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サヨナラ、昭和59年度生まれの酒蔵ユニット『59醸』〜10年の軌跡と新たな挑戦へ(関友美の日本酒コラム)

信州の日本酒ユニット「59醸(ゴクジョウ)」は、長野県内の日本酒蔵の跡取り息子(昭和59年生まれ)5人によって、2014年に結成されました。『極上の酒』を醸そうという決心が、ネーミングに込められています。リーダーである「北光(ほっこう)正宗」を醸す角口酒造店の村松裕也さんが、最初から「10年で解散する」と期限を定めていました。

2016年イベントの集合写真。前列左から著者、角口酒造店6代目 村松裕也氏、丸世酒造店5代目 関晋司氏、西飯田酒造店9代目 飯田一基氏、東飯田酒造店6代目 飯田淳氏、沓掛酒造18代目 沓掛正敏氏


村松さんが「59醸」の構想を練っていた頃、私は会社員をしながら日本酒居酒屋で副業をしており、日本酒サイト運営者から「記事を書いてくれないか」という依頼を受け、挑戦することを決めたタイミングでした。

それを彼に伝えると、「じゃあ何か一緒にやろう!」と言われ、2015年に長野市で行われた「59醸」の第一回お披露目パーティで司会を担当し、日本酒の基礎知識セミナーを行いました。100名近い参加者を前にした私は、身に余る大役に緊張で震えましたが、無事に役目を果たせたことは今でも鮮明に覚えています。

「59醸」の第一回お披露目パーティで司会をしながら、日本酒セミナーをする著者

彼らの中心には、同い年(学年は一つ上)のデザイナー、株式会社R代表・轟理歩さんがいて、酒蔵がそれまで手付かずだった“表現(ブランディング)”について先導してきました。コロナ禍でも立ち止まらず、6人で知恵を絞り活動を続けてきました。

1年目の59醸酒(ごくじょうしゅ)。初年度となる2015年のテーマは「自己紹介」、「酒米・美山錦」「精米歩合59%」という決まりのもと、各蔵59醸酒をリリース。 各蔵の個性を活かした製造と飲み口、ラベルデザインでした。

10年間の活動期間中、毎年テーマと条件を変え、オリジナル日本酒「59醸酒」をリリースしてきました。たとえば1年目のテーマは「自己紹介」、条件は「原料米は美山錦、精米歩合59%」。辛口が持ち味の「北光正宗」はより一層辛口の酒をつくり、もち米四段仕込みが特徴の「勢正宗」は敢えてその手法を封印し、花酵母を使う「積善」はオシロイバナ酵母とベゴニア酵母のブレンドに挑戦し、甘口が得意な「本老の松」はスッキリとした辛口に挑戦。飲み飽きしない酒がテーマの「福無量」は、酸と旨味が共存する酒を造りました。

2018年の長野市イベント 集合写真

控えめな5酒蔵でしたが、集まることで話題を集めたいという願いがありました。さらに、通常商品ではできない新たな技法を試す機会でもあり、切磋琢磨して酒質を向上させてきました。
あれから10年。

解散イベント「MajiでSaigoの59醸感謝祭」の自由時間にて
解散イベント「MajiでSaigoの59醸感謝祭」の一幕。「ミスター味っこ」「将太の寿司」の寺沢大介先生と59醸メンバー

10月19日、長野市のイベントスペースで行われた「MajiでSaigoの59醸感謝祭」をもって、彼らは解散しました。イベントはアットホームな雰囲気で、5人とデザイナー、それを支えてきた人たちの絆を感じる会でした。

解散イベント「MajiでSaigoの59醸感謝祭」の一幕

とはいえ、59醸が解散しても、彼らの酒造人生は終わりません。これからが本当の始まりです。彼らと同じ時間を過ごした私もまた、日本酒業界への思いを胸に、心機一転、次の10年に向かって進んでいきます。
ありがとう、59醸。私にとっても、まさに第二の青春でした。

