マガジンのカバー画像

ぼくらの「アメリカ論」

18
ぼくらのどこかに、いつも「アメリカ」がある。 高知、神戸、東吉野。文学者、建築家、歴史家。居住地も職業も違う3人が、互いの言葉に刺激されながら自分にとっての「アメリカ」を語る、こ…
運営しているクリエイター

#モダニズム

9 フラーから考える建築家の倫理 光嶋裕介

「建築家は家屋の海原の中にたとえば聖堂をつくる。ヨコのひろがりの内に、タテの力が働く場をつくり出そうとする」(『ヨコとタテの建築論』慶應大学出版会、2023、p.128)とは、建築史家の青井哲人の言葉である。 青井はまた、「新しい制作のきっかけは、いつも所与の豊穣な世界にある。素材もそこから集められ、集まったものが交雑する。ところがそこに世界からの超越が兆す。接続しない自律はありえない。ヨコのないタテはありない」(同上、p.34)とも述べている。 ヨコに展開するのは、白岩さ

6 オフィスビルという欲望の建築の終焉 光嶋裕介

人間の生活と建築は常に密接な関係にあり、社会が大きく変化するたびに新しい建築が生まれてきた。 白岩さんの言うように、アメリカ先住民族は「大建築」を遺さなかった。だが、世界が高度に近代化した20世紀は、人間が集まって生活することを選択した時代となり、都市化が進んだ現代はまさに「大建築」の時代となった。生活の大きな部分を働くことが占め、資本を生み出す労働の場は工場からオフィスビルへと変わっていった。労働力は賃金となって分配され、モノやコトをお金で交換する経済活動が世界を覆い尽くし