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「先頭で見た景色はすごくキラキラしてた」/山本有真②

レース直前に届いた、同僚からのサプライズ動画。
その勇気、たくさんの応援を胸に、
山本有真選手は、パリでのレースに挑みました。

心に体がうまく追いついていない感覚

直前の練習も順調にこなし、
コンディションも問題なく、
レース当日を迎えた山本選手。
ただ、その前に思わぬ敵が出現します。

「試合まで時間があったので、色々考えちゃうから、中学校の同級生と電話したり、ビデオ通話とかしてリラックスさせてたんですけど、すごい緊張してるなっていうのは自分でも感じていました」

「でも、その日の占いがめちゃくちゃ悪くて。10件ぐらい調べても全部悪くて、『うまくいかない』とか『失敗する日』とか出てきたんですけど、11個目ぐらいで、やっといい運勢を見つけて、すごく安心してた記憶があります(笑)」

しかし、体は正直に、緊張感を感じていました。

「色々レースを楽しもうとか考えて、周りには笑顔で余裕そうな顔をして、自分もそう思い込んでたんですけど、でもやっぱり内心、アップしようって立った時に、足がめっちゃ震えちゃって。片足で立ってやるトレーニングがあるんですけど、それができなかった」

「走ってる時も、体に力が入ってる感覚がなくて、全然いつも通りにアップは走れなかったですね。心の中ではすごく楽しみだし、楽しもうって思ってるんですけど、心に体がうまく追いついていない感覚でした」

とにかく自己ベストに集中する

競技場まで移動する道も、いつもより長く感じる中、
「楽しい」「ワクワクしてる」と自分に思いこませ、
そして、迎えたレース本番。

最初に組み立てたレースプランは、
「とにかく自己ベストに集中する」でした。

「元々予選通過が現実的に厳しいことは監督とも話して理解していて、その中で自分ができることは、自己ベストを出すことしかないなと思っていました。そのためには、序盤からいいペースで走らないといけない。だったら、最初の1000mぐらいで誰も前に出なかったら、自分で勇気を持って行った方がいいと言われていました」

しかし、「あそこまで1人で走れるとは
思っていなかった」と彼女は言います。
レースは300m付近で山本選手が飛び出すと、
2位集団はスローペースを維持。
そのまま山本選手が後続を突き放す
“大逃げ”の形になり、
それは3000m付近まで続きました。

「1~2周走って画面を見たら、後ろがだんだん離れてて。すごく不安になったんですけど、とにかく自己ベストを出すことしかないと思ったから、 あのまま突き進んだ感じです。誰かと一緒に走って、力を借りたかったんですけど、ちょっと予想外だったのはあります」

あんなに大事に1周を走ったのは初めて

世界の先頭を短時間でも走った山本選手。
その光景は振り返ると、「夢だったのかな」とも
思えるような時間でした。

「逃げている感覚はなくて、とにかく自分のペースを刻もうと考えていました。今、思うと“夢だったのかな”とも思える時間帯ですね、本当に自分があれをやったのかな、って思います」

「あの時は走りながら、先頭を走れているのは本当にすごいことだし、誰もが見られる景色じゃないとは、冷静に分かりながら走っていました。この景色を目に焼きつけようって思って、1歩1歩噛みしめて走ったり、あんなに大事に1周走ったのは初めて、ってぐらい。すごい大歓声なんですよ。体が震えるぐらい声の迫力がすごくて。走りながら体がフワフワしてきちゃって、 『今、足がちゃんと地面についてるのかな』とか、なんか走ってる感覚があまりなかった感じです」

「そのあと、だんだんキツくなってきたなっていうのは覚えてるんですけど、でも、先頭で走って見る景色はすごくキラキラしてたし、それは今でもちゃんと覚えています」

ただ、その時間は長くは続きませんでした。

「でも、やっぱり幸せだったのが、その3000mぐらいだけで、3200mぐらいから追いつかれて、すぐ置いてかれちゃって。そこからは苦しいし、自己ベストも出せなかったので、悔しいなっていう気持ちのが大きいです」
と、終盤の走りを思い返します。


⇒③へ続く


文・写真:守本和宏/ナノ・アソシエーション
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