2016年は、「酒米・ひとごこち」「精米歩合59%」の統一ルールのもと、ひとごこちの言葉の意味である「ほっと、くつろいだ感じ」のような、もっと気軽に肩の力を抜いてリラックスできるお酒「59楽」(ゴクラク)なお酒が2016年のテーマです。
2017年は、「酒米・シラカバ錦」「精米歩合59%」の統一ルールのもと、それぞれの蔵で59醸酒を造りました。30代は、まだまだ若手。凝り固まった考えや成功法に染まるのはまだ早い!各蔵の新たな挑戦「3年目のうわき」が2017年59醸のテーマです。
2018年は、「酒米・金紋錦」「精米歩合59%」の統一ルールのもと、それぞれの蔵で59醸酒を造りました。4年目となる2018年のテーマは「18金」。2018年+酒米・金紋錦だから「18金」。18金のように輝く美しい酒になるのか…得意分野で十八番な酒を造るのか…18禁のような禁じ手を繰り出すのか…。それぞれの蔵がそれぞれの解釈で醸した“ゴクジョウ”な純米吟醸です。
フリークスストア長野店とのコラボレーション企画。これをきっかけに同店は酒販免許を取得した。(現在は閉店済)
2019年度のテーマは、「道なかば」。 10年間の活動期間の折り返しとして、まだまだ道なかばな5人へ「中間テスト」を実施! 「信交酒545号(山恵錦)」、「精米歩合59%」の共通ルールに、「初年度(2015年)と同じ酵母を使用する」という追加ルールを加え、5蔵それぞれで醸した“ゴクジョウ”な純米吟醸です。
59醸酒2020。テーマは「すご6」。 双六のようにふりだしに戻ってしまうのか? それとも大きくマスを進め、飛躍の年になるのか?それぞれの蔵がそれぞれの解釈で醸した「すご6」な59醸酒です。
結成7年目となる2021年度のテーマは「七三(シチサン)」。酒造りに携わる人たち、飲んでくれる人たちとのつながりを隙間なく「ぴっちり」と。 もう一度己の酒造りと向き合い、真摯な酒造りを「ビシッ」と。 ぴっちりビシッと「七三」な59醸酒です。
結成8年目となる2022年度の共通ルールは「酒米:しらかば錦+精米歩合:59%」。テーマは「バッチバーチ」!! 同い年で、チームワークが売りの59醸メンバー。しかし、同志であると同時にライバルでもある5人。こんな時だからこそ、5人の“バッチバチ”な酒造りを見たくないか!? 今年は“バッチバーチ”な59醸酒です。
2023年のルールは、2018年と同じく「金紋錦+精米歩合59%」。テーマは「と金」。将棋の「歩」が「金(と金)」に成長するように、2018年からどのように成長、変化しているのか? それぞれの「と金」な59醸酒をお楽しみください。
2014年の結成から10年間の活動期間の中、毎年テーマを変えたオリジナル日本酒「59醸酒」をリリースしてきました。最終年となる2024年のテーマは「ゴクジョウの酒」。切磋琢磨した10年間の集大成であり、メンバーそれぞれの“ゴクジョウな未来”のための第一歩となる59醸酒です。
解散イベント「MajiでSaigoの59醸感謝祭」の一幕。
沓掛酒造18代目 沓掛正敏氏。他のみんなは杜氏。彼としては弟が杜氏を務めていることから、最初は「自分は酒づくりをしていないのに」という気持ちもあったという。59醸の重要な会計係。今や社長
東飯田酒造店6代目 飯田淳氏。三男坊。「なんとなく」で入社し蔵人歴約10年。3年程、岩手の南部杜氏につき酒造りを教えてもらう。 「59醸」で格段に成長を遂げ、堂々とした出で立ち。
西飯田酒造店9代目 飯田一基氏。リーダー村松氏とは農大の同級生。この二人の会話から59醸がスタートした。人情味があって、この日も感極まって涙する場面も。R1には代表取締役社長就任した。
丸世酒造店5代目 関晋司氏。大学で畜産を学んだ後、ハムの会社で営業職を経験し「自分の造ったものを売りたい」と家業の酒造りに。 3段仕込みの最後にもち米を加える「もち米四段」が特徴。放っておいたら一生喋っているヒト
発起人・リーダー 角口酒造店6代目 村松裕也氏。長野県の北、飯山市に酒蔵がある。東京農大の醸造学科を卒業した後、実家の酒蔵に入社。過疎の地元に危機感を覚え、高齢化した製造現場を気合いで建て直し、酒質を向上させた努力家。
2015年5月10日に長野市COLORFULで行われた「59醸酒リリースイベントin 長野」の様子。前列一番左が、59醸の6人目のメンバー、デザイナーの株式会社R代表・轟理歩さん。優しい人柄でみんなを取りまとめてきた。その右に59醸の5人、著者

今月の酒蔵

七笑酒造(長野県)
長野県木曽町福島の「木曽福島宿」という中山道の宿場町にある、明治25年(1892年)創業の酒蔵。周りを高い山々に囲まれた谷あいの地で、木曽節に「夏でも寒いヨイヨイヨイ」と歌われるほど、冷涼な土地。地酒は、底冷えする木曽路に欠かせない生活必需品であった。「七笑(ななわらい)」という銘柄には、木曽の歴史的英雄・木曽義仲が幼少期を過ごした場所という説もあり、「七回笑えば七福(たくさんの幸せ)が来る」という願いが込められている。


庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」12月号転載
(庄司酒店様に許可を得て掲載しています)

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