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ぼくらの「アメリカ論」

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ぼくらのどこかに、いつも「アメリカ」がある。 高知、神戸、東吉野。文学者、建築家、歴史家。居住地も職業も違う3人が、互いの言葉に刺激されながら自分にとっての「アメリカ」を語る、こ…
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#建築家

15 沈黙と光を愛した遅咲きの建築家 光嶋裕介

海外に行く際の入国審査などの書類には、必ず職業(occupation)欄がある。私は、建築を勉強し始めてまもない頃から、そこに「Architect」と書いている。大学で建築を専攻して以来、建築家への志は変わることがなかったし、夢が叶った今も、建築家であることに誇りを持って仕事をしている。生業の中心は、建築設計と現場監理だが、ドローイングを描いたり、文章を書いたり、大学で教えたりすることも、すべて「建築家」としてやっていることである。 ちょっとキザな言い方になってしまうが、建築

13 自然と対峙した完全芸術家のまなざし 光嶋裕介

作品集のページがボロボロになるまで見ていた建築を、実際に体験したときの感動は大きい。 鬱蒼とした森の中に垂直に立ち上がる石積みの壁と、水平に広がる上品なクリーム色のテラスのコントラストが、ひときわ端正な輝きを放つ。その圧倒的な浮遊感は、水平に連続する赤枠のガラスの広がりからよりも、川のせせらぎや風で揺れる木々の音からより強く感じられた。鳥のさえずりも心地よく響き、まわりの自然を五感で受け止めて、パッと同化する一体感が《落水荘》にはあった。 ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外の

9 フラーから考える建築家の倫理 光嶋裕介

「建築家は家屋の海原の中にたとえば聖堂をつくる。ヨコのひろがりの内に、タテの力が働く場をつくり出そうとする」(『ヨコとタテの建築論』慶應大学出版会、2023、p.128)とは、建築史家の青井哲人の言葉である。 青井はまた、「新しい制作のきっかけは、いつも所与の豊穣な世界にある。素材もそこから集められ、集まったものが交雑する。ところがそこに世界からの超越が兆す。接続しない自律はありえない。ヨコのないタテはありない」(同上、p.34)とも述べている。 ヨコに展開するのは、白岩さ