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父「称」と父「姓」を混同しないで!
*写真は、ロシアのサンクトペテルブルクにあるドストエフスキーの家。フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキーФедор Михайлович Достоевскийと、名前・父称・姓の順で書かれている。
先日、選択的夫婦別姓を目指して活動する全国陳情アクションの事務局長井田奈穂氏のツイートのやり取りで不可解なことがありました。
ナザレンゴ・アンドリー氏ご出身のウクライナではhttps://t.co/fidbmp1sHW
— 井田奈穂/Naho Ida/選択的夫婦別姓・全国陳情アクション (@nana77rey1) August 18, 2021
•to keep one’s surname;
•to take the husband’s/wife’s surname;
•to add the husband’s/wife’s surname to own surname.
別姓、同姓、複合姓が選べる、選択的夫婦別姓です。 https://t.co/J5DRann3L5
このようなツイートに対して
ウクライナでは夫婦別姓が選択できても父親の名前である父称を名乗ることになっています。これも家父長制的ではないですか?あと、ウクライナには男女で語尾が違う姓がありますよ。日本よりある意味ジェンダーに縛られていませんかね。 https://t.co/fmJXSxvyQW
— Павличенко (@pablichenkosssr) August 19, 2021
という返信があり、それに対する井田氏の返事は、以下になります。
*ジェンダーの話を出したのは、後述の井田氏のツイートを見ても分かりますが、井田氏が選択的夫婦別姓の話をジェンダー問題としても語っているからです。
…?選択的夫婦別姓=母の名字を子につけろ運動だと誤解してます?
— 井田奈穂/Naho Ida/選択的夫婦別姓・全国陳情アクション (@nana77rey1) August 19, 2021
変えたくない人[も]いるので、本人が改姓する・しないを選べればいいんじゃないですか? https://t.co/IxdhdlJfGh
あれっ、子の「姓」の話なんてしてましたっけ?前のツイートで出てきたのは、「父親の名前である父称」と「男女で語尾が違う姓」です。父の「姓」を子につけることについては言及されていません。
引き続きやりとりを見てみましょう。
そう言いながらも夫婦同氏制は男尊女卑的だと言うような主張をされてますよね。
— Павличенко (@pablichenkosssr) August 19, 2021
↓https://t.co/MKFd9TSfhl https://t.co/CyYZ8fsH9Y
*これも、普段井田氏がジェンダー問題として選択的夫婦別姓について語っていることから出た返信です。
父の名字をつけられるのが問題だと訴えてますか?
— 井田奈穂/Naho Ida/選択的夫婦別姓・全国陳情アクション (@nana77rey1) August 19, 2021
結婚にあたり、改姓する・しないを自身で選べないのが問題であるという話をこの2年以上してますが。 https://t.co/TZyFDT7v7D
だから父の「苗字」である父「姓」でなく、「名前」である父「称」の話なのですが…
私が言及したのは、ウクライナにおける「父姓」でなく「父称」(先述のように父の名前から作り「〇〇の息子/娘」を表す)です。
— Павличенко (@pablichenkosssr) August 19, 2021
井田さんがジェンダー問題としても取り上げておられるので、別姓が選べるだけでは名前におけるジェンダー要素がなくならない国もあると紹介しました。 https://t.co/Lu2UvVhsO8
これに対する反応は
それが問題だと思うなら、あなたがウクライナの裁判所なりに法改正を訴えたらよろしいのでは?
