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ハートの石

ハッとした。
あれ?
川の脇のトンネル型の小さな水路から、川に降りるための階段と草の合間に水が流れ落ちる場所に、ふと視界に入った「ハート型の石」。
手に取って驚いた。
余りにもハッキリとしたハート形だったのだ。
どう考えても、いや、自分で石を削ろうとしても、うまくいかない予感がした。
あー、また、引き寄せられた。
何千、何万個ある石の中から、出会ったハート型の石。

テントを貼った場所にいる妻に、子供と川で遊んでから、渡そうと思った。

どうやって渡そうか。
ふと、そんなことが湧き上がる。

少しふざけ気味に、テントに戻ったらすぐに「愛しています」と言って、両手を伸ばしながら頭を下げて渡すか・・・
それとも、敢えて、2人が出会って付き合う前に告白するように、「昔から好きでした」と言って渡すか・・・
どちらも、ちゃんと実行できれば面白いと思って、子供2人をちょうどいい具合に遊ばせて、テントの場所へ戻る。

次男が元気よく、「ママー川から帰ったよ」と叫んで妻のところに走っていく。
僕はどのタイミングで渡そうか、少し胸の鼓動が鳴るのを感じる。
ドクッ・・・・・
ドクッ・・・・・
もう、結婚して6年にもなる。
なぜ、自分の身体が反応するのか、わからない。
ふざけていても、「愛しています」と言う言葉を、心の中に準備するだけで、恥ずかしいという気持ちが込み上げてくる。

え?愛しているとか言うの?
なんか、愛しているって重くない?
馬鹿みたいじゃん!真面目な顔して愛していますとかって。

そんな言葉が胸の内側を3歩歩く間にグルグルと回る。

テントの場所に着いて、2人の子供が妻に寄って行き、妻はその対応に追われている。

着いた瞬間に渡そうと思っていたのに、ハートの石を指す出す勇気がでない。子供達が僕の空気を読んでくれたのか、妻の手が塞がっているのは、精神的に都合がいい。

でも、次その手が開く瞬間に渡さないと、せっかく拾ったハートの石を渡せなくなる。出会いをくれたハートの石に申し訳ない。

すると、妻が子供達の対応を一通り終えた。

反射的に両腕を動かす。

「なぁ麗子、プレゼントがあるんやけど」
片手でハートの石を差し出す。
「え?なに?なんや、ただの石やん」
一瞬、プレゼントと言う言葉に反応して、ただの石を見て羽化喜びさせられた気分になった妻。
でも、次の瞬間、目をくっきり丸々とさせて、ハッとした。
「えー、何これ?凄ーい。ハートやん。めっちゃ嬉しい」
今にも飛び跳ねそうな笑顔が溢れかえる。

勇気を出して良かった。

きっと、渡していなかったら、後悔していただろう。

でも、愛していると言う言葉は出せなかった。

妻を僕が内面で愛しているかどうかという問題ではない。

「愛している」

軽々しく言えず、ここぞと言う時に使う大切にしたい言葉。

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