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<灯台紀行・旅日誌>2020年度版

<灯台紀行・旅日誌>2020 福島・茨城編#6

塩屋埼灯台撮影2

ところで、塩屋埼灯台は参観灯台といって、登れる灯台である。だが、今回も、登らなかった。理由は三つだな。ひとつ、登るのが大変。螺旋階段が急なうえに狭い。カメラバックが邪魔になるんだ。二つ目、観光客が多くて、密になる。三つ目、灯台からの眺めは、おそらく最高だろうが、自然の景観は、すでに満喫している。これ以上はノーサンキュー。それに、高い所がやや苦手。

さらに付け加えれば、観光に来ているんじゃない、写真を撮りに来ているんだ、という気持ちがどこかにある。まだ仕事?が残っているわけで、今度は、階段道を下りながら、海沿いの柵側から、撮り歩き、というか、撮りながら後退していった。結果としては、もっと悪かった。まったく写真にならん。とはいえ、時間には余裕があった。このまま、あっさり、灯台を下りるのも何となく、もったいないような気がした。そうだ、子供たちの灯台の絵を写真に収めて、帰ったらゆっくり見よう。というわけで、ワンカットに、三枚くらいおさめて、順次、撮り始めた。

ところが、柵の両側に、それも、思いのほかたくさんあったので、撮るのに骨が折れた。絵の飾ってある位置が、目線より低いので、その度、片膝をついて撮らざるを得なかった。途中でやめてもいいのだけれども、やり始めたことを最後までやり遂げたかった。つまらん意地を張ってしまったわけだ。ま、たしかに、子供たちの絵は、素朴で楽しい。色使いも鮮やかだ。もっとも、先生が?そういう絵を選んだのだろう。ということは、幼い目に、というよりは、一般的に、人間の目に、灯台がどのように映っているのか、というふうに考えてもいいわけだ。なるほど、興味を持った所以である。

残念ながら、帰宅後も、子供たちの絵をちゃんとは見ていない。というのも、この旅日誌と、千枚を越える撮影画像の選択や補正に追われているからだ。誰に追われているのかって、自分にだ。この二つの仕事?を終わらせない限りは、次の旅には出ないと決めている。むろん、決めているのも自分だ。

話しを戻そう。とにかく、最後の方はうんざりしながらも、柵に並べられた子供たちの絵を、すべて撮り終えた。もっとも、海側の絵は、デイライト撮影したから、絵に光が映り込んで、見づらくなったものもある。だが、そのくらいの手抜きは、勘弁してもらおう。

受付の裏というか、横に展示室のような部屋があった。通路際のドアが開いたままなので、何となく、二、三歩中へと踏みこんだ。うす暗い感じで、人が何人かいた。<蜜>になるのも嫌だったし、それに、資料などを見る気分でもなかったので、すぐに出た。まあ、灯台には登らない、展示室も見ない、ただただ、灯台の写真撮影のことしか頭になかったわけだ。

それでも、一息入れる余裕はある。何と言っても、体が資本だからね。敷地内の端の方、海に面した柵際の屋根付き休憩場へ行った。一番手前のテーブルに、カメラバックをおろし、ベンチに腰かけたかも知れない。よくは覚えていない。ただ、三つあるテーブルの上に、何やら、張り紙ある。要するに、コロナ禍の中、ここで食事をするのはやめてください、それでもやるのなら、<自己責任でお願いします>とのこと。なにか、ちょっと引っかかった。最後の<自己責任云々>の文字は必要なのだろうか、と。

アルミの門をくぐって、敷地を出た。何と言うか、正確には、敷地外敷地とでもいうべきか、おそらく、灯台撮影のベストポジションであろう場所に、今一度立ち寄った。柵の向こうは断崖で、岬の上に立つ白い灯台のほぼ全景が、横から見える場所だ。だが、来た時と同じ、いや、もっと悪かったかもしれない。逆光、それに背景の空には、うろこ雲がびっしり。青空はほとんど見えない。二、三枚撮って、踵を返した。ある意味では、灯台の全ての敷地?を後にして、階段を下りた。下りは楽だった。あっという間だった。

駐車場に降り立った。海辺側の、コンクリ階段を五、六段下りると、見るからに汚い公衆便所があった。ま、そういうことは、考えないことにして、用を足した。ジーンズの前のチャックが、ちゃんとしまっているか、半ば無意識のうちに確かめたと思う。そう、なぜか、このジーンズ、閉めたつもりが開いていることがあるのだ。<社会の窓>が、もう死語かな、開いているのほど、おかしなことはない。それも、ちゃんとした服装をしていればいるほど、そのおかしさは増大する。おそらく、一度ならずとも、自分も笑われたことがあるに違いない。もっとも、親切心を出して、見ず知らずの人に、あいてますよ、と言うのも変だろう。自分も、これまでに、注意されたことはない。

