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<灯台紀行・旅日誌>2020年度版

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<灯台紀行・旅日誌>2020福島・茨城編#8

塩屋埼灯台撮影4

堤防の階段を下りた。車に乗った。回転して、塩屋埼灯台へ向かった。灯台下の駐車場は、午前中に比べ、やや混んでいた。ひばりちゃんの碑の辺りには、観光客の姿が目立った。ふと思い出したのだろう、カメラ二台をぶらさげて、砂浜に下りた。岬の反対方向へ、少し歩きながら、灯台を見上げるようにして何枚か撮った。さらに、砂浜を歩いて、振り返り、岬の上の灯台を見た。う~ん、景色としてはイマイチだな。引き返した。

車に戻り、カメラバックに、ペットボトルの水と、ロンTの着替えを突っ込んだ。灯台の敷地で、日が暮れるまで、粘るつもりだった。といっても、そんなに長い時間じゃない。時計を見たのだろう、午後の二時前だったような気がする。日没時間は四時半だ。岬の階段を登り始めた。上から降りてくる観光客が意外に多い。ま、階段は、ぎりぎり、すれ違い出来るくらいの幅だから、さほど神経を使うこともない。とはいえ、体力的には、やはり、途中で一回息を入れた。

階段を登りきって、灯台の<敷地外敷地>に入った。断崖沿いの柵に寄りかかりながら、岬の、繁茂した樹木の中から飛び出ている白い灯台を狙った。長い紐に連なっている万国旗が、灯台にまとわりついている。風をうけて、勢いよく揺れている。一通り撮って、移動した。後でもう一度、夕日に染まる灯台を撮りに戻ってこよう。

ステンの門をくぐって<敷地内敷地>にはいった。受付を覗きこみながら、先ほど受け取った入場券?の半券を示した。即座に、おばさんの機嫌のいい声が聞こえた。快く、入場を許可してくれた。さてと、午前と同じく、灯台までの、数十メートルの階段道を、撮り歩きしながら進んだ。明かりの具合と、空の様子はよくなっているものの、灯台の布置が変わったわけではない。もどかしい写真しか撮れない。何しろ、灯台へと向かう階段道の設置場所が悪い。いや、悪い、というのは、写真を撮るうえで悪いのであって、建築上の問題とか、安全面とかでは、ベストなのかもしれない。常識的に、そういった問題が優先されるのはあたり前の話だ。

いちおう、灯台の根本まで行き、午前と同じく、灯台を見上げながら、周りをぐっと一回りした。いま思えばだが、この時も、灯台に登る気にはならなかった。というか、そういうことは思いもしなかった。夕陽までには時間もあるのだし、考えるくらいのことはしてもよかった筈だ。そうだ、観光客が、たくさんいたような気もする。<蜜>が気になっていたのかもしれない。

お決まりのように、撮り歩きしながら階段道を後退して戻った。しかしこの行為も、整地された断崖に一本だけ植わっている樹木の前までだ。そこからは、灯台の胴体と樹木が重なってしまう。せめて、この木だけでも、どうにかならないかと思った。

受付け前の広場にも、何やら人影が多い。あとからあとから、観光客が階段を登ってくる。端にある、屋根付き休憩所まで、迷うことなく歩いた。カメラバックやカメラをテーブルの上に置き、たしか、着替えたはずだ。背中が汗でびっしょりだった。給水して、柵越しに目の前の海を見た。黄金色に染まっている。何枚か撮った。

少し休憩して、<敷地外敷地>の柵の前に戻った。つまり、夕日に染まる灯台を狙えるポジションだ。どっかとその場に座りこんだ。夕日にはまだ少し時間が早かったのだ。背中に観光客のざわめきを感じながら、この日初めての、静かな時間を過ごした。というか、なんとしても、夕日に染まる灯台を撮るつもりだった。

時々、すぐ横に、観光客たちが来て、わあわあ~、たわいのない話をしていた。こちらは、ほぼシカと状態で、灯台を眺めていた。そのうち、灯台の胴体が、白から、薄いオレンジ色に変わってきた。振り返って、西の空を見ると、陽がだいぶ傾いてきて、茜色に染まっている。ここぞとばかり、数分間隔で写真を撮った。みるみるうちに、あたりがうす暗くなってきた。<秋の夕日はつるべ落とし>か。

