
猫かぶり
きまじめそうに背を伸ばし
おとなしそうな顔をして
猫をかぶった人がやってくる
頭の上では三毛のヤツが
むじゃきに肉球なめている
なるほど人のと猫のとで
たしかに二枚舌のようだ
首に力を込めているのは
頭が重いからにちがいない
猫をかぶっているのにも
それなりの苦労があるんだろう
だれも大きかれ小さかれ
猫をかぶらずには生きてゆけない
人をあざむくためでなく
腹にひそむニンゲンの牙で
むやみに相手を傷つけぬよう
牙に衣着せぬ物言いが
もてはやされる世だけれど
やさしい子猫の一匹くらいは
頭の隅に飼っておきたい
できればだれにも見えるように
猫をかぶった人の頭で
にゃあ とかすかな声がする
おや ぼくの頭の上からも
にゃあ とこたえる声がする
猫同士が慣れてきたなら
たがいにそっと頭から脱いで
ゆっくり分かりあえばいい
役目を終えた猫たちが
ぼくらの足元でのん気に
じゃれ合っているあいだに
(「詩とファンタジー(春生号)」掲載作)