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「革新を続ける者のみ“伝統”として残り続ける」関友美の日本酒連載コラム(リカーズ3月号)
昨年、国内第2位の売上高を誇る酒造メーカー「月桂冠」の頭脳ともいえる、「月桂冠総合研究所」がはじめて公開され、行ってきました。呼ばれたのはわたしのようなライターや酒類関係の有識者たちばかり。
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月桂冠は、酒どころ、京都・伏見に本社を置く1637年創業の老舗。今年で387年を数えます。明治時代に、11代目の当主・大倉恒吉(つねきち)さんが「杜氏の勘と経験任せでなく科学技術を取り入れて、より安心な酒をつくるべき」と痛感して、前身となる大倉酒造研究所を設置しました。
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現在の従業員数は351名。研究所のメンバーは20名弱。2階建てのレンガ壁の建物で、日々清酒や発酵食品関連の最先端研究がおこなわれています。
なかでも酵母の育種・品種改良を得意として、数千種類の酵母ストックを持っています。新しい香気成分の酵母、機能性の高い酵母など付加価値だけでなく、既存の酵母から4-VGなどのオフフレーバー(ネガティブな香り)や不要な要素を取り除く研究も。
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さまざまなチャレンジを続けている「月桂冠総合研究所」ですが、大企業ならではの悩みも。研究したものが商品化するまでには、早くても5年ほどの期間を要するといいます。世に出ないものの方が多いのが研究という仕事。研究員たちのモチベーションアップと市場のニーズを細やかに掴むため、「これぞ」という研究結果を小ロットで限定生産する「Gekkeikan Studio」プロジェクトが2021年に立ち上がりました。
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第一弾商品「Gekkeikan Studio no.1」はメロン、第二弾商品「no.2」は桃。香料的な不自然な香りではなく、誰もが「果実そのものだ」と思える香りがする独自酵母を使用しています。これをキッカケに大型化検証などを繰り返し、誕生したのが「月桂冠 果月」シリーズ。米だけでつくる日本酒の無限の可能性を感じる逸品です。
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今回初めてテイスティングした「no.4」にも目を見張りました。アルコール5%とビール相当なのに、洋梨や青リンゴフレーバーのミネラルウォーターを飲むような軽快さがあります。「未来の日本酒はこうなっていくのかもしれない」と思える、感動体験でした。
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月桂冠は11代目のベンチャースピリッツを受け継ぎ、新しい取り組みを続けています。研究所は、今後不定期で公開するかもしれない、とのこと。気になる人は公式からの情報をチェックしてみてくださいね。
今月の酒蔵
月桂冠㈱(京都府)
創業1637年。全国的にはまだ樽詰めの酒が主流だった明治時代に、いち早く防腐剤なしの瓶詰め日本酒の商品化に注力した。家庭で晩酌する新しい生活スタイルにフィットして普及。鉄道での移動が流行りはじめると、駅で販売するためにコップ付き小瓶を開発・販売。またCMの目新しさも特長。韻シストや宮本浩次出演作はもちろん、歴代のCM作品は今見ても古びずかっこいい。品質第一をモットーに美酒を造るだけでなく、文化をも醸成してきた。
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」3月号転載
(庄司酒店様に許可を得て掲載しています)