
恋文のスゝメ
よく晴れた五月の朝
自転車をこいで丘をのぼり
あなたの街を見下ろせるあたりで
わたしは手紙を書きはじめる
恋文は深夜閉めきった部屋で
せっぱつまって綴るのでなく
風のそよぐ朝 樹の幹にもたれ
青空のもとでしたためるのがよい
膝の上では字も乱れようが
あなたに寄せる想いの明るさを
春風や草の香りとともに
封筒に閉じこめて送りたく
なんどもため息をつき
なんども破り捨てては
くり返し白き地平にいどみ
長い手紙を書き終えたなら
便箋を丁寧に折りたたみ
お気に入りの切手をまっすぐ貼って
四つ葉のクローバーを同封する
恋文ひとつにもたしなみはあろう
たそがれ迫る五月の夕
自転車をこいで丘をくだる
うまくまとめきれなかったのは
想い方が下手だからだ
心が言葉をはみ出すからだ
それでも恋はツバメよりはやく
いま あなたへとひた走っている
古いやり方でも つたなくてもいい
力のかぎりわたしは自転車をこぐ
丘のふもとにひっそりと咲く
赤い一輪のポストめがけて
(「詩とファンタジー(春翼号)」掲載作)