サヨナラ、昭和59年度生まれの酒蔵ユニット『59醸』〜10年の軌跡と新たな挑戦へ(関友美の日本酒コラム)
信州の日本酒ユニット「59醸(ゴクジョウ)」は、長野県内の日本酒蔵の跡取り息子(昭和59年生まれ)5人によって、2014年に結成されました。『極上の酒』を醸そうという決心が、ネーミングに込められています。リーダーである「北光(ほっこう)正宗」を醸す角口酒造店の村松裕也さんが、最初から「10年で解散する」と期限を定めていました。
村松さんが「59醸」の構想を練っていた頃、私は会社員をしながら日本酒居酒屋で副業をしており、日本酒サイト運営者から「記事を書いてくれないか」という依頼を受け、挑戦することを決めたタイミングでした。
それを彼に伝えると、「じゃあ何か一緒にやろう!」と言われ、2015年に長野市で行われた「59醸」の第一回お披露目パーティで司会を担当し、日本酒の基礎知識セミナーを行いました。100名近い参加者を前にした私は、身に余る大役に緊張で震えましたが、無事に役目を果たせたことは今でも鮮明に覚えています。
彼らの中心には、同い年(学年は一つ上)のデザイナー、株式会社R代表・轟理歩さんがいて、酒蔵がそれまで手付かずだった“表現(ブランディング)”について先導してきました。コロナ禍でも立ち止まらず、6人で知恵を絞り活動を続けてきました。
10年間の活動期間中、毎年テーマと条件を変え、オリジナル日本酒「59醸酒」をリリースしてきました。たとえば1年目のテーマは「自己紹介」、条件は「原料米は美山錦、精米歩合59%」。辛口が持ち味の「北光正宗」はより一層辛口の酒をつくり、もち米四段仕込みが特徴の「勢正宗」は敢えてその手法を封印し、花酵母を使う「積善」はオシロイバナ酵母とベゴニア酵母のブレンドに挑戦し、甘口が得意な「本老の松」はスッキリとした辛口に挑戦。飲み飽きしない酒がテーマの「福無量」は、酸と旨味が共存する酒を造りました。
控えめな5酒蔵でしたが、集まることで話題を集めたいという願いがありました。さらに、通常商品ではできない新たな技法を試す機会でもあり、切磋琢磨して酒質を向上させてきました。
あれから10年。
10月19日、長野市のイベントスペースで行われた「MajiでSaigoの59醸感謝祭」をもって、彼らは解散しました。イベントはアットホームな雰囲気で、5人とデザイナー、それを支えてきた人たちの絆を感じる会でした。
とはいえ、59醸が解散しても、彼らの酒造人生は終わりません。これからが本当の始まりです。彼らと同じ時間を過ごした私もまた、日本酒業界への思いを胸に、心機一転、次の10年に向かって進んでいきます。
ありがとう、59醸。私にとっても、まさに第二の青春でした。
今月の酒蔵
七笑酒造(長野県)
長野県木曽町福島の「木曽福島宿」という中山道の宿場町にある、明治25年(1892年)創業の酒蔵。周りを高い山々に囲まれた谷あいの地で、木曽節に「夏でも寒いヨイヨイヨイ」と歌われるほど、冷涼な土地。地酒は、底冷えする木曽路に欠かせない生活必需品であった。「七笑(ななわらい)」という銘柄には、木曽の歴史的英雄・木曽義仲が幼少期を過ごした場所という説もあり、「七回笑えば七福(たくさんの幸せ)が来る」という願いが込められている。
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」12月号転載
(庄司酒店様に許可を得て掲載しています)