ジーンズのベルト通しにくっ付けた腕時計と西の空とを交互に、再三見た。時間は、三時半過ぎになっていた。西の空には、なぜか、大きな雲がかかってきて、その雲が夕日を時々隠してしまう。むろん、そういう時は、灯台もうす暗くなり、写真としては、何となくさえない。かっと、西日が差す瞬間を、カメラを構えて待つわけだが、その待つ時間がじれったい。いや、考えようによっては、楽しいのかも知れない。

小一時間粘ったようだ。なんだか、退屈になってきた。というか、明かりの具合からして、これ以上粘っても、今以上の写真が撮れるとは思えなくなってきた。夕日を覆っている巨大な雲が、このあと、一気に霧散することもあるまい。それに、灯台の背景の空が西側なら、きれいに染まる可能性もあるだろうが、残念なことに、東側なのだ。青空が、少しオレンジ色っぽくなっている程度で、さほどの魅力はない。となれば、そろそろ限界で、引き上げようか。

そう思いながらも、ぐずぐずと、なかなか決断できなかった。というのは、前回の<爪木埼灯台>のことが思い出されたからだ。あの時は、あと三十分、粘りきることができなかったがゆえに、夕日に染まる灯台を撮り損ねたのだ。今回も、なんか嫌な予感がした。とはいえ、もう集中力が切れていた。未練がましく西の空を見上げたものの、すでに、それすらが、自分に対するポーズだった。

決断ができない、中途半端な気持ちのまま、カメラバックを背負った。階段を下りようとしたとき、すぐそばにいた爺・婆が、人に聞かせるような感じで、話をしていた。たしか、小柄でおしゃべりな爺さんと、婆さん二人連れだった。爺さんは小さなカメラを持っていて、多少、カメラや三脚などに興味がありそうだ。<ジッツォ>という名前も口にしていた。婆さんたちは、俺がでかいカメラバックを背負っていることに感心していた。

階段の降り口で、爺・婆たちとの距離が最大限接近した時、横で、<あのお兄さんが>という声が聞こえた。つい、その婆さんに向かって<もうおじさんでなんですけど>とサングラスを取って、軽口をたたいた。たしかに、ジーンズ姿で、頭にバンダナなどを巻いているのだから、婆さんたちから見れば、俺も<お兄さん>なのかもしれない。なんだか、うれしいような、気恥ずかしいような、気がしないでもなかった。

駐車場に降り立った。そのまま、公衆便所に直行して、用を足した。そうだ、灯台の敷地にトイレはなかった。看板にもその旨書いてあった。まあ~、年寄りが多いからね。そのあと、少し砂浜の方へ歩いて、岬を見上げた。なんと、灯台の白い胴体が、オレンジ色になっている。予想はみごとに外れて、自分が去った後も、灯台は夕日に照らされ続けている。だが、もう後の祭りだ。こうなったらからには、ひばりちゃんの碑に灯台を絡めて撮ってみようか。

碑の前に行った。ところが、観光客で、ごった返している。とまでは言えないが、次から次へと、記念撮影だ。ここまで来たんだから、ひばりちゃんと一緒に記念写真を撮りたい。ま、それが、人情ってもんだろう。それほどのファンでもない自分がそうなんだからな。少し脇によって、碑の前から人影が消えるのを待っていた。わあ~わあ~わあ~わあ~、家族連れも、爺婆たちも、カップルも、楽しそうに、スマホで記念写真だ。見ていて、嫌な光景じゃない。むしろ、ほほえましい。

だが、いささか長い!少し焦れてきたその瞬間、碑の前に人影がなくなった。すすっと前に出て、片膝をついて、手前にひばりちゃんの碑、上の方に黒いシルエットの岬と、その上に飛び出ている灯台を、一瞬のうちにアングルして、撮った。目の端、頭の中に、少しオレンジ色っぽい、傾いだ灯台と、ひばりちゃんの白黒写真がフラッシュした。なるほど、この碑は、灯台がちゃんと写り込むような位置に設置されていたんだ。

<灯台紀行旅日誌>と<花写真の撮影記録>
<灯台>と<花>の撮影記録

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