かれ道でカップルは立ち止まった。
別れ際なのだろうか。
僕も同じように立ち止まるのは変なので、そのまま通り過ぎる。
そう、通り過ぎた時だった。
一瞬目にうつったカップルの女性。
茶色の長髪。童顔。華奢な身体。
薄明かりで気づかなかった。
──彼女は、紗奈ちゃんだった。
「……ただいま」
「あら修也遅かったわね。ずっと予備校にいたの?」
「うん」
「今ご飯つくるわね」
「うん」
「なんか今日はいつもより元気無いわね」
「……そうかもね」
「今日は早く寝なさいよ」
母親は心配と呆れが入り混じったような声色で告げる。
「うん」
会話する元気も無い。
紗奈ちゃんが、紗奈ちゃんが男と一緒に。
紗奈ちゃんが、あの明るい紗奈ちゃんが。
紗奈ちゃんが穢れる。あの男に穢される。
いや、もう穢れているのだろうか。
健気な姿も、僕に向けた明るい笑顔も。
あの男に乱れて、汚されて。
純潔がなくなり、天使の羽が折れて、汚れて、神々しく神聖な、唯一の神聖な生を持った純潔の少女が、他の群衆、醜悪な群衆と同じ、穢れた、穢れて穢れて気持ち悪い奴らと同じなのか。
──それだけは駄目だ。
彼女だけは美しいままでいてほしい。
母親がスーパーで買ってきた刺身を口に入れる。
昔から刺身は好きだった。死体が均等に綺麗に切り分けわれ、パックという器の中に陳列してある。残酷な遺体が家庭で振舞われているなんて、滑稽たらありゃしない。
ああ、紗奈ちゃんが穢れる前に僕が食べてあげたら、彼女は永久に永遠に僕の体内で純潔のまま、僕と一体化するのではないだろうか。
そうだ、まだ付き合ってからまもないかもしれない。紗奈ちゃんは純粋な子だ。あの笑顔は穢れを知らない少女のようだった。まだあの男ともヤってないはずだろう。
今、ここで紗奈ちゃんを手に入れれば性交なんていう欲と欲のぶつかり合いとは違く、深く深く心の内の部分で繋がれるのでは無いだろうか。
紗奈ちゃんを永遠に僕という身体に取り込む。
それは、紗奈ちゃんをこの生者が蠢く世界から脱却できる答えではないだろうか。
いや、そんなことをしなくても、僕に好意があるかもしれない。そうだ、きっと彼女はあの男と何かしらワケがあって嫌々付き合っているに違いない。僕に見せつけるように歩いていたのもSOSを出していたからなんじゃないだろうか。
「ごちそうさまでした」
僕はすぐに自室に篭り計画を立てた。
深夜。
両親が寝静まった時、僕はゆっくりと足音を立てずに階段を降りていた。
階段を降りると、一階のリビングの隣にある書斎のドアを開ける。
ここは父親が使っている部屋であり、昔から入ってはいけないと言われ続けていた。
しかし、幼い頃一度だけ入ったことがあり、そこで机の上に置いてあったキーケースを見たことがある。
そのキーケースは昔と変わらず、机の上に置いてあった。
僕はそのキーケースを握りしめると、音を立てないように玄関から外に出た。
家の隣にある小さな診療所。
そこは医者である父が勤めている所だった。
キーケースからそれっぽい鍵を取り出し、鍵穴に刺すと、ガチャリとドアが開いた。
幼い頃から厳しく医学について教え込まれた僕は戸棚やガラスケースにしまってある必要な物を回収すると、証拠隠滅するように陳列し直した。
そのまま診療所に鍵をかけ、書斎にキーケースを置いたのだった。
──計画日当日。
「行ってきます」
「あら、今日は早いのね」
「まあ、昨日は早く寝たからね」
嘘だ。緊張と興奮で一睡もしていない。
僕はサラリーマンと学生で満員になった電車に乗りながら、目的地に向かった。気持ち悪さは感じなかった。それよりも鼓動が鳴り止まないのが鬱陶しかった。
二駅先にあるトイガン専門店。ここが目的地だ。
何でも良かったが、とにかく本物っぽいハンドガンを購入。BB弾はいらないので買わなかった。
そして、森の中にあるボロ小屋に診療所で奪った物を置いていくと、僕はライブハウスに向かった。
今日も紗奈ちゃんは元気に明るく踊っている。僕に視線を向けると笑顔のファンサービスをしてくれた。
──気がついたら僕は涙を流していた。
彼女は美しい。美しいゆえに僕を傷つける。
彼女が僕ではなく、他の男にも笑顔を見せる。
彼女が向ける笑顔が。
彼氏と思われる人物に見せる照れ臭そうな顔が。
今この瞬間でさえも紗奈ちゃんが酷く腐った物に朽ち果てていくように感じる。
いや、もう腐り始めている。
これから先、足先から脳まで白濁液のようなツンとした臭いの汚い汚物に侵食されていくと思うと涙が溢れた。
──ああ、ごめんよ。
やっぱり紗奈ちゃんはここにいてはいけない存在だ。
僕と付き合ったとしても、他の男と会話し、コンビニの男性店員にお礼を言い、他の男と同じ空間にいる運命に陥る。
彼女の1分1秒が汚い空気によって汚染されていくようにすら感じる。
──もうすぐ君を救うから。
待っててね、紗奈ちゃん!
