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第十回星新一賞を頂きました

 第10回星新一賞で一般部門のグランプリを頂きました。「楕円軌道の精霊たち」という作品です。グランプリを頂くのは昨年に続いて二度目で、初防衛戦に勝利ということになります。また一年間チャンピオンベルトを巻かせて頂きますので、どうぞよろしくお願いします。

 昨年受賞した際にもNOTEに記事を書きましたが、昨年の受賞作「リンネウス」は、自分の専門分野に近い生態学をベースとして発想したもので、また落選作のワンシーンを繋ぎ合わせるようにつくった作品だったため、あまり苦労せず、スムーズに書くことができました。

 それに対して、今年の受賞作は生物モノではなく「宇宙モノ」もしくは「仮想現実モノ」で、物語の骨組みをつくるに当たっていろいろと調べなければならない事柄が多く、書き上げるのに苦労しました。
 子供の頃から天体観測が好きでしたので、宇宙関連はまったく知らない分野ではないのですが、特に今回は審査員に元宇宙飛行士の野口聡一さんがいらしたので、宇宙の描写についてあんまり適当なことを書くわけにはいかず、また軌道エレベーターやライフログなどのハードSF的なガジェットを扱うとなるとディテールの下調べが必要でした。ネットを漁れば科学解説系のサイトはいくつもありますが、数式が出てくるだけで脳がフリーズするなんちゃって理系の自分にはそうした資料を読み込むだけでも苦痛で、不十分な知識のまま見切り発車的に書き進めてしまった部分も実はあります。なので、こうしてどうにか受賞作として世に出せたことで、今はただ、苦労が報われたな、頑張った甲斐があったな、という気持ちで一杯です。

 本作の舞台であるプアプア島は架空の島です。タヒチやハワイあたりのポリネシアや、マレーシアの民俗も一部参考にしていますが、基本は南太平洋のツバル(エリス諸島)をモデルにしています。地球温暖化による海面上昇によって沈みゆく島として有名ですね。
 南の島っぽさを出すためにネーミングや習俗については色々調べました。
 例えば、作中に登場するファッカラは、ツバルで実際に行われているお祭り(ツバル語で「ファカラ fakala」)から採りましたし、「ティキ神」にまつわる創世神話は多少アレンジしましたが実在のものです(ティキ神でなく、半神半人の英雄マーウィが釣り上げたとする伝説もあるようです)。ハワイではティキ神の木彫りの像がお土産物としてよく売られているそうなので、この名前にピンときた方もいらっしゃるかもしれませんね。
 ちなみに、「プアプア」という島名はツバルの二代目首相のお名前から拝借しました。島の人々の名前はポリネシアン系の有名人(スポーツ選手とか)の名前を参考に、読みやすさや文字数を考慮して付けています。こんなふうに、小説の中でリアリティのある異国情緒を出すのは、けっこう大変なんですよ。

 一つだけ宣伝を。
 本作はもともと谷脇栗太さま編のアンソロジー『貝楼諸島より/貝楼諸島へ』に寄稿するために書き始めたものですが、規定文字数の関係で断念し、星新一賞への応募に回しました。私は若い頃から長く小笠原諸島で仕事をしていましたし、奄美の属島や大東諸島にも複数回行っており、熱帯の自然や風俗には強いシンパシーを感じています。上記のアンソロジーには熱帯の島々を舞台にしたSF掌編「天狗と少女の家」を掲載して頂いてますので、是非、お手に取ってみてください。

 あ、これも言っておかないと。
 著者略歴のところにもちょっとだけ書きましたが、SF作家の菅浩江先生(日本SF大賞など受賞歴多数)が主催する小説創作講座とはコレ⇩のことです。作家を目指してたり目指してなかったりする若い人や若くない人が集う場ですので、これについても、もしご興味がありましたら覗いてみてください。

 


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