創作「途方落日」 一
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角部屋。定輔の住む、長方形が外の道路に従って図々しく削れた台形型をした101号室、そろそろ煙草の黄色い脂(ヤニ)が目立ってきているその薄い壁の向こうから声が聞こえてきた。長らく住人の居なかった隣りの部屋に誰かが引っ越しをしてきたようだ。男二人で何やら楽しげな会話をしながら荷物を運び入れている。天気だけは良い日曜日の午前中、定輔は携帯電話でタクシーを呼んだ。駅前のパチンコ屋へ行く為である。験担ぎ、徳を積む、そんな訳でもないが、まずはタクシー代金六百円を世の中に投げれば、周り回ってそれがその日のうちに何十倍にもなって返ってくるのではないかとの目論みである。自転車に乗れば五分とかからず到着出来る駅前に、定輔はそのような理由から自転車では行く気にはなれなかった。帰路駅前のスーパーに寄ってビールとおつまみ、弁当、それらを抱えてタクシー運転手に指示をしている自分を想像しながら台形型の部屋を出て扉を開けた。到着していたタクシーに乗り込み五分とかからず、スーパーの入り口端っこにあるエレベーターを五階まで。降りてから短い階段を上がり開店したばかりで開けっ放しの自動ドアを潜り抜ける。勘で台を短く吟味し煙草とライターを放り投げる。自動販売機へと缶コーヒーを買いに行く。煙草を銜えて千円札を差し込みハンドルを回し始めた。どうやら今日も、今日という日を始める事が出来たようだ。程なくして蟹の図柄が斜めの形に並び、揃う。けたたましい音と光、滑り出しは順調だった。