「ありがとうございました!」
センターの子がライブの終わりを告げると、僕は前に紗奈ちゃんを見かけた薄暗い道路まで向かった。
男と別れた道。
そこのすぐ近くにある自動販売機の裏に僕は小さく丸くなっていた。
偽物のハンドガンを握りしめて。
「そうなの! 今日はお客さん2人も増えたんだ!」
「すごいじゃないか紗奈」
いた。男は彼女の頭を撫でている。
ああ、とてつもなく気持ち悪い。指紋一つ一つ、皮脂が彼女の綺麗な髪をベタつかせる。
僕は怒りととも飛び出るのを我慢しながら、深呼吸をした。理性的にいこう。これは彼女への救済なのだから。
「じゃあ俺はバイトがあるからここで。明日は紗奈の家まで行けばいいのか?」
「うん! じゃあまたね蒼くん!」
彼女はキョロキョロと誰もいないのを確認すると、彼に口付けをした。
僕は無限に感じる苦痛の時間を耐え、男の姿が見えなくなり、紗奈ちゃんが歩き始めるのを見計らって、自動販売機から飛び出た。
そして、彼女の背中にエアガンの銃口を突き立て、口を抑えると、
「動くな」
と耳元で囁いた。
「んんー!」
「動くなといっているだろう! 撃つぞ!」
僕は焦りからつい大声を出してしまう。
大丈夫、周りには誰もいない。それはこんな人通りが少ない道をいつも通っている紗奈ちゃんにもわかることだろう。
すると、さすがに事態を察したのか彼女は押し黙り、コクコクと頷いた。
「僕の指示に従え。いいな?」
彼女が小さく頷くと、僕は道の方向を指示しながら、ボロ小屋がある森の中まで歩かせる。
この分かれ道のすぐそばにある林を抜けるとすぐ森の中だ。
本当に偶然で、まさしく幸運だった。
明かりなんてない森の中。こんな所には誰も来ない。
なんなら夜なんてたいそうな理由がない限り来ようとすら思わないだろう。
彼女をボロ小屋に入れると、無理矢理押し倒した。
「助けてください!」
仰向けになった彼女の頭を抑えながら、僕は診療所から持ってきた注射器を取り出した。
「頼むから動かないでくれよ」
「え、あ、あなたは……」
「君のような天使の痛ぶる姿は見たくない。だから少しの間大人しくしてくれるかな」
「修也さんですよね!? どうしてこんな事!」
彼女は目に涙を浮かべながら訴える。
伝えた所で伝わらないだろう。
「身体目当てなんですか!? それだったら逃げ出しませんから! とにかく離してください!」
そんなんじゃないんだ。君の身体を弄びたいわけじゃないんだ
「修也さん! 考え直してください! 今日の事は無かったことにしますから!」
「いいから」
「修也さん!」
「黙ってないと、殺すぞ」
こんな事言いたくなかったのに。
彼女は涙流し、鼻水を啜りながら口を結ぶ。
こんなにひどい顔になってしまって。
美しい顔がもったいない。
僕は彼女の腕を掴むと、注射器を刺した。
「……!」
彼女はそのまま力が抜けパタリと意識を失った。
早急に始めよう。
彼女の服を脱がし、僕はこれまた診療所から盗んだメスを取り出すと、お腹に切れ込みを入れた。
注射がまだ完全に効いていないのか、彼女の身体はビクッと飛び跳ね、創口から鮮血が跳ねた。
ピシャリと僕の顔に彼女の血がつく。
僕は咄嗟にその血を手で拭うと、舌で拭き取った。
甘いスイーツのような味を期待したのだが、男の汚い手が触れた髪から内部に伝染したのか、血は全く美味しくなかった。
──これが、生身の臓器。
内臓とかに穢れが侵食されてないといいが。
赤黒い血と夜のボロ小屋では頼りない小さな電球で腹の様子がよく見えない。
不覚。ライトとか持ってくれば良かったな。
そう思いながら、僕は試行錯誤しつつ解剖を続けた。
──これだ。
僕は子宮であろうものを取り出すと、メスで丁寧に半分に切った。
身体をバラしていくと共に、えずくような酷い臭いで小屋中が満ちていく。
嗚呼、もうこんなにも腐っていたのか。
今、救ってあげるからね、紗奈ちゃん。
僕は子宮にさらにメスを入れていく。
刺身のように均等に綺麗にはきれなかったが、紙皿に乗せた“それ”はとても魅力的なものだった。
そして、解剖後の彼女の姿はあの時僕が射精した金髪の女性の遺体よりも何倍に美しかった。
「いただきます」
ぬちゃりとした“それ”を手で掴み、口に運ぶ。
「う……」
これは──。
「う……う“ぇえええ!」
身体が拒否するように吐き戻してしまう。
どうしてだ。僕は彼女の神聖さを永久に身体の中に残したかっただけなのに!
僕はもう一度口に運ぶ。今度は手で口を抑え、吐き出ないようにする。
「ん……!」
気合いで飲み込むと、僕はもう一切れ掴み、彼女の半開きになった口まで運んだ。
「ふふ」
同じものを食べるなんて、なんだか恋人みたいだな。
部屋に充満する臭気さえも、紗奈ちゃんと一緒に感じていると思うと悪くない気がする。
「う……!」
突然胃から這い上がってくる異物に耐えられず、また吐き出してしまった。
「そんな、紗奈ちゃん、紗奈ちゃんが」
僕は吐き出したものを再び口に入れる。
だが、何度口に入れても身体が拒否される。
ああ、彼女はもうとっくに汚物に塗れていたのか。
彼女の下部からは尿や便が漏れ出ている。
穢らわしい。全て。
彼女は身体も内臓も脳に隠された私秘なる意識さえも全て汚れてしまっていたのか。
「ああ……あああああ!」
死という形で刻が止まったのに、既に穢れてしまった彼女をどうする事も出来ない僕は、ただ、打ちひしがれるしかなかった。