— 井田奈穂/Naho Ida/選択的夫婦別姓・全国陳情アクション (@nana77rey1) August 19, 2021
私は[結婚改姓する・しないを選べる制度]を求めているのであり、ウクライナの名付けの原則について何の感想も持ってません。
選択的夫婦別姓=母姓を継がせろ運動ではありません【3回目】 https://t.co/4rkTZm0KB8
でした。
私は父の名字でしたが[父の名前を名乗らなくてはいけない]と感じたことはないですね。
— 井田奈穂/Naho Ida/選択的夫婦別姓・全国陳情アクション (@nana77rey1) August 19, 2021
物心ついた時はその氏名で、変えたくなかっただけです。
結婚改姓は明確に[夫の名前を名乗らされた]と感じましたね。望んでなかったので。
望んでない改姓を主に女性がしなければならない制度変えねばですねえ https://t.co/Qg9YXY0Vtu
同じようなやりとりが繰り返されますが、結局井田氏は父の「名前」である父「称」の話でなく、父の「姓」である父「姓」の話として話を続けてきます。
厄介なのは、井田氏に対して、やはり父の「名前」である父「称」の話でなく、父の「姓」である父「姓」の話として返信してきた人がいたことです。
私も同じです。自分が最初から父方の姓だったから、そういうものだと思っているだけですね。ですが、姓について最初に感じた疑問は、なぜ母方の姓が選択されなかったのかです。
— 🐭🦑Schnee_Arlyssa🍉🐼 (@A_Schnee_S) August 19, 2021
わたしは、母の旧姓より今の姓の方が好きなので、こっちで良かったなと思いました。母の旧姓、濁点入るのがイヤなんですよ…。(いろいろこだわる。)音の響きも籠もった感じなので。あ、あとイトコたちと同じ姓なのはイヤだなぁとも思いました。
— 3a8(ab) (@saya_fairyland) August 19, 2021
井田氏はこれまで、しばしば世界の姓の制度を引き合いに別姓選択ができない日本の仕組みを問題視してきました。↓
望まない改姓を強いる法律は、自分の生まれ持った氏名を名乗るという基本的人権を侵害する差別なので、日本以外すべての国では廃止されたの。
— 井田奈穂/Naho Ida/選択的夫婦別姓・全国陳情アクション (@nana77rey1) July 31, 2021
そんなこと、当たり前の話なの。
変えたい人だけ、どうぞ変えて? https://t.co/eA6vX7Py25 pic.twitter.com/J6qd6QKTOI
日本以外すべての国でそんなもんはトレードオフではありません笑。
— 井田奈穂/Naho Ida/選択的夫婦別姓・全国陳情アクション (@nana77rey1) July 30, 2021
日本もそもそも、100%夫婦別姓の国でした。
西欧化で夫婦同姓を導入し、肝心の西欧も一つ残らず同姓の強制を撤廃したのに、なんで日本だけ根拠もなく「一体感ガー」とやってる人がいるのかといえば、家父長制観念ですね。 https://t.co/rUuWUwXixd pic.twitter.com/mx4N6ESISK
なお念のため…日本の司法は、日本の夫婦同氏制度は合憲であり、なおかつ氏の仕組みは文化や伝統などにより国それぞれと判断しています。
また、日本には西欧文化が入ってくる明治より前から夫婦で同じ苗字を名乗る習慣がありました。
本題に戻りましょう。
世界の名前の仕組みは、別姓か同姓かの違いだけではありません。また、別姓選択できる国も、男女平等や選択の自由という観点から別姓を認めてきたとは限りません。別姓選択ができても、名前の他の要素にジェンダー要素が残っていたり、他に選択できないものがあるとすれば、ジェンダーや選択肢を増やすという観点からそのような仕組みになっているとは言い切れないと思います。
世界の名前の仕組みを引き合いに日本の名前に関わる制度を批判するのであれば、姓だけにこだわらず、ウクライナの場合は父称や父称由来の姓、男女別語尾姓の存在など、他の観点からも各国の仕組みについて比較、検討されるべきだと思います。東欧の事情を知らない人が「父称」と「父姓」の区別がつかないのは理解できるのですが、名前の制度を変えようと活動し、海外の名前の制度についても調べている人達でも理解しているのか疑問に思う場面があり、正直なところ驚きを隠せません。東ヨーロッパを専門に勉強してきた者として、選択的夫婦別姓の話題については、殊更英語圏や西欧、中韓台といった日本人に馴染みのある国の姓以外の仕組みについてはほとんど無視されてしまっている印象を受けます。しかし、残念なことに、こうした傾向は選択的夫婦別姓の話に限ったことではありません。日本人に馴染みのない国について学んできた者としても、「多様性」を訴えるのであれば、日本人に馴染みのある国以外の事情についても丁寧に語って欲しいと切に願います。