え~と、薄暗い、臭い公衆便所を出た。ふと、見上げると、切り立った断崖の上に、灯台が少し見えた。もう少しよく見える位置があるはずだ。砂浜の方へぶらぶら行った。小さな船溜まりがあり、砂浜とは、低い防波堤で区切られていた。その先端の方には、釣り人が何人かいた。船溜まりの手前で止まった。まるっきりの逆光だった。灯台の、ちょうど頭の上あたりに太陽がある。写真は無理だ。振り返って、高い防潮堤に守られている、砂浜の方を見た。あとで、明かりの具合がよくなったら、あっちの方にも行ってみようと思った。

引き返した。どこからともなく、歌声が聞こえてきた。もちろん、ひばりちゃんの<みだれ髪>だ。駐車場に上がった。海側の柵の前に、立派な碑と大きな写真看板がある。迷うことなく、一枚だけ撮った。だが、碑や看板には、それ以上近づかず、掲載されている写真や文字もみなかった。何しろ、今の関心は<灯台>なのだ。ただ、心地よい海風の中、かすかに聞こえてくる歌声に、一瞬耳を傾けた。<淡谷のり子>のような歌声だなと思った。それに、たしかに、最果ての岬にはぴったりだ。やぼったい、貧乏だった昭和の時代を思い出したのかもしれない。

車に戻った。たしか、着替えたと思う。背中が汗びっしょりだった。そのあと、駐車場を出て、海沿いの広い道を走った。行先は、塩屋埼灯台から見えた、海の中の白い防波堤灯台だ。来るときに、<賽の河原>という看板があり、面白そうだと思った。方向としては、同じだ。右折して、うねうね走っていくと、何となく行き止まり。右手を見上げると、岬の上に、墓石のような、石仏のようなものがたくさん見える。<賽の河原>なのだろう。だが、どのように行くのか見当もつかない。それに、お目当ては、防波堤灯台なのだ。

回転して、今来た道を戻った。カンを働かせて、工事中のだだっ広いところを走っていくと、漁港らしきものが見えた。ちょこんと灯台の頭も見える。中に入っていくと、けっこう車が止まっている。係船岸壁が釣り場になっていて、釣り人がたくさんいる。たらたら、辺りを見ながら走って、突き当りの防波堤の前まで行った。辺りに車がたくさん止まっているので、かまわず駐車した。

カメラを持って、背丈以上ある防波堤の前に立った。都合の良いことに、短い梯子が立てかけてある。上には釣り人が何人かいた。臆することなく、まず、カメラを防波堤の上に置き、身軽になって、その梯子を上った。ま、カメラを落とさないように、用心したのだ。防波堤は、何というか、海に向かって、コの字型に伸びていて、その先端に灯台がある。もっとも、登ったすぐ横に金網があり、仕切られている。要するに、そこから先は立ち入り禁止で、灯台には近づけないのだ。いや、灯台の根本あたりに、何人か釣り人がいるぞ。

まあいい。金網の反対方向へ向き直り、お決まりの、歩き撮りだ。明かりの具合も良く、いい天気だった。と、女性が一人、座りこんで釣り糸を垂れている。タバコを吸っているらしく、臭いが、どこからともなくしてくる。ちらっとみたら、おばさんではあるが、どことなくあか抜けている。ま、言ってみれば、さばけた感じの、美人だった。一人で来ている筈はないと思った。一応、防波堤上での、ベストポジションを見つけて、何枚も写真を撮った。灯台の根本に釣り人がいて、映り込んでしまうのが、気になったのだ。

ところで、この時点では、この防波堤灯台の名前を知らなかった。ちなみに、今調べました。<豊間港沼之内沖防波堤灯台>。ただ、あの時も思ったのだが、ペアである<赤い防波堤灯台>が、見当たらない。今一度、ネットでよく見ている、二つの<灯台サイト>で確かめたが、それらしきものの記載はない。防波堤灯台が、白と赤のペアであるということを知ってからは、知らず知らずのうちに、白の相手の赤、赤の相手の白が気になるようになっていた。

ある程度のところまで行って、引き返してきた。防波堤を下りようとしたら、すぐそばにいた釣り人が、金網をうまくかわして、向こう側の堤防に飛び移った。なるほど、手で金網をつかんで体を支え、右足を脇にあるテトラポットの尖った部分におき、そこを支点に回転しながら、向こう側に飛び移るわけだ。やってやれないこともないなと思った。しかし、以下三つばかりの理由で、実行しなかった。カメラを首から下げているわけで、身軽に飛び移るわけにもいかない。爺だしね。それから、灯台の根本には、依然として釣り人がいるのだし、写真的にも、ベストポジションではないような感じがする。

それに何よりも、立ち入り禁止だ。先日、テレビで見た、立禁の堤防に出入りする釣り人の映像を思い出した。自分が釣り人で、よく釣れるのがわかっているなら、そして、みんなやっているのなら、金網や柵を乗り越えるだろう。だが、モノになるかならないか、おそらくロクな写真しか撮れないだろう。そんなことのために、わざわざ、多少の危険を冒し、多少の罪悪感を感じながら、立禁の網を乗り越えることもあるまい。と、大人の判断をしたのだ。

先ほどの、中年のさばけた美人は、同じ場所で釣り糸と垂れていた。そばに大柄な、黒っぽいオヤジがいて、何か話しかけていた。連れではないなと思った。

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