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花札ワンダーランド
高層ビルが立ちならぶ都会で
一人の少女が転んだ
アスファルトいちめんに
花札をばらまいて
すると札からはらりはらりと
花たちがこぼれ出し
空気の汚れた街はパニック
ウメもアヤメもボタンもキクも
いっせいに咲きだしたもので
さらに札からぱたぱたと
鳥たちが羽ばたいて
とまり木のない街はパニック
ウグイスもツバメもホトトギスも
いっせいに鳴きだしたもので
「あつまれ!」とツルの一声で
イノシシが猪突猛進かけよって
泣いている少女を抱きおこせば
シカがカクカクシカジカと
くわしい事情を説明し
チョウがてふてふ舞いおりて
ひざこぞうのすり傷にとまる
お偉いさんたちは慌てだし
頭を抱えてこう嘆く
「ああ! 前代未聞の
花札パニック!
せっかく作りあげてきた
ニンゲンの街が台無しだ!」
ところが少女は涙をぬぐい
にっこり笑ってこうはしゃぐ
「わあ! なんてステキな
花札ワンダーランド!
これが昔の人の描いた
ほんとうのニッポンなのね!」
(「詩とファンタジー(No.33)」掲載作)