その日は、なんとも不気味な休日だった。朝はいつもより少しだけ遅く目覚める。急ぐことなく、ナメクジが殻に入るときのように、ゆっくりと私服に身体を通す。ベッドから降り、カーテンを開く。燦々と降る日光を目を細めながら眺め、朝の空気をあくびで補給する。空にはカラスが飛び、私には目もくれず何処かへ飛び去ってしまう。こんなに美しい朝が他にあるだろうか、と自問自答しながら、朝の支度を終わらせる。ポエマー思考の自分を笑いながら。 家を出る頃には、既に太陽が昇りきっていた。雲はまばらで、
男が砂漠を必死の形相で歩いている。既に長時間歩き、足取りは重い。首に手を当て、痛い程の喉の乾きを感じている。辺り一帯を男は見回すが、あるのは砂と太陽と男が連れてきたラクダだけである。金品を大量に積んだラクダは余裕そうな表情で舌を舐める。 「どうして、国内一の大富豪と呼ばれたこの私がこんな間抜け面のラクダとこの砂の中を歩き続けなくてはならんのだ。私はただ、資源はあるのに知性の無いこの国の視察に来ただけなのに」 男の嘆きにラクダは首をかしげる。しかし間抜け面のままだ。こ
~今日で人類妖精友好協定から10年。友好記念公園で記念セレモニーが執り行われました。両種族の首相は今後のより一層の発展と友好関係を宣言しました。また、我々人類は今後の更なる友好の象徴としてモニュメントを贈りました。さて時刻はプチッ 「なあアペル。モニュメントってのはあのピンク色のダサいやつのことか?それともあの灰色の筒のことか?」 「ははっ。皮肉だが、後者だろうな。」 羽を震わせながら若い妖精のアペルとエペルは笑いあう。 「さて時間だ。行くか。」 2人は淡緑の水仙でできた扉を
流心川は激流で有名だった。 それでいて穏やかであると有名だった。 流心川を訪れた男はこう言った。 「元々全然あの川にいくつもりなんてなくてさ。ほんとは奥の森に入ってくつもりだったんだよ。けどさ気づいたら川に踏みいっててさ。自分でもよくわかんないんだよ。まぁそれはともかく川を見てみたらさ、すっごい流れなのよ。橋の上から川を見下ろしてたんだけどさ、ごうごう良いながら橋の…何て言うの?支柱、に水がぶつかってきてさ、すっごい怖かったのよ。なんかこのままこの川に引き込まれるんじゃない
「先生、今日は何を教えてくださるのですか?」 生徒が聞くと、先生は微笑んだ。 「そろそろ、実際の裁判を見ても問題ないだろう。今日は、裁判を見に行こうか。」 落ち着き払って、まるで生徒を諭すかの様に先生は言った。 先生と生徒はもう一年近くは共にいる。ほとんどの時間を共に過ごし、生徒にとってわからないことがあれば、すぐに先生が答える。そんな生活だった。だから生徒は先生を信頼していたし、先生に分からないことなどない、と思っていた。実際、座学の時間、先生は教科書の全てを教えていた。
私は今、昼下がりの公園を歩いている。 お日様が気持ちいい。 木々は揺れ、鳥が囀ずる。 足に感じる土の感覚を踏みしめ、私は両足を使い、歩みを進めている。 というのはまったくの幻想であり、幻想でありながら私は今体験している。不思議なことをいっているようだが事実なのでしょうがない。 一言で言うなれば、私は今、水槽の脳状態である。 作られた仮想世界に完全にログインし、既に仮想世界の住人として引っ越しも終えている。 さて、まだ仮想世界に入っていない人のために仮想世界の中をレポート
私を見捨てる雨。あの日もこんな雨が降っていた。 私は目的もわからずあぜ道を歩いている。 傘も差さず合羽も着ずに。昨日までおたまじゃくしであった蛙共が私を避けている。雨に濡れた稲がしおれ、とても"恵みの雨"なんて言えない。 それにこんな雨だと言うのに私は靴を履いていない。 それよりもっとひどいのは ずっとべっとりした視線を感じることだ。 何のために歩いているかは思い出せない。 だか、歩みを止め、後ろを振り返ってはならないと本能が告げていた。 もう足の感覚は無くなった。唯