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さなコン2024の最終審査をしました

 「日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト2024」(通称さなコン)で最終審査員を拝命しました。5月にデビューしたばかりのド新人がコンテストの審査員とか生意気にもほどがあるだろうと思わないでもないですが、せっかくお声がけ頂きましたし、第一回で特別審査員賞を頂いたご縁のあるコンテストということで、私などでお役に立つならとお引受けしました。

 私の他の審査員は、粕谷知世先生、久美沙織先生、柴田勝家先生、図子慧先生です。皆さん名だたるベテラン作家の方々です。選考会はリモートで行われました。新人風情がとんちんかんなことを口走ったらいけないと大変緊張しましたが、皆さんとてもフレンドリーで、先生方それぞれの文学観や、「よい小説」とは何かについてのお考えを伺うことができました。また候補作を読んで自分が感じたことや考えたことを、別の角度から解き明かして頂けたのは貴重な経験でした。作品に真剣に向き合い、その評価を議論することは、翻って自分の創作姿勢を見つめ直す機会にもなります。このことだけでも審査員をお引受けして良かったと思います。コンテストは、落ちても、受かっても、審査しても、何らかの形で私に気づきを与え、成長させてくれるのです。

 既に公式発表がありましたが、正賞に相当する「さなコン賞」は秋待諷月さんの「花が咲いた日」が受賞しました。最終候補作21作のうち、これは私が迷うこと無く最も強く推した作品で、正直、一万字のショートショートとしての完成度は突出していたと思います。もし他の審査員の賛同が得られなければ私名義の審査員賞として推薦しようと思っていましたが、蓋を開けてみると、選考会の場で五人中三人が正賞に推すという高評価で、やはり私の目に狂いはなかったなと、ほっと胸をなで下ろしたのでした。

 私名義の審査員賞である「関元聡賞」には、珠宮フジ子さんの「魔女の遺言」を推薦しました。これも素晴らしい作品でした。確かにSFとしては弱いですし、いろいろ説明不足の部分もあります。エンタメとして大きな事件が起こるわけでもありません。ですがそういう教科書的な欠点を補って余りある魅力を本作には感じました。作品自体が醸し出すたたずまいというか、静謐さというか、情感を抑えた端正な筆致が淡く凛とした輝きを放ち、それは何度読んでも色褪せることがありませんでした。おそらく一般受けはしないと思います。ですがある意味、私が書きたいと思っている小説の方向性と近い部分があり、そこにシンパシーを感じたのかもしれません。

 ちなみに、今回の五人の審査員の中で評価が真反対になった作品がいくつかありました。それぞれ小説に対して大事にしている要素が異なり、また好みの問題もあって、たとえベテラン同士であっても評価が分かれるのです。でもそこが審査の難しいところであり、面白いところなのだと思います。コンテストの当落は作品の絶対的な評価ではありません。特にこうした課題のあるコンテストでは、どうしてもそれをクリアすることが足かせになって、作品の完成度を下げてしまう可能性があります。せっかく下りてきたアイデアです。冒頭を変えるなり、尺を伸ばすなりして納得のいくまで改稿し、別のコンテストに応募してみるのもよいかもしれませんね。

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