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短編 self-conscious

制服のポケットに手を突っ込んで歩いた。
11月の朝。まじ、さみーよ。

昨日のバスケのムーブはやく試してえ。
お前だいぶ引いたくない?腫れ。

ラジオきいた?きいた、きいてねーよまだ。
あいつスマホでファンザ見れるらしいぞ、うそマジかよ。


しもず橋の稲荷様に頭下げる四人。
南校舎左はじ、吹奏部の音合わせ。
いつもの朝。いつもの会話。

やべー先輩先に来てるくね??
いいっしょ、別に。
なんだっけ、さっきの。
後で送るわ。おう。


廊下の花瓶のシクラメンの花
あん時に比べてだいぶ枯れている

 

先週、中間試験の最終日に上尾に呼びとめられた。廊下にはたまたま誰もいなかった。

あんた誰か好きな人いんの?ってパターンを期待してた。でもそうじゃなかった。

中三の先輩に目、つけられてるよ。
ダレ先輩?
サッカー部らへんじゃないの?
きちー、

なんで、教えてくれたのって聞こうとすると、上尾が、俺の腕をもって、
自分の胸の上に置いた。
なんでって、ところで俺の声は途切れた。

服の上からだけど、おっぱいを初めて触った。目の端でシクラメンが咲き誇っていた。



その20分後、俺はサッカー部の田辺先輩に引きずられていた。
部室に連れていかれて、部屋に入るとジュンさんと坂野さんもいた。

お腹を殴られて、ぷしゃーと嘔吐する。
そして、そのまま頭をぐっと押さえつけられて、地面に顔面を押し付けられる。吐しゃ物の上に。
それをスマホで写真に撮っている。
頭を上げようと力を入れようとした瞬間、顔面に衝撃が走る。
思いっきり蹴られて、顎のあたりがじんじんする。
瞬間、何が起こったのか理解できず、口から歯が2本落ちてきて、その後を追うように、血の塊がゴボッと垂れてきた。
その時には抵抗する気も失せ、この惨劇が早く終わって欲しいと願うフェーズに移行していた。


田辺先輩は、二中でも一番の暴れ者で、こうした暴力はよくあるのだ。

俺たちはただ、嵐が過ぎ去るのを待つしかない。

今回はたまたま俺が選ばれただけで、特に理由なんてない。

誰かが順番に罰をうけるシステムなのだ。


吐しゃ物の上で引きずり回される俺は、そこで、上尾の優しさを知る。

上尾はきっと天秤にかけたのだ。この惨劇が起こることを知って、それと同等くらいの幸せを俺に事前に与えてくれたのだ。それがおっぱいだったのだ。

つまり貸し借りゼロ、俺は何も得てないかわりに何も失っていない。

俺は田辺先輩の荒い鼻息を聞きながら、そんなことを考えていた。


あれから一週間。腫れが引くまで学校を休んで、久しぶりに学校へいくと上尾は転校していた。


上尾は自分のおっぱい分のマイナスを抱えたまま、行ってしまった。

っさけないわ、ほんま(※)
と、暖かい缶コーヒーをおもくそ振る。

まあ、いい。
姉貴にきいた、アマギフ10,000じゃね??を信じて、それを懐に入れ、これから上尾と、夜の、光が丘公園で会う。


イヤホンからはこんな曲が流れていて、
良い予感しかしなかった。

(※)inspired from ダイアン ユースケさん


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