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京都「月の桂」に教わった、文化と寄り添う日本酒 (関友美の日本酒コラム)
京都・伏見は、言わずと知れた酒どころです。1594年の伏見城造営に伴い、都市が発展し、酒造業も成長しました。京都市内から多くの酒造業者が伏見に移り、灘(兵庫県)に次ぐ二大酒どころへ成長しました。1657年には83軒の酒蔵が伏見にあった記録も残っています。現在も豊富な地下水があり、20以上の酒蔵が存在しています。
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今年3月、私は伏見の「増田德兵衞商店」を取材で訪れました。「月(つき)の桂(かつら)」という日本酒を製造するこの老舗酒蔵は、1675年に創業し、来年で350周年を迎えます。1964年に日本初の「にごり酒」をリリースしたことで有名です。この酒蔵の先々代(13代目)は、応用微生物学の権威で「酒の博士」として知られた故・坂口謹一郎先生が「どぶろくのような酒をみんなで飲みたい」と言ったことをきっかけに、「にごり酒」を開発しました。
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日本酒の酒蔵が持っているのは「清酒」の製造免許ですが、どぶろくに必要なのは「その他の醸造酒」の製造免許です。どぶろくを造る技術はあるけれど、そのままでは酒税法違反になります。「じゃあ、免許を取ればいい」と思うかもしれませんが、その場合、「その他の醸造酒」だけで年間6キロリットル以上(一升瓶で3326本)を製造販売する必要があります。これはかなりの量です。そこで、増田德兵衞商店では「米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの」という清酒の原則に従いました。
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ステンレスの長いメッシュの筒をタンクに入れると、濾されたもろみが筒に流れて溜まります。それをポンプで汲み上げて瓶詰めします。税務署との議論の末、「白濁しているが、濾しているため清酒である」と認められ、販売に至りました。加熱処理せず、瓶内二次発酵による炭酸ガスが弾けるにごり酒は、画期的な商品でした。この尽力があったからこそ、今日「うすにごり」や「スパークリング日本酒」といった多様な酒を楽しめるのです。
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会長・德兵衞さん(14代目)から、酒蔵の歴史について伺いました。増田德兵衞商店には、書庫として使われている蔵があり、1万冊を寄贈した現在も、まだ1万冊の蔵書があるそうです。その中には、「解体新書」の原書も含まれています。代々、料理や芸術といった文化に興味を持ち、集めた酒器は無数、酒に関する浮世絵は300点以上あります。
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酒を愛する文人墨客との交流も盛んでした。部屋には谷崎潤一郎が永井荷風に宛てた「増田君をよろしく頼む」という紹介状が飾られていました。德兵衞さんがまだ学生の頃、自宅の居間で開高健と湯豆腐を食べた思い出があるそうです。小津安二郎監督は日本酒好きが高じて、増田德兵衞商店を舞台に『小早川家の秋』という映画を作りました。
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こうした話を聞くたびに、私たちは驚かされました。しかし、日本酒が多くの人を惹きつけ、その人たちが時代を彩る芸術を生み出してきた月日を思う中で、日本酒はただ酔うためのものではなく、文化や哲学と共にあり、日本の伝統を守る使命を背負っているのだと痛感しました。これからも文化の隣に日本酒があることを願います。
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今月の酒蔵
黄桜(京都府)
1925年創業。京都府京都市伏見区に本社を構える。全国的な知名度を持つCMやキャラクター「カッパ」で親しまれている。「辛口一献」や「黄桜純米」など、幅広い製品ラインアップを展開している。また黄桜は地ビールの製造にも力を入れている。売上高95億円(2023年9月期)で国内の清酒製造所売上順位では、上位に位置している。伏見にある黄桜記念館では、酒造工程や過去のラベルなどを見て学ぶことができる。
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」10月号転載
(庄司酒店様に許可を得て掲載しています)