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読了。(邪魅の雫/京極夏彦)

もう既に読んでらっしゃる方は多いと思いますが、内容にめちゃくちゃ触れているのでこれから読もうと思っている方は注意です。念の為。

ぐつぐつ煮えたぎった鍋を急速冷凍する、みたいなオチ…とこの作品を読み終える度に思う。
鍋に次から次から具材が放り込んで、「結局これ、何の鍋作ろうとしてたっけ?」って我に返った瞬間にすごい音を立てて食べられなくなる所までカチンコチンにされる。みたいな。

このシリーズの面白いところって、『姑獲鳥の夏』から始まった新しい物語の中で人物の様相が変わる事だと思ってる。
ただの推理小説と言われればそうで、起こる事件の内容も入り組んでて緻密で、中々一度では理解しにくい道筋を辿っているんやけれど、それだけじゃないというか。

中禅寺秋彦がいて、榎木津礼二郎がいて、関口巽がいる。
基本的にこの3人を中心に回っているようで、物語にはちゃんと別に軸がいる。
この作品の中で憑き物落としが言うてた「世間話」に集約されているような気がした。

大好きな場面が幾つかあって。
(思いついた順なので物語の中としては不順)
○青木くんと木場修が会話する場面。
あーやっぱりこのコンビがしっくりくる…となった。青木くんの力が抜けた感じが垣間見えて、信頼と尊敬とがあるんだなと感じられて好き。

○益田くんと関口くんが喫茶店で会話する場面。
煙草の火を貸す景色が目の前に広がって見えて、なんて事ないこういうワンシーンが世界観の現実味を帯びさせている気がする。

○重要な話を伝えに行ったものの野次馬に負けそうになって、ようよう2人がロープを潜る場面。
関口くんの手を引いた益田くんにグッときた。この作品を通してやけれど、もみくちゃになってそれどころじゃなかったやろうに懸命に遂行しようとする益田くんが好き。

○郷嶋さんと青木くんが遣り取りしていた場面。
「坊や」って言うた郷嶋さんの余裕っぷりと、渡り合おうとする青木くんの懸命さが格好良かった。独特の色気のある場面やったなと。

○関口くんが榎さんに「言えないのか」と言及した場面。
益田くん視点だったからこそ、同じような感覚で読めたというか。らしくないと言えばらしくなく、なりふり構っていられない余裕のなさと、"友人"としてあろうとする関口くんの言葉に涙腺が緩んだ…。

○榎さんと益田くんが平塚署で会話する場面。
今までの作品でも百器徒然袋でも感じたけれど、榎さんの持つ元来の混じりっけのない純粋さのようなものをより強く感じた。言葉足らずで、でも心配していて、申し訳ない気持ちもあって、それが「教えないよ」「お前は探偵見習いなんだな」の台詞に繋がるのが不器用で最上級の優しさなのが辛かった。
益田に「泣いている」って言うのって、榎さんだけなんよ…普段からちゃんと見てるんだなあと思う。

○京極堂が登場する場面。
どの作品でもそうだけれど、色んな人の視点で表現される「漆黒」が耽美だなと思う。

○神崎宏美の独白の場面。
最後の最後。
西田先生の絵が好きだったという言葉に、読んでいる私が救われた気がした。でもどこか救われた気がするのは私だけなんやと思ったら苦しかった。
榎さんの「素直じゃないな」は今までの行動全てに吐かれた言葉で、最大限の詰る為の言葉だったような。
「僕は君が嫌いだ」
は、中禅寺秋彦が榎さんに言わせたくなかった言葉やろうし、それも分かってたんかなとか。「けじめ」の為に、榎さんは言わなあかんかった訳で。それは神崎宏美の為でもあって、今まで犠牲になってきた人たちへの手向けにもなったような。
「自分が中心」である事と「自分の所為」はまるで違うもので、旧友は榎さんがどう感じる性質の持ち主かという事も粗方検討がついていたからこそ、躍起になった感じもする。
色彩や表情まで浮かんでくるような描写が印象的で、辛いし苦しかったけれど好きな場面。

大仁田くん、原田美咲、あやめ、西田先生の「宇都木実菜」の推理のシーン、もう何回読み直しても頭抱えてしまう…
待って待って待って、もう1回言うて…って読みながら呟いてしまうくらいには混乱する。
それぞれのキャラクターが生きてて好きな場面でもあるけれども。

とりとめなくなってしまった。
京極先生作品の読了してからの後味もすごく好き。
読んでいる最中に感じる苛立ちとか遣る瀬無さとか息苦しさとか虚しさも、別世界に没入できて好き。
面白かった!!

以上です。

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